Ch.09 既視感
譚雁光は荒い足取りでむっとして先頭を歩いていた。
弟の足が長くて歩くのが速いため、ついていけない譚景山は思わず声を出た。「——雁光、光ちゃん!」
呼び声を聞こえ、譚雁光は正気を取り戻し、頭を振り向くと、兄が自分に向かって小走りしてきたのが見えた。「兄ちゃん、どうした?」
「そんなに急いでどこへ行くの?」譚景山はぶっきらぼうに言った。「どこに行くか知ってる?」
譚雁光はしばらく呆然とし、先ほどあまりの怒りで何も考えずに出てきたので、今になって彼は少し恥ずかしく思った。「……あまり考えていなかった、ごめん」
譚景山はため息をついた。「考えてないと思ったよ。頭よりも体が先に動くのは昔からだ」
譚雁光は反論するのは恥ずかしそうだった。「——ぶらぶらして何かの手がかりを探してみようと思って」
「じゃあ、何か思いついたか?」
「まだ……」譚雁光は周りを見渡しながら呟いた。「でも……兄ちゃん、ここの景色はなんか見たことあると思わない?僕たちは昔似たような場所に行ったことがある?」
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「……向兄、もしかして適当に歩いてる?」曹永賀は頭からポタポタと汗をかきながら向経年の後ろについていき、襟を掴んで体を扇いだ。「もう十月なのになんでここはこんなに暑い?」
「知らないよ。おそらく六十年前はこんなに暑いよ」向経年は振り返らずに答えた。「だからここから脱出したければ早く俺の船を直さないといけない。ああ、技師が早く戻ってきてほしいな」
「……逆じゃない?僕たちはどこにいるのを先に知るじゃないか?そうしないと船直しても意味がない」曹永賀は一秒程度に考え、呆れて言った。
「これはすぐに知ることができないよね。しかも、俺たちは元の時代にいないし」向経年が答えた。「逆に、船が修理されたらここから離れるのができる。そうしないと本当にずっとここで立ち往生するよ!」
「やっぱり僕はなんかおかしいと思うけど……」曹永賀は答えたが向経年がこちらにきた視線を気づきすぐ言葉を変えた。「ボスが言ってることは何でも正しい!」
「……」向経年はアホらしい曹永賀の相手をすることをやめた。
ここまで来ている間は全部住宅地の範囲内だった。通りすがりの人たちは、あまり特別な表情も見せず、あくまで少々興味がありそうにこちらを見ているだけだった。
「村長は効率が良すぎない?」曹永賀はため息をついた。「最初に来た時、島の人たちはあんなに反応大きかったから、警察を呼ばれると思ったよ」
「もしかしたら、あなたに興味がないだけ?」向経年は突っ込んだ。
「それで、向兄は今どこに行くの?」曹永賀は既に向経年の毒舌に免疫ができ、彼の皮肉を直接に無視した。
「村長に工具を借りに行く」
「……僕たちの船にも工具があったじゃない?」
「さっき救急箱を探した時に全部確認したでしょ?それに、嵐の中で何度も転げ回っていたから、その辺に残っているわけないだろ?」向経年は白目をむき、自分の部下の思慮の浅さを心配した。
曹永賀は訝しげに彼を見た。「じゃあさっきはなんで村長に直接聞かなかったの? ……外に出てから思いついたじゃないよね?」
向経年の耳は赤くなり、抗うのをやめた。「……お前口数が多いな?」
二人は言い合いながら前に進み、慣れない道を遠回りして、ようやく村長の事務所に戻った。
向経年は事務所に近づくと、ドアが半分開いていることに気づき、たまたま誰かが中にいるようだった。彼は軽くノックし、半分開いているドアを押し開けた。
ローテーブル前のベンチに、ドアに背を向けて座っている人影が見えた。音に気づき、一瞬戸惑ったようだった。それは黄土明だった。彼はゆっくりと頭を回し、目はまだ少しぼんやりしていた。「……誰や?」
「村長、すみません。俺たちです。お邪魔します」向経年は挨拶してから事務所に入った。彼は黄土明の前のローテーブルをちらりと見た。そこには彼らが去った時にまだ片付けていない新聞と雑誌がいっぱいだった。「ちょっとお聞きしたいですが、工具を貸していただけますか?船の検査をしたいので」
黄土明はぼんやりと彼らを見つめ、まだ反応できないようだ。数秒経ってようやく気付いたようだった。「――おお、工具を借りること?ええで、ええで、確か――」
向経年二人は、熱心そうに立ち上がり、歩き回りながら何かを呟き、工具を借りられる場所を考えているような黄土明を見た。突然、彼は顔を上げて興奮して叫んだ。「あった、あった!
話が終わった後、二人を連れ出すのが待ち遠しかった様子だった。
「ちょっ、ちょっと待ってください――」向経年は気短な黄土明を急いで引っ張った。「ドライバーなど基本の工具だけでいいですよ。専門工具まで要りませんよ。手間ですから」
「ねえ、何でわからへん?誰もがこういう工具を持っていると思ってる?」黄土明は嫌そうに言った。「こういう工具は関係のある仕事してる人しか持ってないよ」
これを聞いて、向経年と曹永賀は顔を見合わせて呆然とした。
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「――この場所は見覚えがあると思う?」
「そうでもない、なんか既視感があるような感じ」譚雁光は何気なく答えたがすぐ笑った。「兄ちゃん、ここは六十年前だよ」
「……そう?適当に聞いただけだ」譚景山は譚雁光が振り返る時に微笑んだ。「だから今からはどこに行く?」
「ただぶらぶらしているだけ、道を確認してみようと思って」譚雁光は目を細め、他人の家の壁から突き出た枝や葉を軽く落とした。「ついでに特別なところはないかと見てみる」
「あなたは全く緊張してないじゃん、戻れなくても構わないと思ってる?」譚景山はため息をつき、額を軽く叩いた。
「――だってタイムスリップしたんだよ。人生で一度だけかもしれないからちゃんと体験しないとね」譚雁光は少し話を止め、平静を装って答えた。「ついでに執筆のインスピレーションを上げることもできるし、担当編集者の催促から離れることもできる」
「はい、はい。担当さんは泣くぞ」
二人はずっとおしゃべりしながら果てもなく散歩していて、いつの間に静かな小さな公園にたどり着いた。この公園はいくつの民家の中の隠れた一角にあり、あまり人が来ていない様子だった。
「ここ……」譚雁光は振り返って譚景山に聞いた。「兄ちゃん、ここに入ってみない?」
「この公園は見るものがある?」譚景山は仕方なさそうだった。「自分が本当に観光のためここに来たと思ってる?」
「いいえ、ただここは何となく……」譚雁光は答えようとしたところ、言葉の途中に突然の声で中断され、二人は振り返った。
「ああ、譚さんたちどうしてここに来たの?」サプライスに満ちた驚嘆の声が響き、それが阿月おばさんだった。
阿月おばさんはとても驚いたが少し嬉しそうな顔がした。「なんて偶然だ!今ちょうど考えていたんだけど、男四人もいるから何か不便なところとか、何か足りないものがないかあとで見に行こうと思ったよ」
「え、えっと、ありがとうございます。」譚雁光は情熱な阿月おばさんに少し心に影が落ちた。「そんなに気遣わなくていいですよ」
「いいえ、いいえ、全然大丈夫。他人を助けるのが幸せの糧だもん!足りないものがあれば用意するよ」阿月おばさんは熱心に前に出て、譚雁光の腕を掴み、自然に言った。「ちょうど姪っ子の家が近くにあってね、あとで一緒に手伝いに行くように呼ぶね」
譚雁光は自分をしっかりと掴んでいる手を見て、もう一度譚景山に目で助けを求めた。
譚景山は再び視線を遠くに移した。「……おお、そこの木はなかなか綺麗だね」
阿月おばさんは彼女の姪っ子がいかに有能であるかを未だに熱心に薦めている。「――彼女は幼い頃からとても良い子でね、性格が穏やかで優しいのよ、家事も上手だし……」
「あの、阿月、うちの外で誰とおしゃべりしてる?声が大きいよ!」一人の女性が近くに民家から頭を突き出し、ちょうど阿月おばさんが譚雁光を引っ張りながら果てしなくおしゃべりをしているのを見た。「――あらまあ、このハンサムな二人は村長が言った人でしょ?」
「そう、そう。譚さん二人だ」阿月おばさんは熱心に答えた。
「あの、今、阿月が姪っ子の話をしているのを聞いたんだけどね、実は私もいとこがいてね、最近彼女もあまり用がなくて――」
譚雁光は徐々に目がぼんやりしてげんなりした。
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