3-3 小未は体にエプロン一枚しか着ていない。上も下も何も着ていない。

 夕日に照らされた二人は山麓にたどり着き、バスに乗ってアパートへ帰った。

 冀楓晩が帰宅した後にすぐシャワーを浴びた。彼はパジャマに着替え、今日着た服を洗濯カゴに投げ込み、裏のベランダで汚れた服についた細かい砂や草を振り払ってから洗濯機に入れた。

 彼が最後の服を扱っているとき、小未が自分と一緒に土地公廟で跪いたシーンを思い出し、彼は部屋に向かって叫んだ。「小未!今日着た服を脱いで頂戴」

「はい!」

 小未の声がキッチンから聞こえてきた。冀楓晩は半開きの網戸に手を入れ、洗濯機に視線を戻した。しばらくしていくつかの服が手に入れられ、彼は振り向かずにそれを洗濯機に入れ、洗濯コースを始めた。

 服を干してから彼は部屋に入った。ダイニングに踏み入れると、ニンニク、牛肉とワインの香りが漂っているのをわかり、小未がステーキを持ってキッチンから出てくるのを見た。

 小未は体にエプロン一枚しか着ていない。上も下も何も着ていない。

 冀楓晩は凍りついた。小未がステーキをテーブルに置いた後、彼はやっと正気を取り戻し、「どうしたの?」と尋ねた。

「今日の晩ご飯はフィレミニヨンと赤ワインソースとガーリックのオーブン焼きで……」

「食べ物のことじゃなくて、君のことだよ!君の服は?」

「楓晩さんが洗ってくれました」

「服、一着しかないの?」

「二着ありますが、もう一着は昨日の支度で油がついてしまい、手洗いしたけどまだ乾いてません」

 冀楓晩の顔色がますます悪くなり、小未は眉をひそめ、エプロンを外しながら急いで相手に近づいて尋ねた。「体調悪いですか?測らせ……」

 冀楓晩はすぐに小未の腕を押し付けた──アンドロイドはエプロンを外そうとしていて、自然に視線を下に逸らすと、エプロンの襟元から裸の胸が見えた。

 小高い丘のように少し盛り上がり、桜色の花蕾をあしらう雪のような胸、繊細の白色にほのかな彩りが入り、見た人の心を揺さぶる。

 冀楓晩は一瞬固まり、そして小未を引っ張って自分の部屋へ連れて行った。

「楓晩……」

「服がないなら、僕の服を着て!」

 冀楓晩はクローゼットを開け、シャツとズボンを取り出して小未の手に押し込んだ。「これ着よう!」

 小未は服を受け取り、冀楓晩の後ろに立ってガサガサと服を着て、しばらくしてから「着ましたよ!」と言った。

 冀楓晩は振り向くと、明らかにツーサイズ大きいだが、隠して欲しい場所をきちんと隠す服を着ている小未を見て、安堵のため息をついた直後に、アンドロイドのズボンが腰から太ももを通って下に落ちたのを見た。

 小未は慌ててズボンを引き上げたが、手放すと重力で床に引き戻され、何度も繰り返しても結果は同じだった。彼は肩を下げて尋ねた。「楓晩さん、少し小さめの……」

「僕のズボンは全部同じサイズだ」

 冀楓晩は答えた。何十年も同じ体型を維持することは問題を引き起こすとは思っていなかった。彼は諦めて言った。「いいか、シャツの長さがは十分あるから、ズボンは履かなくていい」

 小未はズボンから引き抜いて歩き出し、それを拾って冀楓晩に返し、人間の後ろについてダイニングに戻った。

 冀楓晩はダイニングテーブルに座り、ナイフやフォークでステーキを切り、完璧なピンク色の切断面を見て、「焼き加減は素晴らしいね……君と一緒にステーキを作ったことがないはずだけど、自分で習った?」

「はい!『適量』のないレシピを探して、ステーキの焼き方の動画を十三本見て、いっぱい情報を集めて作ってみました」

 小未は話しながら立ち上がり、迂回して冀楓晩のそばにきて、かがんでフォークでステーキを取り、皿の隅のバラ塩をつけ、冀楓晩に渡して言った。「一口目は塩をつけて召し上がってください。二口目は赤ワインソース、三口目はニンニクペーストをつけて召し上がってください」

 冀楓晩は口を開けてステーキを噛み、まろやかで塩辛い肉の香りが口の中で爆発した。彼は肉を呑み込み、小未を褒めようとした時、目の端に相手の腰と足の間の弧度が見えてしまった。

 それは小未のお尻だった。シャツの裾はお尻を覆うことができるが、その綺麗な曲線を隠すことができず、陰影とシワで存在感をさらに高めた。

「美味しいですか?」小未は期待を込めて尋ねた。

「美味しい」

 冀楓晩は視線を戻し、目をそらしてできるだけ冷静に言った。「席に戻ってください。テーブルは同じ側にいないと声が聞こえないほど大きくないので」

 小未は素直に振り返って席に戻った。動きの合間にシャツの裾が揺れ、白くて、滑らかで、ふっくらとした長くて細い足に軽く触れた。

 冀楓晩の視線はアンドロイドの足がテーブルに邪魔されて見えなくなるまでに小未を追い続けた。自分が何をしたかと気づき、彼は肩を震えて驚いた。

 ──初めて彼の足を見て、見慣れていないから二度見しただけだ!

 冀楓晩はそう自分に言い聞かせた。速やかに次の牛肉を口に入れ、気をそらした。

 冀楓晩が噛むことに集中していたとき、小未は小走りでキッチンに入り、冷蔵庫を開けて、冷やしたグラス、ベリーのピューレ、炭酸水、ミントと氷を取り出し、ダイニングテーブルに戻ってそれらを混ぜて飲み物を作り上げ、作家に渡した。「どうぞ!」

 冀楓晩はグラスを手に取って一口を飲むと、甘酸っぱい炭酸水が肉の濃い香りを洗い流し、口内を潤し、ベリーのフルーティーの香りだけを残し、彼は思わずもう一口を飲んだ。

「いかがですか?」

「お……う」

 冀楓晩は凍りついた。小未はいすに跪き、体の半分がダイニングテーブルを横切って近づいてきて、長すぎた袖に指先まで覆われたテーブルに手をつき、作家のほうに向いた襟元からは細い鎖骨と胸が見える。

「おいしくないですか?」

 小未は緊張して尋ねた。無意識のうちに前かがみになり、襟元と冀楓晩の目の間の距離が縮んだ。

 冀楓晩はグラスを持った指に力が入って、細い骨と柔らかい胸を間近で見て、五、六秒沈黙した後、小未をテーブルから押し下ろした。

「プルッ!」

「テーブルに乗るな、行儀悪い!」

 冀楓晩は目をそらして床を見て言った。「おいしいよ、料理の腕が上がったな」

「本当ですか?」

「あなたに嘘ついたことある?」

 冀楓晩は小未に一瞥しようとしたが、瞬く間に今見た光景を思い出し、心臓が震えて視線をステーキに移した。「ステーキも、タレも肉もそこそこ美味しい」

 小未はゆっくりとまつげを上げ、淡い瞳がうるうるして見え、立ち上がって両手を高く上げた。「万歳──楓晩さんに褒められました!奴隷としてやっと合格しました!」

「何回も言ったんだけど、君は奴隷じゃない!その言葉は口にしないで!」

「楓晩さんは私を褒めてくれました──わたしの、人生、円満です──」

 小未は調子外れの歌を口ずさみ、ダイニングテーブルとアイランドキッチンの間に回転、跳ね返り、手上げ、蹴りをして、喜びでいっぱいだった。

「大げさすぎるよ」

 冀楓晩は苦笑いしたが、わずか数秒で口角がまっすぐになり、のどボトケが少し動いた。

 この変化を引き起こしたのは小未であった。アンドロイドは歌や踊りに夢中になったとき、大きすぎてボタンが四つしか留めていないシャツも従って上下に揺れた。開いた襟元は、時には痩せ細った肩を見せ、時には白くて柔らかい胸を露出させた。シャツの裾はスカートのようにひらひらして、その下には見えそうに見えない丸いお尻であった。

 冀楓晩の喉がこのシーンで熱くなり、明らかに「見慣れてない、見たことない、面白い」などの理由で説明できる反応ではなく、ある人間の本能に根ざした原始的な衝動のせいなのだ。

「ラララ──楓晩さん最高──」

 小未は手を上げてジャンプして祝いの踊りを締めくくったが、冀楓晩がショックを受けていることに全く気付かず、左手をシャツに置き、ゆっくりと両脚の間に撫でて行き、右手は長すぎた袖を掴んで頬に触れ、うっとりして囁いた。「褒めていただいただけでなく、楓晩さんの服も着させていただいて……硬くて中に柔らかい触感、ほのかなたばこの匂い、楓晩さんに撫でられているような感じです」

 冀楓晩の頭の中でパチンという音がして、意識を取り戻した時、彼はすでにテーブルの反対側にいて、左手と右手で小未の手首を握りしめた。

「どうしたんですか?」小未が首を傾げて尋ねた。淡い瞳は明るくて綺麗、邪気は全くなかった。

 冀楓晩は沈黙した。目の前に無邪気で極めて誘惑的なことをしているアンドロイドを見て、深呼吸をして感情を抑え、相手を放して自分の席に戻った。「明日君の服が乾いたら、一緒に出かけよう」

「どこへ行きますか?」

「服を買いに行く、二着しかないって少なすぎる」

「大丈夫です。楓晩さんの服を着ます!」

「ダメだ」

「でも、すごく好き……」

「ダメだ」

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