Ch.18 訪問
翌日、向経年は早起きして、ついでに曹永賀をも起こした。
曹永賀はぼんやりしている間に、向経年が今日繁華街の反対側、つまり地図が引き裂かれた側に行きたいと聞いていたら驚きに目が覚めて、寝起きの機嫌が悪いことも一瞬飛んでしまった。
「ダメダメダメ!僕絶対行かない!」曹永賀は布団を抱きしめて悲鳴を上げた。「僕、僕は、他の場所に行くけど、そこに行かせないでよ!」
予想していた事だったが、実際に曹永賀の叫び声を聞いた時、向経年は無言で白目をむいた。「怖がるなよ。あそこの状況もわからないからそんなに怖がってどうする?」
「わからないから怖いんだよ!」曹永賀は泣くに泣けなかった。「向兄、僕は阿財兄のところに行って船の状況を確認しに行ってもいい?」
向経年はどうしようもなく彼を見た。
「お願い!本当にお願いします!」曹永賀は卑屈な態度で手をこすった。
「わかったよ」向経年はため息をついた。「阿財兄のところに行って勇伯さんの船は修理できるかと聞いてみて、ダメなら他に借りられる船がないかと聞いて」
曹永賀はその言葉を聞くとすぐに歓声を上げ、喜んでベッドから飛び起きて身支度をし、部屋を出る前に熱意を示すことを忘れなかった。「今日一日はちゃんと阿財兄について行くよ」
「……」
このクソガキを放って置き、向経年はリビングに来た時、譚兄弟二人が一緒に話しているのを見た。
彼もそちらに寄って椅子を引いて、何気なく彼らの前に座った。「雁光、どう?一緒に出かける?」
譚景山はそれを聞いたところ、視線が二人の間を行ったり来たりした。「どういうこと?今日は一緒に出かける約束したの?」
「……別に約束してない」譚雁光は低い声で言い返した。兄にこうやって聞かれると、彼は何だか恥ずかしい気持ちになった。
向経年は二人の会話の内容を気にせず、譚雁光をまっすぐに見て返事を待っていた。
「俺と一緒に行かないの?」
――ラブラドールレトリバーかゴールデンレトリーバーみたい。譚雁光は思った。
「待って、どこへ行くつもり?」譚景山が尋ねた。
「ん?雁光が言ってなかったの?」向経年は少し驚いた。「昨日の夜は、今日埠頭の担当者のところに行って、それから繁華街の反対側に見に行ってみようと彼に言ったよ」
譚景山はしばらく黙っていてから弱々しく言った。「……弟といつからそんなに仲良くなったの?」
「……別に仲良くなってないし!」譚雁光は反論せずにいられなかった。
向経年は、二人が行き来するのを見ても全く理解できなく、理由がわからないまま返答した。「一緒にタイプスリップまでしたのに、仲がいいかどうかって分ける必要がある?」
その言葉が出るやいなや、兄弟二人は同時に止まって彼を見た。
「……どうした?何か問題ある?」
「――いいえ、問題ない」譚景山は安心した表情で彼を見た。「本当に良かったね」
「――兄ちゃん!」譚雁光はもう我慢できず、譚景山を引っ張って口を塞ぎ、すぐに話題を変えた。「一緒に張さんを探しに行きます。永賀は?」
「あいつは臆病だから行かないって」向経年は仕方なさそうに言った。「彼に船を借りられるかどうかについて確認するように頼んだ」
「そうしたら、あなたたち二人で探しに行ってていいよ」譚景山は弟の手を引き離して、「あなたのスタッフと一緒に船のこと聞きに行くよ」と答えた。
「どうして急に積極的になったの?」譚雁光は驚いて兄の方を向いた。
向経年も不思議そうに譚景山を見た。なぜならば、彼がここに来てからはずっと消極的な態度をしていたからだ。
難破事故が原因で、彼は一度もいい顔をしたことがなかった。お金を使って遊びに行くのに、こういうことに遭遇してしまい、どうしても機嫌が悪くなることについて向経年は理解できるので、何も言わなかった。
彼が率先して行動すると言うのは初なので、向経年は曹永賀のそそっかしい性格を考えると、誰かがついて行ったほうがいいと思い、頷いた。「では、お手数ですが、永賀のことをよろしくお願いします。」
譚景山は手を振って聞こえたことを示した。
向経年は曹永賀に知らせた後、譚雁光と一緒に出かけた。
#
二人は三分の二しかない地図に従って張柏川の屋敷に向かっていた。
譚雁光は真剣に地図を研究している向経年を一瞥した。向経年が朝の譚景山の言葉に動揺していないように見えて、譚雁光は密かに安堵のため息をついたが、何だが少しムカつく気持ちもあった。
彼はすぐに頭を振って、その考えを忘れようとした。
「どうした?頭痛いの?」
譚雁光はこの言葉にムッとし、こもった声で「大丈夫です」と答えた。
「ならよかった」向経年は深く考えず、地図を彼の前に移動した。「ところで、雁光、さっき地図を見てあることに気付いた」
「何?」譚雁光は身を乗り出して見た。
向経年は地図の街路を指差した。「よく見ると、島の道路は全て碁盤目状である」
譚雁光も地図を見て、まさにその通りだった。島の道路はほぼ全ては繁華街を中心にして格子状で外へ延伸していた。
「これはきちんと都市計画を定めたところだけの設計だと思わない?」
「それとも、軍管区や眷村しかない計画?」
二人は顔を見合わせ、お互いの瞳に疑いと重苦しさを見出した。この島はもう一つの謎が増えた。二人はこれ以上話さず、各自で黙って考えながら、そのまま張柏川の屋敷まではるばる行った。
意外なことに、張柏川はかなり高級に見える二階建ての欧米風の家に住んでいた。
出るのは四十代くらいの女性で、ドアを開けると見知らぬ男性が二人いるため、「あなたたちは誰?」と警戒した様子だった。
「お邪魔してすみません。張柏川さんにお会いに来ました。」譚雁光は、「彼はいらっしゃいますか?陳培安さんに住所を教えて頂きました」と言った。
彼らをしげしげと見て、何を確認しようとした。「……少し待ってください」と言った。
二人が返事をする前に、女が『ガチャン』とドアを強く閉めた。中からの会話を交わす声をかすかに聞こえた。
向経年と譚雁光二人はうろたえた顔を見合わせた。
しばらくすると、誰かがドアを開けた。今回は四十歳くらいのお兄さんで、満面の笑みで口を開いた途端に謝っていた。「すいません、うちの奥さんはちょっと人見知りなので、ごめんなさいね、あとで言ってやるから」
「いいえ、慎重にしたほうがいいよ」向経年は慌てて笑顔で気にしない態度を示した。「張柏川さんですか?」
「二人は先日島に来たお客さんですよね?入ってから話をしましょう」男は頷いて横になって二人を入らせた。
張柏川が彼らをリビングに連れて来た。家の外観と同じように、リビングのインテリアもかなり洋風で、振り子時計さえあった。
三人がお茶を飲みながら歓談を交わしてから本題に入った。張柏川は、「今日のご用件は何ですか?」と尋ねた。
向経年がシフト表のことをどうやってうまく聞き出す方法を密か考えていた時、譚雁光が先に話した。
「張兄、僕たちは偶然に島に来たことを知っていますよね」譚雁光が言った。「僕たちは自分の用事があるため、島に長く滞在することができませんが、僕たちの船はしばらく修理できませんでした」譚雁光が親しげな笑みを浮かべる様子はとてもかわいかった。「最初は本島に戻る船便を待とうと思いましたが、十日も待つなんて長すぎるので、そしてこれを偶然に見ました」と続けて言った。
譚雁光はシフト表を取り出して張柏川に渡した。「埠頭の切符売り場でこのシフト表を見ました。これがあるということは、本島へのお往復便だけあるじゃないはずです。僕たちを連れて行ってくれる他の船便があるかどうかを張兄に聞きたいと思います。貨物船でも構いません。もちろん、無償でお願いすることはないです」
向経年は横で話を聞いて、心の中で拍手して譚雁光がよく出来たと思った。
張柏川はシフト表を取り、注意深く見た。「このシフト表は……昔のものですよね。今、埠頭にはシフトがしていません」
「昔は船が多かったということですか?」向経年は聞き返した。
「ええ、僕たちの埠頭はかつてかなり繁栄していましたよ。たくさんの若者が埠頭で働いてました。」張柏川は笑顔で言った。「昔、埠頭で働くのはとても儲かってましたよ。もし僕は子供がいたら、そこで働いてって言うと思います。」
「昨日そこに行った時、人が全くいませんでした」
「ああ、仕方ありませんね。若者はみんな島に出ましたからね」張柏川はため息をついた。「埠頭は自然に没落しましたね」
向経年と譚雁光は顔を合わせ、陳培安から聞いた情報とあまり変わらないが、何かがおかしいと感じていた。
「あなたたちの難しい状況がわかりました。立ち寄ることができる船があるかどうか聞いてみます」張柏川はシフト表を返した。「でも保証は出来ませんよ」
「とんでもないです、張兄がそう言っていただけるだけでとても感謝しています」譚雁光はシフト表を受け取った。
向経年は諦めずにはいられなくて質問した。「この表に載っている人は、もう埠頭で働いてないですか?」
「ああ、こちらの人たち……」張柏川は言いながら、突然に妙に立ち止まった。「あだ名ですよね、僕が知る人は全くいませんね。どうしたの?彼らを探したいですか?」
「そうでもないです、ちょっと気になるだけです。」向経年は、相手がこれ以上言いたがらないことを鋭く気づいたので、すぐに愛想笑いでスルーして、他の話題に変えて話し始めた。
三人はしばらくおしゃべりしてから、向経年と譚雁光が立ち上がってサヨナラ挨拶をした。
「張兄、助けてくれて本当に感謝しています」向経年は言った。
「大したことじゃないですよ。他に助けが必要あればまた言ってください」張柏川は玄関まで見送った。「村長がみんなに伝えてありましたから」
二人が玄関までつく時、たまたま先ほど会った女性が別の部屋で掃除している姿を見た。彼女は彼らを見ると、急いでドアを閉め、大きな音を立てた。
「ああ……ったく。すみませんね、妻が内向的な性格で、見たことない人とあまり接触していないので」張柏川は再び謝った。
向経年は彼を慰めるために何かを言おうとしたが、突然譚雁光が彼の手を力強く掴んで止めたように感じた。
「いいえ、それではお先に失礼します」譚雁光は淡々と挨拶をしてから、向経年を素早く引き離した。彼は張柏川の家からしばらく離れる場所までその手を放さなかった。
「雁光。どうしたの?」向経年は当惑した。
譚雁光は口を開く前に一息ついた。「あの人、張柏川……彼は本当のことを言ってない。いや、それじゃないかもしれない――」
「待って」向経年は譚雁光の肩を押してなだめた。「落ち着け、ゆっくり話をしよう。張柏川はどうした?」
譚雁光はつばを飲み込む、深呼吸して言った。「さっき、埠頭の話をした時、張柏川がもし自分が子供いれば、埠頭で働いてほしいと言いましたよね」
「はい、それはどうしたの?」
「僕たちが出る前に、彼の妻が部屋を掃除しているのを見ましたよね」譚雁光が言った。「ちらっとしか見てないけど、僕は見ました。キャビネットの上には家族写真が飾っていました。たくさんの家族写真」
向経年はびっくりした。
キャビネットの上には白黒写真が散らばっており、昔の写真の画質は高くないため一瞬ではっきりと見るのは困難だった。しかし、そのキャビネットの上にはB3くらいのサイズの家族写真が置いてあるのを、譚雁光ははっきりと見た。写真の中のお父さんは明らかに張柏川であった。
「張柏川、彼は子供がいる」
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