3-2 「あなたにこのおみくじ箋をあげたのは神様ではなく、確率だ」

小未はうなずき、冀楓晩を中心に回り、周りを見回して、しゃがみこんで蟻を研究したり、つま先立ちして山から見下ろしたりした。作家が石のテーブルに手をついて立ち上げる時に東屋に戻り、一緒に土地公廟へ向かった。

土地公廟の神主はいないが、入り口の鉄製テーブルに線香と着火器が置かれていた。冀楓晩はテーブルを迂回し、賽銭箱に小銭数枚を入れてからお香を取り、火をつけて小未に渡した。

「お香を持って天公炉に向かって三回拝み、まずは天公に挨拶し、自分の名前と願い事を黙念してから香炉に入れて立たせて、そして中に入って土地公の神像の香炉に同じやり方でもう一度繰り返して」

「はい!」

小未はお香を持って急いで香炉に駆け寄り、三回拝みを二度した後、偶然にテーブルの横にある木筒をちらりと見た。彼はまばたきをして、まだらになった長い木筒を指差して尋ねた。「楓晩さん、それは何ですか?」

「おみくじ」

冀楓晩はポケットに手を入れて木筒の前に来た。「さっき言ったじゃない?神様に聞きたいことがある人。聞く人はおみくじを引いておみくじ箋を取得する。その箋に記されている内容は神様からの答えだね」

「私も引いていいですか?」

「聖筊を投げられるなら」

「聖筊……水餃子の一種類ですか?」

「水餃子と関係ない、それは……見つけた」

冀楓晩はおみくじの後ろにあるプラスチック製のバスケットから一面は丸く膨らみ、反対の面は平らな三日月型のものを二つ取り出し、凸面や平面は一つずつ上むきにして言った。「これは筊杯と言うこと。正面と反面は一つずつ出れば聖筊となる。筊杯を持って聞きたいことを黙念してから投げる。聖筊が出たらおみくじを引いてもいい。引いてから連続三回聖筊を投げられたら、その番号のおみくじ箋は神様の回答ということだね」

小未は慎重に筊杯を受け取り、テーブルの前まで来て、深呼吸をした。しばらく目を閉じてから手を離し、筊杯を投げて、聖筊が出た。

「万歳!おみくじが引いてもいいですね!」

「はい、はい、はい。どうぞ」冀楓晩は無表情でおみくじ箱を渡した。

小未は眉をひそめ、少し左見右見してからみくじを引いた。彼が再び筊杯を手に取って投げ、連続三回も聖筊が出た。

「楓楓楓楓晩さん、見てててて!」

「見たよ。おみくじ箋棚は左側にある。十三番の引き出しからおみくじ箋を出して」

冀楓晩は、小未が御神籤棚にウキウキして向かうのを見て、かがんで筊杯とおみくじ筒を片付け、定位置に戻したところにアンドロイドが走って戻った。

「楓晩さん、これは……」

小未は顔をしかめ、おみくじ箋を上げて、「全くわかりません!」と言った。

「古文だからね、ちょっと見せて…『命中正逢羅孛關,用盡心機總未休,作福問神難得過,恰是行船上高灘』、やばそうだね」

「や、やばいですか?」

「やばいよ」

冀楓晩は繰り返し、おみくじ箋を取ってじっくり読んだ。「この内容を訳すと、運命で凶星と会い、いくら知恵を絞ろうとも、この困難を避けることはできないでしょう。例え神にご加護を願ったとしても、無事でいる事は難しいと言える。まさに浜辺に乗り上げた船のようなもので、前進も後退もできないのだ」

「できないの……」

小未はそっとつぶやき、肩を軽く震え、膝を曲げて跪きそうになった。

冀楓晩は驚き、すぐに手を差し伸べて小未を支えようとしたが、疲れた足が相手の体重を支えることができず、一秒ほど立ち止まった後、アンドロイドを抱きしめて地面に跪いた。

「うぅ……」

冀楓晩は痛みに眉をしかめ、小未が胸にもたれかかっているのを感じた。痩せた体が微かに震え、襟元が濡れた感じがした。

「何を聞いたの?」冀楓晩は尋ねた。

「楓晩さんと永遠にいられますか」

小未は冀楓晩のシャツを掴み、肩をすくめながら震える声で言った。「だめですか?何をしても、できないですか?……何か方法がないですか?法術をかけるとか?神様にたくさん、たくさんお金をあげるとか?それとももう一台量子コンピューターを追加するとか?」

「法術や賄賂まだいいけど、量子コンピューターを追加して何をしたいの?」

冀楓晩は突っ込んでいるが、小未の背中に手を置き、軽く撫でた。「何もしなくていい、あなたにこのおみくじ箋をあげたのは神様ではなく、確率だ」

小未は顔を上げて尋ねた。「確率?どういう意味ですか?」

「この世に神様はいないという意味だ」

冀楓晩は小未を連れて立ち上がり、手を離して土地公の神像を見て、「僕はかつて、この寺院よりも数百倍も有名な寺院に行って、ある本の原稿は通るかどうかを聞いた。君と同じで聖筊が三回出たのに、一ヶ月後に返却連絡を受けた」

「どうして……」

「それから、もう一ヶ所有名な寺院にも行って誓いを立てた。神様の助力で原稿を採用されるなら、採用本数と同じ数の花束を供えると誓った。そして、そこそこ有名なA出版社に投稿したが、二ヶ月待っても返事が来なかったので、同じ原稿をB出版社に投稿した。B出版社の編集者は、この原稿が欲しいが、どのように修正するかを考えないといけないと口頭で言い、その考えは一年間続いた。一年後、A出版社からは僕の原稿が二次審査に入ったとの連絡があった。僕は、B出版社の編集者にこの原稿は本当に要るかと尋ねて、B出版社の編集者は要ると言ってくれたので、メールでA出版社の編集者に謝って原稿を取り下げた。二ヶ月後、このB出版社の編集者は僕の一番の親友と仲違いをし、その原因を僕のせいにして、原稿を突き返してきて僕をブロックした。」

「B出版社の編集者の名前は何ですか?」小未は低い声で聞いた。ぶら下がっている手をポキポキした。

「それは重要じゃない。重要なのは、神様は人間が作ったフィクションに過ぎない」

冀楓晩はテーブルにもたれかかり、「神様って、神話のように、人々が理解できないことを説明するために発明されたものだ。例えば、空に雷が鳴る理由、太陽が消える理由、どうして彼は金の匙をくわえて生まれてきたのに、僕は五歳から早起きしてお粥を作らないといけないとか」と言った。

「金の匙をくわえて生まれてきたことも神様と関係があると思われてますか?」小未は目を見開いた。

「そう思っている人は多いでしょう。結局のところ、雷や日食は科学で説明することができるが、誰がどの家庭に生まれたのか、あるいは様々な幸運や不幸な事故などを説明することができない」

冀楓晩の目つきがきつくなり、優しい声で冷たく言った。「だから人間はあるルールを作っ……いや、憶測した。拝み、寄付、より多くの善行を行い、修行をすると凶を避けて吉におもむくことができると思う。でも実際、敬虔で善良な人でも散歩の途中に車にはねられて死んだ例や、人騙しをして悪い事いっぱいする人は九十歳まで生きて眠っている間に死んだ例が多すぎる。人の運命は、功績、善意と神の加護とは関係なく、純粋に偶然と個人の実力である」

小未晩は眉をひそめて考え、突然目を輝かせ、両手を叩いて言った。「楓晩さんの言う通りです。この世には情けは人の為ならずなんて存在しないです。だって私は良い事何もしていないのに、どうして楓晩さんと出会えたんですか?」

「僕と出会えた事は報われる事なの?」

「これ以上ないくらい報われる事です。もし楓晩さんのでん……」小未は最後の声を伸ばした。

冀楓晩は、小未が長い間に止まっていたのを見て、眉を上げて、「でんってなに?」と尋ねた。

「でん……電力!」

小未はようやく最後の一言を発し、無理して作った笑顔で言った。「毎日私に充電してくれるからこそ、私が動き回れます」

「電力が必要なら、電気料金を支払っているアパートの居住者の誰でも、コンセントを提供する場所やカフェでも提供できるよ」

「それは違います。楓晩さんの電……えっと、どう言ったらいいですか?冷たく鋭い匂いがして、安定しているのに時々震えて、全体的に……ん…あ…」

「ん、あ?」

「えっと、えっと…」

小未は口を開けたり閉じたりして、七、八回繰り返した後、目が鋭くなり、腹をくくって大声で叫んだ。「楓晩さんの顔を見ている限り、三千キロワットが充電でき、栄養液二十本も飲めます!」

冀楓晩は固まり、そして口元が少しひきつり、最後小未に背を向けた。

「楓晩さん?」小未が小声で呼びかけた。

「……」

「怒っていますか?」

「……」

「楓……」

「僕、ふっ……はぁ、怒ってないよ」

冀楓晩は笑いをこらえて言った。「アンドロイドの君は本当に……おかしい。僕もおかしくなりそうだ」

「病気ですか?」

「病気じゃないよ。ただ、自分の笑いのツボがわからなくなってきた」

冀楓晩は笑顔で首を横に振り、振り返って山を下りるアスファルトの道に向かった。「そろそろ下りよう。もうすぐ暗くなるよ」

ほっとした小未は、すぐに冀楓晩について行き、「気分が悪いなら、私が楓晩さんを背負ってあげますよ」と言った。

「いらない、水筒を持って」

「楓晩さんを背負うことができます!」

「体重の問題じゃない」

「じゃあ、何ですか?スキル?世界中のプリンセスハグに関する情報をダウンロードできま……」

「僕が病理的に意識を失わない限り、僕を背負ったり抱っこしたりしないで」

冀楓晩は振り返って小未を真剣に睨んだが、彼が再び視線を前に逸らすとき、口角が上がったままだった。

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