4-2 「おかしなことを言うんじゃなぇよ!何かあったよね!原稿を捨て置いて逃げないよな?それとも若いイケメンが好きで相手を満足させられないのが怖いんだろう?」

 彼はスマホを取り、画面に表示されている林有思の名前が見えた。少し驚いて、通話ボタンを押して尋ねた。「老思、どうしたの?変な時間に電話して」

「この時間まで仕事していたから」

 林有思が答え、そして大きなあくびをしてから話を続けた。「お知らせだけど、『ベランダのポトスは騒ぎすぎ』のドイツ、フランス、イタリアでの翻訳出版権が売れたよ」

「おめでとう、それで僕は八十歳までニートで居てもいい?」

「今まで滞納した原稿を全て提出してくれたらね。締切まではあと二週間だけど、進捗はどう?」

「……」

「返事がなければ、間に合うことにするね」

「できるけど……」

 冀楓晩は最後の声を伸ばし、しばらく止まってから言った。「多分、あと一ヶ月かかる」

「じゃあ、あと一ヶ月ね」

「僕を倉庫に閉じ込めたら……今何て言った?」

「締切は一ヶ月延長する」

 林有思は冷静に答えた。数秒を待っても冀楓晩の返事を聞こえず、彼は地球の反対側で眉をひそめて尋ねた。「どう?足りないと思ってる?」

「足りるけど、ただ……」

 冀楓晩は真剣に尋ねた。「お前は本当に僕の担当編集林有思なの?声が彼に似ている詐欺師か宇宙人じゃないの?」

 林有思は二秒ほど沈黙し、すぐに冀楓晩がスマホを遠くに離す必要があるほど怒鳴った。「お前こそ詐欺師と宇宙人だ!良心がないこのクソ作家、このあとすぐ空港へ行って帰国してお前を出版社の倉庫に閉じ込めるぞ!」

「今の音量と勢いだと……お前は林有思に違いない」

「頭からつま先まで林有思だよ」

 林有思は冷たく答え、少し話を止めてからリラックスした口調で言った。「よかった。お前の声は前回会った時よりも元気だ」

 冀楓晩は少し立ち止まり、無意識に視線を正面から逸らした。「はっきり言わせてもらうけど、僕はいつも元気がない」

「そうだけど、前は回光返照のように元気がなかった」

「……お前の国語の授業は体育の先生がやったのか?」

「俺が言いたいのは、前のお前は、周りの人を安心させるために無理矢理元気を出して、死にかけの人のように見えた」

 林有思は再び怒鳴り、そして息を吐いた。「とにかく、大丈夫ならいい。ところで、今更だけど、俺が送った誕生日プレゼントは届いた?」

「はい」

 冀楓晩の視線をリビングに向け、小未の横顔を見て言った。「お金を使いすぎたよ。奥さんが怒るよ」

「まあまあだけど、ただ注文するときはスピード勝負だよ」

 林有思の側からページをめくる音がし、数秒沈黙した後、「気に入った?」と尋ね続けた。

 スマホを持っている冀楓晩の手がわずかに震え、ベッドの真ん中に自分のシャツを着て失神状態で横たわっていたアンドロイドの画面が頭に浮かび、喉仏を動かせた。「そこそこ」

「じゃあ、来年と次の三大祝日は同じメーカーのやつを送るよ」

「そんなものは一回でいいよ」

「……嫌なら断ってよ」

「嫌じゃないよ」

 冀楓晩は少し音量を上げ、小未が足を組んでいるのを見て、雪色の素足は太陽の下でツヤツヤして、彼の心の琴線が引き締められたようだった。「多すぎると、耐えられない」

「耐えられないって……そうだよね。お前は運動習慣のないオタクだから」

「今毎日ジョギングと筋トレしているよ」

 冀楓晩が口を開くとすぐに、自分がやってしまったことに気づき、焦りながら話題を変えようとしたとき、耳元に感嘆の声が聞こえた。

「本当に?なんで?」

「健康のために」冀楓晩は無表情に嘘をついた。

「おかしなことを言うんじゃなぇよ!何かあったよね!原稿を捨て置いて逃げないよな?それとも若いイケメンが好きで相手を満足させられないのが怖いんだろう?」

 ──どうしてこんなに正確に当てるんだよ!

 冀楓晩は心の中で叫んだが、感情をうまくブロックし、 百パーセントの冷静さで言った。「考えすぎだ。本当に健康のためだよ。人間は三十才過ぎると健康を無駄使いする余裕がない」

「嘘だと思うけど証拠がない……まあ、いいか。動機は別として、運動はいいことだ。正直なところ、前の状態があまりにも悪い。自暴自棄で喫煙、飲酒と性交に依存するんじゃないかと心配したよ」

「……」

「ヨーロッパの出版社は思ったより積極的で、スケジュールを一週間伸ばッ、ふわーぁ──」

 林有思は大きなあくびをして、ぼんやりと言った。「すよ……用があれば小玉シャオユーに連絡して」

「僕は大丈夫、お前は早く寝ろ」

「寝たいけど、出版社が……ふわーぁ──」

「ベッドへ行け、林大編集長」

「ちょっと寝る……締切と月末に実写の制作側との食事会を忘れないでよ」

「はいはいはい、おやすみ」

 冀楓晩は電話を切り、椅子にもたれかかって目を閉じた。

 よかった。一度口が滑ったが、林有思は彼が自分の誕生日プレゼントとセックスしたことに気づいてなかった。相手の反応から見ると、銀行からのクレジットカードが上限に達したという知らせを受け取ってもいないようだった。あとは小未に言わせないだけにすると……

「昨日も、今日も、明日もずっと遊ぼう!」

 喜びに満ちた言葉と活発な音楽が冀楓晩の耳に響き、彼の肩が急に引き締まり、目を開けて音源に向けた。

 音源の元はテレビだった。四角い画面に広告が放送され、まずは大笑いしている子供たちと観覧車が登場し、次に海洋生物バージョンのメリーゴーラウンド、キャンディーカラーのモノレール列車、惑星型のリフトなど……たくさんのレジャー施設の動画編集が現れた後、「カラフルパーク、リニューアルオープン!」の文字が飛び出した。

「カラフルパーク……」

 小未は金粉をまとった大きな文字を繰り返し、急に腰を伸ばし、画面を指差して冀楓晩の方を向いて尋ねた。「楓晩さん、これは『武道秘伝書三冊五十元でネギ付き』と『合金スーツケース』に登場した遊園地ですか?」

「そうです」

 冀楓晩は少し震えながら、オムレツを切るふりをして俯き、「『どうしてこいつが人気なの』の放送が終わった?」と尋ねた。

「あと十三分です。カラフルパークに行ったことありますか?」

「中学と高校時代はよく行ってた」

「よく行かれましたか?面白いですか?」

「別に面白いわけでもつまらないわけでもない。ただ中学生や高校生向けお手頃価格な遊園地だ」

 冀楓晩は肩をすくめ、目の隅から小未の目が輝いているのを見て、胸が塞がって尋ねた。「行きたい?」

「はい!」小未は右手を高く上げ、「楓晩さんの本の世界に入りたい!」と期待を込めて言った。

「それは不可能だ」

「可能ですよ。カラフルパークに行けば……」

「僕が書いたのは、リニューアル前のカラフルパークだった。リニューアルオープンしたのじゃない。比較すると、おそらく、一割から二割しか同じじゃないだろう」

「そんなに低いですか?」小未は目を見開いた。

「それぐらい低いよ」

 冀楓晩はヨーグルトを入れたボウルを手に取り、スプーンでかき混ぜた。「だから行かなくてもいい。本の世界に入りたいなら、変わり果てたカラフルパークに行くよりも、本を出してもう一度読んだほうがいい」

 小未はがっかりして腕を下げて肩を落としたが、すぐに立ち上がり、頷きながら呟いた。「確かにそうですね。楓晩さんの世界はリニューアルした遊園地じゃなくて、楓晩さんの文字の中です。あとで皿を洗ったら『武道秘伝書三冊五十元でネギ付き』と『合金スーツケース』シリーズをもう一度読みます」

「そう思ってくれて、僕もうれしいだ」冀楓晩はヨーグルトをすくい上げ、口に入れた。

「それに、遊園地に行ったら、今日一日楓晩さんとセックスできなくなりますよ」

「ぷっ!」

 冀楓晩は前かがみになり、ヨーグルトを吐き出すところだった。口の端から溢れた乳製品を拭き取り、小未を驚いて見つめ、「なんてばかげたことを言っているんだ!」と言った。

「ばかげたことじゃありません。楓晩さんの体力と遊園地での一人当たりの平均滞在時間から計算した結果です」

 小未は指を使って真剣に計算した。「遊園地は、歩き続けたり、列に並んだり、叫んだりをして多くのエネルギーを消費する場所ですが、楓晩さんは今とても疲れていますし、もし今から行くなら、少なくとも三時間休む必要があり、さらに遊園地に着くまで一時間の移動時間を費やします。入園するとちょうど昼食の時間になりますので、食べるのに一時間、園内でぶらぶらしてレジャー施設で遊ぶのに四時間、全て終えましたらきっとお腹が空いて疲れましたので、夕食に一時間、帰宅するのに一時間かかります。その時はすでに夜七時になり、体力回復するために一時間休憩、そして原稿を書き上げるのに四時間かかります。終わりましたら今日は終わりましたので、もうセックスする力がないですよね」

 冀楓晩は最初に頭の中にパチパチという音を聞いた後、自分の声が耳に響いた。「お出かけの用意をして、九時半に出発する」

「どこへ行きますか?」

「カラフルパーク」

 冀楓晩はボウルに入っているヨーグルトとミックスベリーを二、三口で全部呑み込み、残りの料理も同じ高速で食べた後、立ち上がってソファで呆然とした小未に冷たく言った。「僕の体力はそんなに悪くない」

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