Ch.13 同じ話

 譚兄弟はまだ埠頭の辺りから離れていなかった。


「これはもしかして清掃員のシフト表?」譚景山はあごを触りながら考えた。「定期清掃とか?」

「……」譚雁光は無言でシフト表を取り戻した。「清掃員のシフト表ならわざわざ掲示板に貼り付けなくてもいいでしょ?」

「知らない」譚景山は肩をすくめた。「清掃員でも注目されたいかも?」

 譚雁光は譚景山のでたらめな話を無視し、シフト表を持って真剣に見ていた。

 弟に相手されていない譚景山は冗談をやめて尋ねた。「昨日は流れに身を任せる様子だったのに、今日は急に積極的になったね」

「流れに身を任せようと言っても何もしないわけではないよ、兄ちゃんこそ全く緊張感がないでしょ?なぜ心配しないのかと昨日聞かれたのに」譚雁光は頭を上がらずに言い返した。彼はそのシフト表をよく見ると、あることに気付いた。「待って、このシフト表はほぼ二十四時間だけど」

「どういうこと?」譚景山は理解できなかった。

「このシフト表は六人でシフトして、早番は朝六時から、遅番は夜中三時まで」譚雁光はシフト表の時間に指差して言った。「夜中の三時間だけ空いてる、他の時間は全て当番がある……」

 ここまで話すと、譚雁光は頭を上げてガラガラな切符売り場を見た。「————だから、これ一体何のシフト表?」

 譚景山も一緒に切符売り場の方に向いた。「ところで、光ちゃん、さっき掲示板に時刻表を見た?」

「それはない」譚雁光が答えた。

「行き先はどの港だと知ってる?」

「ん?それは————」


#


 二人は阿財について繁華街を通り抜けて住宅地の境界まで行った。ここから過ぎたら島の向い側の海岸になる。

 阿財の後ろにいる二人はずっと黙っていた。逆に阿財のほうがたまに彼らに話をかけた。

「向兄、さっきのあれ……あれはただの言い間違いだよね?」曹永賀は我慢できず、聞かずにいられなかった。

 向経年は答えなかった。彼は未だに阿財の家の出来事を考えていた。

 実は、それはごく普通の会話であり、とんでもない言葉は一切なかったが、向経年はただ妙な感じがした……小さな石が入ったスニーカーを履いているような奇妙な感じであり、僅かだったが無視できなかった。

 曹永賀は返事をもらえず、小さな声で呟いた。「さっき貞子が出るのかなと思ってびっくりした」

「もうすぐだよ。前だ」この時、前に歩いていた阿財は突然振り向いて話した。曹永賀は自分の囁き声が聞こえられたと思い、すぐに黙った。

 向経年は阿財が指差した方向に視線を辿った。座礁した海岸ではなく、別の砂浜だった。砂浜の辺りに低くて灰色のコンクリートの家が並んでおり、住宅地に比べるとこの辺の建物はとても質素で仮設住宅のようだった。しかも微かな魚の匂いが漂った。

「ここは漁師の場所?」向経年はとても驚いた。この島には漁業がないと思い、おかしいと思っていたので。

「昔はそうだけど、今は使っていないよ。一部の年配の方たちが住んでるだけ」まさか阿財からこんな答えが返ってくると思わなかった。

 向経年はそれを聞き、ついでに尋ねた。「島には漁業やっていないですか?」

「そうだよ。必要がないからな」阿財は自然に答えた。


 必要がない?

 向経年と曹永賀はまだこの回答に反応していない時、阿財はある低い家のドアをノックした。

 塗装が少し剥がれたドアがゆっくりと開き、腰が曲がっている老人が出てきた。彼は目を細め、来客をじっくりと見てしばらくしたら口を開けた。「おお……阿財か」

勇伯ヨンブォ、お久しぶりだ。最近体の調子どう?」阿財は親しげに老人に挨拶した。「背中はまだ痛いの?」

「痛くないわけがないだろ。毎日死ぬほど痛いよ」老人は機嫌が悪そうに鼻を鳴らし、厳しい口調で言った。「何しに来た?」

「勇伯の船はまだ使える?使えたら貸してもらえないか?」阿財は後ろに立っていた二人に指差した。「この数日は外来者が何人かいると村長が言ったよね。彼らは海に行って物を探したいって」

 向経年は老人に恥ずかしい笑顔で手を合わせてお願いした。「申し訳ないですが、重要なものが海に落ちてしまいましたので船をお借りして引き揚げてみたいです」

「はあ?船を借りる?」老人はびっくりしながら困っているように頬を触った。「わしの船はしばらく使ってないので、エンジンが動くかどうかわからない」

「見せてもらってもいい?やってみないとわからないよね」阿財が聞いた。

 老人は少し迷ってから答えた。「わかった。試しにやってみようか」


#


「————気をつけて!」

 譚雁光は正気を取り戻し、自分と木の間の距離がわずか十センチもいかないことに気づき、慌てて立ち止まった。

 譚景山は急いで彼の手を引っ張って危機を回避した「光ちゃん、道全然見ないよね」

「……また同じ事?」譚雁光はあの木の前にしばらくぼーっとしてから振り返って譚景山に尋ねた。

 譚景山は沈黙した。ちょっとしたら弟に無理に笑顔を作った。「——だから、あまり心配しないでって言ったんだろ。歩いても疲れてフラフラになっているじゃん」

 口元が震えていなければ、これはとても優しい慰めのはずだったのにと譚雁光は思った。

 彼は見て見ぬふりをして言った。「引っ張ってくれてありがとう。そうしないと本当にぶつけちゃうかも」

 譚景山は答えなかった。

 彼はお兄さんのリアクションを気にせず、辺りを見渡した。彼らは切符売り場から離れて帰る道にいると気付いた。譚雁光は余計の事を言わず、手元に持っているシフト表を見て、しばらく考えたら突然に言った。「ここに載っている人たちに一回会ってみたい」

 譚景山は顔を上げた。「この人たちに会ってどうする?しかもどうやって探す?一人一人に聞く?」

「なんか少し手がかりがあるかもしれない」

「いや、この人たちを探しても俺たちの時代に帰れる手がかりなんてあると思う?」譚景山は唖然した。

「今は手がかりがないだからそこ探しにいかないといけないでしょ!やってみたいとわからないし」この話が終わった後、譚雁光は少し気まずかった。これは昨日向経年が言った話だと気づいたが、話を取り戻せなかったので言い続けるしかなかった。「……とにかく、今僕たちにあるのは時間しかないから」

 譚雁光はため息をついた。

「そうだね。時間が足りるといいね」

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