Ch.12 船を借りる

「……兄、向兄!」


 向経年はぱっと目を覚ました。

 太陽の眩しさを目に入り、目を開けたら平手打ちされるところだった。向経年は驚き、無意識のうちにやり返した。


「————あ!向兄何やってるんだよ!」曹永賀は手を抱えながら悲鳴した。

「朝から何騒いてる?」向経年は頭をこすりながらベッドから起き上がった。「気が狂ったか?」

「いつまで寝るのがわからないから起こそうと思ってさ!」曹永賀は指摘した。「今何時だと思う?船を借りに行くと言ったじゃん!」

 向経年はまだ完全に目が覚めていないのに、曹永賀の大きな声に頭が痛くなった。彼は額をこすりながらキレ口調で言った。「そんなに大声を出す必要がある?」

「逆に平打ちまでする必要がある?」曹永賀は呟いながら文句を言った。

 向経年は彼の相手をせず、身支度をした。

 リビングを通り過ぎた時、とても静かであることに気付いた。昨夜に使われたティーポットまだテーブルに置かれ、今この建物に二人しかいないことを意識した。

「永賀、彼らは?」向経年は振り返って部屋から出てきた曹永賀に聞いた。

「とっくに出かけていた」曹永賀は壁に飾っているレトロな時計に指差した。「今何時って見てみて?」

 向経年は曹永賀をほぼ無視し、曹永賀はまだ怒りながらぶつぶつと愚痴を言っていた。二人がパタパタしてやっと出かけることができた。


 しばらくした後、朝の十時半。

 向経年と曹永賀は阿財家の庭の外にいた。


「村長のところに行かない?」

「昨日お前も見たんだろ。船の事なら阿財兄のほうが詳しい」向経年は喋りながら庭に入った。「彼に聞いたほうが早い」

「えっと、突然すぎない?」扉の前に来た時に曹永賀が聞いた。

 向経年は回答せず、直接ノックしたが、応答がなかった。

「いないかな?」曹永賀は言った。

 向経年はもう一度ノックした。

 今回は家の中から何か動きがあり、遠くから近くまでに急ぐ足音が聞こえた。「……誰?」

 阿財は扉を開け、起きたばかりの様子だった。彼はぼんやりして二人をしばらく見つめた。「ああ、昨日の……」

「お休みのところを、お邪魔してすみません」向経年は微笑んだ。「お願いしたい事があります」

 阿財は疑いの目で向経年を見たが、それでも横に向いた。「先に入って」


#


 波が防波堤にぶつかり、数羽の海鳥が防波堤の上を歩いていて、人が近づいても飛び立とうとせず、とても安心しているようだった。潮風に吹かれ服がベタベタになり、未練が残っているように裾を揺らす。

 譚雁光は埠頭の辺りに立ち、眉をひそめながら考えていた。

 ここは村の繁華街からそれほど遠くなくとても小さな港だ。目視によると、小型フェリー二艘が接岸するのが限界だ。

「だから、船便がない時は誰もここに来ないよ」ここまで連れて来てくれた熱心な島民が言った。

 隣の小さな切符売り場の窓はきちんと閉められ、窓枠には肉眼で見える砂が残っており、人跡少ないとわかった。譚雁光は横にある掲示板のチラシも古くて黄ばんでおり、全く更新されていないように見えることに気付いた。

「ここに停泊する船は多いですか?それとも他の埠頭がありますか?」譚雁光は振り向いて尋ねた。

「他の船なんてないよ。ここは定期船しか泊まらないから他の埠頭は必要がある?」男は驚いて聞き返した。

「では、自家用船はどこに停泊していますか?」

「うちの島には船がほとんどないよ」男が回答した。「小さな釣り筏なら何人が持ってるが、大体海辺に泊めている」

 譚雁光は一瞬動きが止まった。「時刻表はありますか?」

 男は掲示板に指差し、彼らに自分でゆっくり見るように伝え、譚雁光からお礼の言葉を受ける次第、去っていった。

「はあ……」譚景山は大きなあくびをし、さりげなく譚雁光に近づいた。「何か見つかったか?」

 譚雁光は掲示板に近づき、ガラスのカバーを開け、チラシをじっくり見た。「……この島は、やはりおかしい」

「ん?」譚景山はありがたく拝聴するふりをした。

「民家の密度から見るとこの島の人口はそれほど多くないはず、それに対してこの埠頭は大きすぎた。さっきあの人の話によると、島民は自分の釣り筏を海辺に停泊していること、どうしてこの埠頭に停泊しないの?彼らの言う通りに十日一回しか船便がなければ、ここに泊まっても問題ないはずなのに?」

「彼らの島の独特なルールかもしれない?自家用船は埠頭に泊まってはいけないとか?」譚景山が言った。

「そうかもしれないけど、でも一番怪しいのはそれじゃない」譚雁光は掲示板から一枚の紙を剥がし、譚景山の目の前に渡した。「船便は十日一回しかないのに、切符売り場はなぜシフト表がいるの?」



「だから、船を借りて出航して海に見に行きたいということ?」阿財は戸惑いながら尋ねた。彼は訳がわからなくてバカを見ているような表情で二人を見ていた。「いやいや、どうして事故発生の場所にわざわざ行く?暇なの?」

 曹永賀は阿財が入れてくれたお茶を持ち、身を縮こまらせ、何も言えなかった。

「ハハハッ、別にそうでもないですけど」向経年は乾いた笑いをし、頑張って言い訳を考えた。「えっと……我々の船は幾つのパーツがなくなってるではないか?もしかしたら海に落ちてしまった可能性があるから、引き揚げてみて運が良ければ見つかるかもしれないと思って」

 この話が出ると、阿財はバカを見ている目からアホを同情するような目に変わった。

「――ですから、連れて行ってくれる人は知っていますか?」向経年は相手の同情の視線を我慢しながら必死に言い続けた。

「水を差すわけじゃないけどね、向さん。このやり方は、大海に落とした針をすくいあげるようにほぼ不可能だ」阿財がため息をついた。「君も船やっている人だから知らないの?」

 向経年は過去数年間様々なクレーマーに対応するため身につけたげ演技を発揮し、おおげさにため息をついた。「阿財兄、俺も仕方ないですよ!あなたたちの島の船便は十日一回しかないし、唯一の船の修理技師もいつ帰るのがわからないし、いつまでここで待ったらいいですか?」

 彼は激しそうに文句を言い、跪いて泣くまであと一歩だった。「俺唯一の大事な仕事パートナーは海岸に放置されて、修理してもらえかいから俺がなんとかするしかありませんよ。あの船は俺の全財産だから、無くしたら俺はこれからどうやって生きていきますか?親と子供にどうやって飯を食わすんですか?」

 阿財は向経年の言動に呆気に取られ、完全に振り回された。「ああ、これは……ごめんね?」

「はあ、阿財兄、俺もあまりみんなに迷惑をかけたくないと思うから、海に連れて行ってくれる人がいるかと聞きたいだけですよ」向経年は情に訴えると同時に道理で説得しようとしていた。「もちろん、結局時間の無駄になる可能性があるとわかっていますが、だけど少なくともわずかな希望があるでしょう。海に連れて行ってくれるだけいいから、引き揚げは我々でやりますよ」

「――はい、はい。わかったよ。ここまで言われたら手伝わざるを得ないだろ」阿財は仕方なさそうに答えながらさっき向経年の乱暴な話し方にうんざりしているように額をこすった。「着替えたら連れて行くから少し待って」

 向経年は話を切り上げ、満面の笑顔で感謝した。「阿財兄、ありがとうございます!本当にありがとうございます!」

 阿財はうんざりして手を振り、リビングで彼を待つように示し、部屋に戻った。


 曹永賀はさっきから身を縮め、話を全く入れなかった。この時になってやっと気を緩めることができた。「————はあ、向兄、さっきびっくりしたよ。いきなり本題に入っちゃって」

 向経年もリラックスできた。「効率が良いでしょ」

 その時、彼はやっと阿財の家を観察する余裕ができた。リビングのインテリアは年配な方が好きそうなデザインだったが温かみがある。テーブルにはアイボリーのレース調のテーブルクロスを敷いており、奥さんはインテリアに力を入れているように見えた。ただし、しばらく掃除されていないようで、全体的に薄い埃に覆われていた。

 向経年はふっと思い出した。昨日阿財が飲んだお茶は息子さんが持って帰ったものだとおっしゃっていたが奥さんについては?突然にお邪魔にしても奥さんを見かけなかった。

 ここまで考えると、阿財はちょうど身支度を終え、部屋から出てきた。

「阿財兄、奥さんはいらっしゃらないですか?」向経年は尋ねた。「突然にお邪魔して本当に申し訳ないです。まだ奥さんに挨拶していないですが」

 言葉を聞いた阿財は一瞬止まり、向経年が何の話をしているのが理解していないようで、無表情で感情が読めなかった。数秒経った後、やっと我に返ったようだった。「あ、嫁ね、数日前、病院行くため息子が本島へ連れて行ったよ」

 向経年はこの回答に少し意外だった。「それは大変ですね!奥さんは体悪いですか?」

「大したことはないよ。検査しに行くだけだ」阿財はあまり気にしなさそうに言った。「急いで船を借りたいだろ?早く行こう」

 ここまで話すと、向経年もこれ以上聞くことができなかった。彼は慌ててそばにいた曹永賀を引っ張って立ち上がった。曹永賀は急いで立ち上がった時、パタパタしてお茶をこぼしてしまった。彼は慌てて片付けようとして阿財に謝った。

 阿財はただ平気な顔で笑って言った。「大丈夫、大丈夫。嫁が片付けるから」

 向経年と曹永賀は呆然とした。

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