4-1 一週間の耽溺と一週間の内省を経て、彼は天使やサキュバスを追い払う物理的な方法を見つけた。

 早朝の日差しが明るいが暑くないので、アウトドアスポーツに最適である。

 冀楓晩は金色の太陽を浴びながら、歩道に沿って足早にアパートに向かっていた。二つの交差点を超え、アパートの階段を上った。それから、彼は警備室の右側にあるエレベーターに乗らなくて、左に曲がって非常階段を一段飛ばしで、八階まで登った。

 彼の住居は八階の廊下の真ん中にあり、冀楓晩がドアノブに手を置くとすぐに、ドアが自動的に開いた。

 ドアを開けてくれたのが小未だ。彼はエプロンを着てタオルを手に持ち、腕を伸ばして冀楓晩の額の汗を拭いた。「お帰りなさい、楓晩さん。昨日より二分三十七秒も速くなりましたよ」

「信号待ちの回数は一回減ったから」

 冀楓晩は身を屈めてスリッパに履き替え、小未の手からタオルを取って言った。「汗拭きは自分でやる。ガスコンロで何かを作ってるよね?戻って様子を見て。焦げ付きはまだいいけど、火事になったら大問題だよ」

「火を消しました」

 小未は胸を張って誇らしげに答え、冀楓晩を回って言った。「お風呂の用意ができました。背中を洗ってあげましょうか?」

「要らない」

 小未が口を開く前に、冀楓晩は先に言った。「風呂上がったら、ボリュームがあって栄養バランスが良くて温かい朝食を食べたいけど、用意してもらえるかな?」

「ぜひ用意させてください!」小未は目を輝かせ、振り返って百米を全力疾走の速さでキッチンに戻った。

 冀楓晩は安堵のため息をつき、バスルームにタオルを持って行き、汗をたっぷり吸収したスポーツウェアを脱ぎ、汚れを洗い流すためにシャワー室に入った。

 小未は早々に着替えを壁の鉄ラックに置き、そばにレモネードを一緒に置いてくれた。冀楓晩はきれいな服とズボンを身に着け、頭を上げて一気に飲み終わり、空き水筒を手に持ってバスルームを出た。

 冀楓晩がドアを開けたとき、小未は最後一品の料理をダイニングテーブルに持ってきた。アンドロイドはすぐに皿を置き、冀楓晩の側に歩いて来て、椅子を出した。

 冀楓晩は椅子に座り、目の前に並んでいる料理を見た──きのこたっぷりチーズオムレツ、マグロと玉ねぎと全粒粉パンのサンドイッチ、ミックスベリー添えの無糖ギリシャヨーグルト、イタリア風のグリル野菜、彼はフォークでオムレツを切り取って口を入れた。

「味はいかがですか?」小未は緊張した様子で期待を込めて尋ねた。

「とてもおいしい」

 冀楓晩はオムレツを呑み込み、マグロのサンドイッチを手に取って口に入れた。

 誰かが一年前の冀楓晩に、将来自分は朝のランニングのために朝五時に起きて、それからきちんとダイニングテーブルに座り、高タンパクで低炭水化物の健康的な朝食を食べると教えたら、彼は間違いなく相手がキチガイであると思うでしょう。

 しかし、現時点の冀楓晩は、上記の生活スケジュールを実行しているだけでなく、十日連続している。

 それは何故でしょう?彼は突然健康の重要性に気付いた?そう言えるが、そうではないとも言える。

 アンドロイドの技術が成熟した以来、一部の専門家や宗教家は、人々がこのカスタムメイドの人形に過度に熱中し、生きている人に興味を失うことにより、出生率の低下で人間社会の崩壊をもたらすと主張した。冀楓晩はそれに同意しなかった。彼は、人間社会が新生児不足で崩壊する前に、腹上死した人間が多すぎて崩壊すると思っていた。

 その通り、冀楓晩は運動、早寝早起、食生活に気を配り始めた理由は説明し辛い──体力をつけないと小未に全部を絞り出されてしまうのではないかと心配したからだ。

 冀楓晩は好色家ではなく、性行為に関しては一、二週間で思いっきり一回だけやれば十分であり、締切の前だったら二、三ヶ月間は自分で解決することもよくあった。しかし、小未と性交した後の一週間以内に、彼はアンドロイドを九回も抱き、平均一日一回以上だった。

 冀楓晩が性格変化を起こした理由はいくつかある。半年以上の禁欲はその一つであり、小未の体と合いすぎるのも一つで、最も主な理由は……

「楓晩さん、お水はもっと要りますか?」

 楓晩さんはガラスのポットを手に持ち、少し前かがみになり、頭を傾けて冀楓晩に微笑みかけた。彼はフィットしている半袖のシャツと太ももの半分までの短パンを身に着けたせい、長くてほっそりした白い脚はほぼ日光に晒され、胸、腰と尻のラインもかすかに見えていた。

 冀楓晩の喉は少し乾き、一秒静止した後、顔を背けて言った。「バスルームで飲んだ」

「じゃあ、マッサージはどうですか?足でも……」

 小未は冀楓晩の太ももに触れ、足の筋肉に沿って指を這わせ、股間に触れて甘い笑顔で言った。「ここの腫れでも、処理してあげますよ」

 ……最も主な理由は、小未が冀楓晩を誘惑することに非常に積極的あった事だ。

 冀楓晩は誘惑に耐えられない男ではなく、逆に彼はゲイバーで攻めにくいことで知られていた。しかし、小未の誘い方はバーやクラブの人々とは違い、隠れも曖昧もせず、相手が好きな格好に着替えて寄りかかって愛慕をはっきりと示している。

 そうだ。欲念ではない愛慕である。小未の明るい瞳、口角を上げた唇と優しい触れ方には全て愛が刻まれ、純粋で誠実だ。気取らない愛しさとまっすぐな性的な誘いと相まって、まるで天使とサキュバスのような複合体で、冀楓晩に対する殺傷力が驚くほど大きかった。

 でも、冀楓晩は学習能力のある人なので、一週間の耽溺と一週間の内省を経て、彼は天使やサキュバスを追い払う物理的な方法を見つけた。

「僕の『ここ』は腫れてない」

 冀楓晩は小未の手を離し、手に持ったマグロのサンドイッチを口に詰め込み、少し口ごもって言った。「僕の体力は歩道と階段に使い切った。もう『運動』する力がない」

「そんなに疲れているんですか?」

 小未は目を見開き、冀楓晩に寄りかかって言った。「それでは、朝食を終えたら寝ましょう!睡眠促進のアロマをご用意します。カーテンをしっかり閉めて日差しを……」

「もう時間だよ」

「部屋に入らせないように……何の時間ですか?」

「『どうしてこいつが人気なの』の番組放送時間。先週、この番組は僕の特集を今日放送すると言った。僕の忠実な奴隷として、番組側がナンセンスのことを言ってるかどうかを確認する責任があると言ったんじゃない?」

 冀楓晩はテレビの上の時計を指差して言った。「もう七時三十一分、オープニングの曲がもうすぐ終わるよ」

 小未がはっと息をのみ、リビングルームに駆け込んでソファに座り、テレビをつけて、殺意満々で画面を見つめた。

 冀楓晩は安堵のため息をつき、椅子にもたれかかり、朝食を食べ続けようとしたとき、テーブルの隅に置いたスマホが鳴った。

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