Ch.07 争い
オフィスに沈黙が流れた。
向経年はチビ二人が一緒にぐらついてかごをつかんで出ていた姿を見て、そしてもらった服や食べ物を目移りしてため息をついた。「とりあえず着替えよう。このまま濡れた服を着ると風邪引くので」
「……いやいやいや、待ってよ!向兄!」曹永賀はようやく正気を取り戻し、声が激昂した。「なぜそんなに冷静で入られるの?民国五十一年(西暦一九六二年)?親父もまだ生まれてないぞ。あいつらは絶対嘘ついてるよね!」
「子供は一番嘘をつく可能性がないよ。ここはなんかおかしいとずいぶん前から言ったよね」向経年は荷物を抱えて起き上がり、まだしゃがんでいる譚雁光を見た。「……大丈夫?だいぶ驚いた?」
譚雁光は顔を上げ、少し茫然しているように見えた。「我々の推測がまさに本当のことだと思いませんでした」
向経年は眉を上げ、彼の濡れた髪先を見た。少しかわいそうに見えて思わず手を伸ばして、「ここで風を浴びるのをやめよう」と言った。
譚雁光は目の前に差し出された大きな手をぼんやりと見て、掴もうかどうかを迷っていながら、その手を握った。 向経年は力を入れて彼を引き上げた。
――すべすべな手だ。普段は家事してないでしょうね。
この考えがひらめくやいなや、向経年は自分が考えたことに少しキモイと思い、すぐにそれを頭の中から払拭した。
「――どうして皆はそんなに冷静で居られるの?」曹永賀は頭を抱えながら言った。「僕たちはタイムスリップしたぞ。どうやって戻るの?」彼は木製ソファで座っていた譚景山に認めを求めようとした。「譚兄さんはまったく驚かないの?」
しかし譚景山のポイントは完全に別の方向に行ってしまった。彼はショックな顔で曹永賀を見て、「自分の顔と俺の顔をよく見て!よく譚兄さんって呼べるね」
「いい加減にしな、永賀。騒ぐ暇があったら、まず着替えてご飯を食べろ」向経年は仕方なく一枚の服を曹永賀の腕の中に入れた。
彼は他の服を広げて見てみたが、どの服もとても年代感があり、しかも中には中国チュニックスーツも入っていた。
向経年はものすごくダサい選挙用ジャンパーを急いで脱いで、おじいさんが着用するような淡いベージュのシャツをさりげなく取り出して着替えた。見上げると、曹永賀一人で服を研究していることに気づき、譚兄弟は既に着替え終わっていて、向経年はこの二人がいつ服を手に入れたのかさえ分からなかった。譚雁光のほっそりした指が服をめくった瞬間、首のところにネックレスのようなものが銀色の光が一瞬点滅したが、その後ボタンをしっかりと留めたことしか見えなかった。
「それで、これからどうするの?」着替え終えた譚景山は、とてもリラックスした様子で肉まんを大口で食べた。
曹永賀も饅頭を取り出して、「そうだね。これからどうするの?どうやって未来に戻るかな?」
「まず、俺たちがどうやってここにタイムスリップしたのを調べないとね」向経年もローテーブルの周りに集まり、掘り出されたばかりの本を積み上げて椅子として使用し、譚雁光の椅子まで作ってあげた。
譚雁光は完全に本の椅子をスルーして、兄の隣のソファの肘掛けに寄りかかった。「嵐のせいですかね?原理がわかりませんが」
向経年は眉を上げた。
「……だけど、僕は何も感じてないよ。っていうか、タイムスリップの時はかっこいいライトとかトンネルとかみたいなものがあるじゃない?または空中に穴が開くとか」曹永賀は質問した。「僕はただドラム式洗濯機に放り込まれて三百回くらい洗われたような気がしただけだな」
「たぶん……嵐ではないかもしれない。もっと前だったかもしれない」向経年は口を覆い、深く考えているようだ。「嵐に逢う前に、船の信号と磁場などは非常におかしくなっていた」
「それはあなたの船自体に問題があるのではないか?」譚景山は白目をむいてイライラした様子だ。「この話をするとムカつく。お金をもらってるのに問題のある船に俺たちを乗せるわけ?」
「……お金はまだもらってないけど?」曹永賀は横に突っ込んだ。
向経年は眉をひそめ、「俺の船は毎月メンテナンスされているので、問題が発生する可能性はない。船体の故障であったとしても、このような事にはならないよ」と固い口調で言った。
「さあ」譚景山は冷笑した。
「そんなにきつい言い方する必要がある?譚、兄、さん」曹永賀は我慢できず皮肉に言い返した。「一丸となって、この難局を乗り越えるべきじゃないの?今、みんなは同じ船を乗っていることだから、お互いに尊重しよう」
「ええ、同じ船だから、一緒に転覆したんだね。ふん」
「……おい!」
「兄ちゃん、もうやめて。少し落ち着いて」譚雁光は譚景山の肩を押し、彼の話を止めた。「今最も重要なことは、ここに来た原因を見つけることです」
「もう一つの質問は……」向経年は髪を掻き、手で顔を拭いた。「東啓島はどこにあるのか全く知らない。航海図にはそのような場所はない」
「じゃ……僕たちは民国五十一年(西暦一九六二年)のどこにいるのかな?」曹永賀は尋ねた。
「どこにいるのか考える必要がないでしょう?戻る方法を考えたらいいじゃない?」譚景山は言い返した。
「だから今それについて考えているのではないか?」曹永賀は我慢できない顔をした。
「例えば……立ち往生した海岸からもう一度嵐に逢った海を通過して戻ってみたらどう?」向経年は提案した。「そこに原因があるかもしれない」
「ダメです」意外なことに、最初に反論したのは譚雁光だった。
「向さんの船はまだ使えるかどうかは別として、この近くの海域はどんな状況であるのも知らないのに、いきなり出航したらとても危ないです。しかも、そこに行けたとしても事故を起きずに無事に帰れる保証はないでしょう?もう一度タイムスリップしてしまったら僕たちが来た時の時間に戻れますか?」
向経年は迫り来る一連の拷問に頭が痛くなり、彼が眉をひそめ言い返した。「やらないとわからないでしょう。そうしなければ、じゃ他に何か良い提案ある?」
譚雁光はひび割れた唇をなめた。「まずこの島の状況を確認してから、出航して戻るかどうかなど、次のことを検討するのがよいかと思います。準備なしで行動することはやめたほうがいいと思います」
「じゃ、この島でどのくらいの期間調査する予定?一ヶ月?一年?それとも一生?」向経年はイライラして来た。「しかも、タイムスリップはあの嵐に関係あるってお前が言ったよね。そうしたら早くそこに戻って確認するべきじゃないの?この島ではどんな手がかりを見えつけられるの?」
「僕は嵐がタイムスリップを引き起こした原因とは言ってないですよね?ただの推測です!」譚雁光も怒り出して冷たい顔で言った。「それに、僕たちがこの島に流されたということは一つの手がかりです」
「ちょっと待って……」曹永賀は二人いきなりの口論対決にびっくりして、「二人とも落ち着いて、喧嘩しないでよ……」と怯えながら止めようとした。
しかし、誰もそれを聞いてなかった。
「何の手がかり?タイムスリップの原因すらわからないのにどうやって手がかりを探す?」向経年はうんざりそうで言い返した。
譚雁光は怒りを通り越して笑ってしまった。
「わかりました。じゃそこの航路はご存知ですか?海岸外側の海は嵐が来た時とは同じ海だと確定できますか?」
「はい、はい、はい。みんな落ち着いて」曹永賀は立ち上がって二人の口争いを止めて、饅頭と肉まんをそれぞれに配った。
「二人ともまだ食べてないよね。お腹空いていない?食べてから話をしよう」
食べ物を渡された二人とも黙った。手に持っている大きな饅頭を見て向経年は頭を冷やした。なぜ急に感情が高まったのか自分も理解できなかった。
彼は譚雁光を一瞥して、譚雁光は不機嫌そうに肉まんを持ちながら小さな口でちょっとずつかじった。
「――村長の事務所って、地図か航海図があるはずですよね?」静かの中に、譚雁光が突然言った。
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