ゲームの悪役貴族に転生した俺、破滅フラグを回避すべく自分磨きをしてたら、いつの間にか【雷帝】と呼ばれてました。

針谷慶太

第1話 悪役貴族に転生しました。


「う、ううん」


 ふいに目が覚めると、俺は見知らぬベッドで寝ていた。

 

 何だか、後頭部がズキズキと痛む。


 そんな俺を、メイド服の女性が心配そうな表情で覗き込む。

 

 この人……どっかで見たことあるな?

 

 えーっと、俺は何をしてたんだっけか。

 確か仕事の帰り道、信号無視の車が飛び出して――。


「――よかったですアスタおぼっちゃまぁぁ、もう目を覚まさないかと思いましたああああ!!」


 俺はメイドに力一杯抱きしめられ、その巨乳に押し潰されそうになる。


 アスタ……その名前には聞き覚えがあった。

 確か、俺の知ってるゲームにそんな名前のキャラがいた。


 真性のクズキャラだったからよく覚えている。

 あの強烈な見た目、嫌でも忘れられない。


「私がわかりますか……おぼっちゃまは階段から転げ落ちてしまったのですよ?」


「へ、アスタ?」


 てゆうか……俺に言ってるのかこれ。

 どうやら誰かと間違えてるらしい。

 

「おいたわしや……頭を打って記憶が混乱しているのですね、貴方様はまごうことなき、クロフォード家次期当主、アスタ・クロフォード様その人であります!」


 メイドは手鏡を見せてくる。

 そこに映るのは、黒いロン毛に、性格を表したような嫌味な目付きの少年。

 

 そうそう、アスタってこんな見た目だったな。


 俺が頷くと、鏡に映ったアスタも頷いた。


 ……へ、まさか?

 

 身体をペタペタ触ると、アスタも同じように繰り返した。


 夢なら覚めて欲しい。

 試しに頬をつねるが、ジンジンとした痛みが現実を告げる。 

 

 鏡を見ると、頬の赤いアスタと再び目が合ってしまう。


 嘘だろ、嘘だろ。

 俺の身に信じられないことが起きている。


 そう、俺はゲームキャラに転生していたのだ。


 それも……。


「――何でよりによってコイツなんだよおおおおおお!?!?」


 最低最悪の悪役貴族、アスタ・クロフォードに。



 ◇



 剣と魔法の異世界を舞台にした、大人気ゲーム【アストラル・フロンティア】、通称アスフロ。


 登場キャラクターには美男美女が多く、多彩なキャラが物語を盛り上げ、攻略ルートも数多く存在する。


 その中には、もちろん悪役もいるわけで。


 アスタ・クロフォード――バリバリの悪役貴族である。 


 このアスタというキャラクター、主人公の学園内での輝かしい活躍に嫉妬し、さまざまな妨害をしてくるのだ。


 まぁよくある嫌われ者キャラだ。


 それにコイツ、とにかくアスフロに出てくるヒロイン全員と関係を結ぼうとするのだ。


 まず、メインヒロインと初対面での一言がこれだ。


『ゲシシ……キミ可愛い顔してるねぇ、よし! ボクちゃんの正妻にしてやるゲシ!』

 

 な、もう分かるだろ?

 最悪だろコイツ。

 豚貴族の分際でこのセリフを言うんだ。

 大体ゲシって何だよ、笑い声にも語尾にも採用されてるし。


 しかもとにかく出番が多い。

 主人公とヒロインが良い雰囲気の時に、何の脈略もなく乱入してきたりする。


 さらにコイツ、主人公に恥をかかせるためだけに、学園で飼育してる魔物を檻から出したりするほどネジが外れている。


 そのせいで、メインヒロインの1人が大怪我を負い、鬱になって自ら命を断つルートが存在する。


 お陰でアスタと検索すると『アスタ ウザイ』『アスタ 人間のクズ』『アスタ 〇す方法』と殺意にまみれたサジェストで埋め尽くされた。


 もはやアスフロを知らなくとも、アスタなら知ってる人がいるほどのネットミームと化した。


 そして、アスタには一切の和解ルートが存在せず、最終的に絶対に殺されるのだ。

 敵キャラの魔族でも味方になるヤツはいるのに、コイツにはマジで何もない。

 散々プレイヤーのヘイトを溜めた結果、免れない死が用意されたわけだ。


 あるルートでは主人公に殺され、別のルートではヒロインや魔族に、ドラゴンに丸かじりされて死ぬルートもある。


 正に因果応報である。


 後に、アスタをデザインした開発陣は「いやぁ〜熱が入って、つい出番増やしちゃいました笑」と呟きを残した。


 これがプチ炎上に繋がり、公式ツ〇ッターアカウントは一時期凍結した。



 分かりやすいヘイトキャラとして作られた悲しいモンスター、それがアスタなのである。



「そりゃないってぇ」


 俺は姿見で自らを確認しながら言った。

 今の年齢は13〜14歳ってところか。

 つまり本編開始前、舞台の学園にはまだ通ってないはずだ。


 今も充分嫌味な顔だが、本来のアスタはもっとキツイデザインだ。


 やがて無惨に死ぬ運命、か。



 ……待てよ。



「もしかして、あれ・・使えるのかな?」


 俺は右手に意識を集中すると、手からパチパチと小さな電気が走る。


「やっぱり持ってるのか……【属性魔力】!」


 属性魔力――それは魔力自体に属性が練られているぶっ壊れシステムだ。

 

 ゲームシステム的に言えば、炎の属性魔力を持つキャラが炎魔法を使えば、低級でもかなり強い魔法となる。


 アスフロ内でも属性魔力を持つキャラは極めて少なく、大抵が宮廷魔導師やSランク冒険者だったりする。


 ちなみに、アスタの属性魔力は雷である。

 

 何故……こんな嫌われ者の悪役貴族なんかに備わってるかって?


 それは、初期案ではアスタが雷の属性魔力を使うキャラだったらしい。


 しかし『カッコいいイメージの雷を悪役貴族が使うのは勿体ない』ということで、開発途中で別のキャラに当てがわれた。


 その時の名残が、解析データとして残されたわけだ。


「良かった〜これさえあれば何とかなるかも!」


 俺は安心を覚えた。

 待ち受ける破滅フラグの回避するには、本編みたいなクズムーブをしなきゃいい。


 これはクリアしたようなもの、てゆーかやろうと思わん。

 

 それに、本編のアスタはサボり魔だった。

 俺(アスタ)が真面目に努力すれば、主人公まではいかないにしろ、属性魔力のお陰で強くなるかも!


 

「よし」



 真っ当に生きてやる。


 全てのアスタアンチが黙り込み、0.01割のアスタ推しが歓喜するような、そんな生き方を。


 悲惨な結末なんてまっぴらだ。

 俺の人生になった以上、俺が変えてやるんだ……!


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