Ch.10 船の修理
「……ねえ、向兄、どういう状況?」曹永賀はこっそりと尋ねた。
「俺に聞かれてもわからないよ」向経年も小さい声で返事した。
二人は困っている顔をしながら岸のあたりに立ち、船を取り囲んで興奮して楽しそうにワイワイしている村人たちを見ていた。
向経年は深くため息をついた。
時間を少し前に戻した。
黄土明は興奮した様子で向経年二人を連れ、彼が呟いていた『阿財』の家に向かう途中にずっと阿財がどれほど素晴らしい電気屋さんであると褒めまくり、村中に何かが壊れた場合は全て彼に修理依頼をしていると言った。
そして老沈は出かける前に、ちょうど一式のメンテナンスツールを彼のところに預かったということだ。
「船を修理するための工具には何かこだわりがあるかどうかわからへんけど、とにかくプロのものは一番だろ」黄土明は胸を叩き、一番良い工具を借りるのを手伝うことを約束した。
一行は事務所を出て右折左折を繰り返し、店が集まるエリアまで歩いて行った。飲食店や屋台あっちこっちに点在し、とても賑やかだった。通りすがりの人は次々と黄土明に挨拶し、黄土明も一人ずつ名前を呼びながら返した。
商店街を抜け、小さな路地に入り、先ず視界に入ったのは二階建ての民家だ。その前に中庭があり、中庭には一際目立つ木があり、中年男性たちが集まって木の下でお茶を飲みながら談笑していた。
「阿財!」黄土明は挨拶に前に出て、遠慮なしにテーブルの上のティーポットを手に取り、自分にお茶を一杯入れた。「これは何のお茶なの?とても良い香りやん」
阿財と呼ばれている中年男性は、団扇で扇ぎながら籐の椅子に座り、とても快適そうだった。「うちの息子が持って来てくれた高級品だ。すごいでしょ?」
「ええ、すごいな!」黄土明は相槌を打った。「ところで、この前老沈が出かける前に彼の工具をあなたのところに置いていたよね?」
「そうだよ。メンテナンスのために預かってる。どうした?」
「わしの後ろにいる二人のハンサムな男を見た?」黄土明は後ろに立っている二人に指して言った。「うちの島に数日間滞在する若者たちがいると言ったんやんか?彼らの船は森の後ろの海岸に座礁しているから、船の確認するため工具を借りに来た」
お茶を飲んでいるおじさんたちがお互いに顔を見合わせ、そのうちの一人が「じゃ、船は今どうなっているの?手伝おうか?」と尋ねた。
「結構です。俺たちは自分でチェックできますので気遣わないでください!」向経年は急いで言った。
「そんなに遠慮しなくていいよ」しかし阿財はこう言った。「俺たちは特に用がないから一緒に手伝いに行くよ!」
「そうよ」
「さあ、行こう」
向経年はきちんと手分けをしてテーブルや椅子を片付けるおじさんたちを呆然と見つめ、まるで今からすぐ出発しようとする様子だった。「……待ってください。本当にわざわざ気遣わなくていいですよ」
阿財は手を振り、少しイライラしているように見え、「遠慮しすぎるよ。若者なのに面倒くさいな!先に行って俺たちを待ってろ!」と言った。
「いや、ちょっと待って……」
黄土明は向経年の肩を軽く叩き、明るい笑顔で彼に親指を立てた。「うちの島の人はみんな熱心だと言ったでしょ、安心して!」
時間は今に戻った。
向経年と曹永賀は、立たされていたように遠く離れた海岸のあたりに立ち、おじさんたちが彼らの船の周りに興奮で面白そうにワイワイしている姿を見た。
「向兄、止めようか?めちゃくちゃにされたらどうしよう?」曹永賀は尋ねた。
「止めたら恩知らずの悪党に見えるだろう」と向経年が答えた。
「向さん!」阿財は興奮してやって来て、情熱的に彼の肩を叩き、向経年を一瞬少し蹌踉めかせた。「悪い、悪い、気にしないで!我々みたいな世間知らずの田舎者は新しいものを見ると盛り上がるのよ。こんな斬新な船はきっと高いでしょ」
向経年は叩かれて痛くなった肩を撫で、必死に優しそうな笑顔を作った。「大丈夫ですよ。それほど高価な船ではありませんので」
「悪いね!このような船を見たことがないから、下手に修理をしてしまうと悪化するかもしれないからできないよ。しかも幾つのパーツがなくなってね」阿財は恥ずかしながら申し訳なさそうに頭を掻いた。「これは老沈が帰ってくるのを待たないといけないね!」
「——阿財兄、」向経年は聞かずにいられなかった。「あなたたちの島は船専門の修理技師が一人しかいないのはなぜですか?もしかして彼一人で島全ての船を修理していますか?」
「もちろん、小さな問題は俺たちで解決できるよ。でもプロは老沈だけだ」 阿財が言った。「しかも俺たちの島はそんなに船がないよ」
「ここは島ですよね?どうして船が少ないですか?」曹永賀は驚いて尋ねた。
「俺たちの島は漁業で生計を立てているわけじゃないし、そんなに多くの船が必要ないよ」阿財は当たり前のように答えた。「そして若者はみんな本島に働きに行ってるよ。ここに戻るなら本島からも船があるし」
「ああ、そうですか…」曹永賀はわかったような、わからないような感じだった。
しかし、向経年は聞けば聞くほど困惑した。「えっと……島へ外に行く方法はあの本島の往復便だけですか?」
「そうだよ!」阿財は何の異常を全く感じておらず、ごく自然に答えた。「この便さえあれば大丈夫だよ。我々は普段特別な用がなければ島を出ることはないので」
向経年はその話を聞いた後、徐々に疑念が生じたが余計な話を語らず、頭を頷いて理解を示した。「ではあの技師は具体的にいつ頃戻って来ますか?」
ここまで聞き、そばに立って見守っていた黄土明が前に出て説明した。「老沈は数日前に本島へ行く前、しばらくしたら帰ると言ったから、おそらく明後日だと思うよ」
そばにいた阿財は一瞬に呆気に取られたが、すぐに相槌を打った。「……あ、そうそう、この前老沈が工具のメンテナンスを依頼しに持って来た時、数日間本島に行くかもしれないと言ってた」
「――わかりました。早く帰ってくるといいですね。ありがとうございます」向経年は頷き、目を細めながら手伝いに来てくれた島民たちに丁寧に感謝した。「今日ありがとうございます。せっかく来てくれたのにすみません」
情熱的なおじさんたちは、何も手伝うことができず、恥ずかしそうに急いで手を振った。ここ数日もしすることがなければ、お茶でも飲みに来てやと大きな声で言った。
その後に、向経年は阿財から工具を借り、自分で船を検査した。船体と底板の割れや擦り傷以外に、船尾のプロペラが破損したことが深刻な問題で、重要な部品もいくつか欠落していた。部品がないためどうしようもなく、破損のひどい箇所はプロの職人に修理してもらうしかない。
このことを考えると、向経年はさらに落ち込んだ。
情熱な島民としばらくおしゃべりをしていた二人は、辺りが暗くなったため、挨拶して別れた。
みんなと別れた二人は借りた家に戻る途中、曹永賀は何かを考えていて黙っている向経年をちらりと見て、ついに沈黙を破らずにはいられなかった。
「向兄、今何を考えてる?」曹永賀は尋ねた。「向兄が黙ると、緊張して落ち着かないよ」
「……大袈裟すぎるだろ?」向経年は絶句した。
「じゃ、さっきは怖いこと考えてなかったよね?」
「――確かに一つ気になることがある。なんかおかしいなと思って……」
「ストップ!もう言わないでください!」曹永賀はすぐに手を振って聞くことを拒否した。「今日は恐ろしいことをもうたくさん聞いた、人の耐える能力には限界があるの!」
「後でまた教えないといけないし」向経年はぶっきらぼうに言った。
「できるだけ遅くていいよ!」
#
二人は言い合いながら、一時滞在の赤レンガの家に戻った時、ドアにたどり着く前に物音が聞こえた。よく聞くととても賑やかそうだった。
向経年と曹永賀は目を合わせ、二人とも状況がわからなかった。向経年はドアに少し近づき、ドアノブに触れる前に、食べ物の香りが感じられた。
この時、突然内側からドアが開かれた。短い巻き髪をしている中年の女性がドアを開け、外に立っていた向経年と曹永賀を見て、明るく挨拶した。「ああ、お帰り。ちょうど良かったね!」
突然の出来事に向経年は仰け反った。「……こんにちは。どちら様ですか?」
「ああ、私は阿月と一緒に来たのよ!そこでぼーっとしないで早く入って」おばさんは満面の笑顔で手を差し伸べた途端、向経年二人を掴み、驚くべき力で、まだ状況を解明しようとしている二人を引き寄せた。
向経年は状況をはっきりと理解する前に、熱い蒸気が彼の顔を覆った。顔に漂う香りが鼻に突き刺さり、走り回っていた二人が急にお腹を空かせた。
賑やかな声が近づいて来たので、向経年がよく見ると、リビングの木製テーブルで何人かのおばさんは料理をテーブルへ運んだり、お互いに冗談を言ったりするのに忙しそうだった。
譚兄弟は真ん中に囲まれ、茶碗と箸を持ち木製のテーブルの前に座っていた。譚雁光は難しそうな顔をして全身がこわばり、隣に情熱的なおばさんがいて、彼の茶碗にずっとおかずをよそってあげておかずの山ができた。
側にいた譚景山も似たような感じだった。彼はロボットのように口に食べ物を詰め込み、目は少し赤く涙が出そうだった。茫然とした様子と彼のベビーフェイスを合わせ、誰かにいじめられているように見えた。
――これは何かの処刑シーンですか?
この画面から正気を取り戻す前に、向経年二人は後ろの情熱的なおばさんに木製のテーブルへ強く押し付けられた。彼女は歓声をあげ、「残りの二人も帰ってきたよ!」と大きな声で元気よく叫んだ。
この声は、この場にいる全てのおばさんの注意を惹きつけた。何人のおばさんは手元の作業を中断し、彼らを包囲するようにやってきて、愛想の良い笑顔とびっくりするくらいの力で向経年と曹永賀をテーブルに囲み込んだ。
「向さん、首を長くして待っていたよ!ちょうどご飯は用意できたからタイミングが良かったね!」阿月おばさんがおばさんたちから抜け出し、それぞれにご飯をたっぷり入れてあげた。
向経年は無意識のうちに、ご飯が小山のように見えるご飯茶碗を受け取り、満漢全席のような料理を見て、訳がわからなく、「……ありがとうございます。これ全部おばさんたちが作ってくれた料理ですか?お手数おかけしてすみません」と言った。
この話が出るやいなや、向こうの譚兄弟から同情の眼差しを送られて来た。
彼が反応する前に、周りのおばさんたちは爆竹のように情熱を爆発させた。
「いやいや、とんでもないよ!向さん遠慮しないでね!」
「そうそう、遠慮しちゃダメだよ」
「ご飯を作るくらいは全然大変じゃない!喜んでやりますよ」
おばさんたちは二言三言あいさつしていて、阿月おばさんが再びチャンスを先に掴んだ。「向さん、あなたたちはうちの島に暫く滞在するでしょ。みんな男だからこんなに大きな家を片付けるのはきっと大変だよね、あのね、私は姪っ子が居てね——」
阿月おばさんの話を聞き、隣のおばさんたちも我慢できなくなった。「おい、阿月、あなたの姪っ子は最近忙しいから無理でしょ!あのね、私のいとこは最近暇なので……」
「あらまあ!あなたのいとこは不器用だよね。恥ずかしくない?私の親戚の娘はとても家事が上手で——」
「何言ってんのよ?うちの義理の妹のほうが本当に家事上手だよ。しかも肌白くてかわいくて——」
おばさんたちはテーブルを囲んで、誰の姪っ子、いとこや娘のほうが綺麗でかわいいかについて口論していた。
曹永賀はご飯を手に持ちながら、恐れながら目を大きく見開いて身を縮めた。
向経年は嵐の真ん中に追い詰められ、おばさんたちからの無差別爆撃を受け、我慢できずに立ち上がって叫んだ。「——俺たちは自分で片付けられるので大丈夫です!ありがとうございます!」
おばさんたちはこの叫び声におびえさせられ、次々と口論をやめた。彼女はお互いの顔を合わせ、仕方なく休戦した。阿月おばさんは悔しそうにしぶしぶと言った。「……何か手伝ってほしいことがあれば、言ってね」
「わかりました。必ずすぐに村長に言います」向経年はすぐに答えた。
阿月おばさんはこれ以上何も言えず、興味が無いように頷き、おばさんたちと一緒に立ち去った。
ドアがバタンと閉まった瞬間、四人とも安堵の息をついた。
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