再会

とろり。

再会


 星を見るために深夜に散歩をする男。いつものあのお気に入りの丘まであと少し。

 道の途中、ひとりの少女が佇んでいた。


「この世界は好きですか?」


 誰かに問いかけているようだ。男は隣から「お前も嫌いなのか?」と声をかける。

「……」

「俺はこの世界が嫌いなんだ。愛する人とその娘の命を奪われたから。ただ惰性のように生きているだけ。現実から逃げるように深夜にあの星を見るためにここに来る」

 少女は少し悲しそうに「私は好きです。まだパパがいるから」と返す。

「そう……」

「パパが星を見るのが好きだから、私も星を見たくてここに来た。きれいだよね、星。きらきら光ってるよ。パパが星を見る理由がわかる」



 単純だった。簡単なことだった。

 大きくなったらもっともっと幸せになれる気がする。

 日々の小さな幸せが私の心の中に積もり、優しい涙の雨でそれは深みを増していくような気がする。



 あの日、私とパパの突然の別れ。さよならも言えずに、痛みの中死んでいった私。

 病院に駆けつけたパパは、息をしていない私を見て泣いた。医者にお願いをしても、神に祈っても願いは叶わなかった。


 田舎に帰り、実家の仕事を継いだパパは、深夜に星を見るために散歩をするようになった。いつも星、いや、空に還ってしまった私を見ている。そして私自身も……。

 幾億と離れてしまった私とパパの距離を星の光がつなぐ。私の思い出とパパの思い出が交差し、記憶が生まれる。私はその世界で生きている。



 今日はパパに出会えてよかった。声をかけてもらえないかもと不安だったけど、声をかけてくれた。優しいパパのことだから深夜にうろつく私を放っては置けないんだね。

 そろそろ還る時間。夜が明けるまでとの約束。私はパパに微笑み、背を向ける。涙は見せない。だってパパを悲しませるから。楽しいままの思い出を心の中に刻んで欲しいから。


 さようなら、パパ



 男は、やんわりと消えていく少女の姿を見ていた。その姿はもう消えてしまったというのに、残像が目に残る。


 夜空を見上げると、星が輝いていた。ひときわ輝くあの星は娘なのだろうか。

 再び会えるその日まで、今を生き抜くことを誓った。そして、愛する人の幸せを、娘の幸せを、祈り続けた。




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再会 とろり。 @towanosakura

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