Ch.05 異様

 知らない人がいるので、譚兄弟二人は向経年たちに急いで視線を移した。

「この方は陳さんです。後で村長のところに連れて行ってもらいます」曹永賀は彼らに説明した。

 譚雁光は頷いて理解を示した。「今から行きますか?」

「お兄さんはまだ気持ちが悪そうですが、もう少し休みましょうか?」


「おお——」

 突然、感嘆の声が聞こえた。

 他の四人は感嘆した陳培安に目を向けたが、陳培安の視線は座礁したヨットにしっかりと惹きつけられた。

 彼の顔は驚きに満ち、船の周りに目を晒した。曹永賀と譚雁光は不思議に顔を見合わせ、どうして陳培安がこんなに驚いているのが理解出来なかった。

「陳さん、どうしましたか?」曹永賀は不思議に思った。

「ああ、曹さん、君たちの船はとても斬新ですね」陳培安が答え、残念そうな顔をして頭を振った。「これは修理代だいぶかかりますよ!」

 曹永賀は意味が理解できなさそうなので、向経年は前に出て彼の肩を軽く叩いて話を続けた。

「ええ、おそらくめっちゃかかりますよ!」

「向さん、心配しないでください」陳培安は笑顔で言った。「僕たちの島にも優秀な船の修理技師がいますよ。後で彼に見てもらいましょう」

「まだ運転ができればそれでいいですよ!」向経年はどうしようもなく肩をすくめて言った。「陳さん、僕たちは船の中で荷物を少し取ってきてから一緒に行くので、少し待っていただけますか?」 

「わかった。なるべく早くね!」陳培安が同意した。 

 向経年は陳培安に感謝の気持ちを込めて微笑み、曹永賀を連れ、譚雁光に譚景山をヨットに戻るように暗示した。他の三人は理由がわからないが、それでもついて行った。


 船室に戻るやいなや、譚雁光は尋ねた。「忘れ物でもありましたか?」

「ううん、違います」向経年は首を横に振り、曹永賀を見た。「永賀、なんか違和感ない?」

 曹永賀は驚いた感じがして「何となく……でもおかしいことは見つからなくて」と答えた。

「彼らの服も、この島の建物も」向経年は言った。「全てが古い。何というか……デザインは全部時代遅れのものだ。さっきあの陳さんを見て気がついた」

 当時、たまたま陳培安が譚雁光の隣に立っていたが、二人ともシャツとスーツズボンを着用していた。ただ見比べると、陳培安の格好はお爺さんが着るようなデザインであることに気づいた。

「……それは何かおかしいの?」譚景山は理解できない様子だった。

「俺たちはさっき町に入ってから会った人たち、大人から子供まで着ている服はデザインが全て古っくさい」向経年は喋りながら戸惑いを感じた。「建物もそうだけど、全部昔風だ。しかも彼らが誰かを探している時……永賀、彼らは携帯を出したか?」

 曹永賀はしばらく考えていたが、ふと気がついた。「――本当にその通りだ」

「それでどうしたの?ただの田舎かもしれない……待って、ここがどこかって知ってる?」譚景山は言い返した。

「彼らはここが東啓島だと言ったけど、この島聞いたことがある?」と向経年は尋ねた。

 譚兄弟二人とも首を横に振った。

「さっき陳さんは、ここは本島にかなり近いと言った……とりあえず、俺が言いたいのはこの場所はおそらく想像以上に時代遅れていて不便だ。ここにしばらく滞在しないといけないと思ったほうがいいよ」と向経年が説明した。

「ここに港はありませんか?さっきの話によると、これは島です。航海できる人に連れて行ってもらうのはできませんか?」 譚雁光は疑問を持って尋ねた。

 向経年は返事できなかった。ここは比較的に遅れており、船を呼ぶことができなく、もしくはサポートを得にくいかもしれない……説明が難しいと感じ、しかも彼はこの島には何か問題があるとずっと思っているがはっきり理由がわからなかった。

「念のため言っただけだ、考えすぎるならいいけど」向経年はため息をついた。「あまり待たしたら悪いからもう行こう」」

 譚景山はこっそりと目を転がし、弟を引っ張って一番に船から降りた。

 譚雁光は兄ちゃんの白い目を見て、申し訳なさそうに遠慮がちに向経年に頷き、その後を追った。

 譚兄弟が船室を出たのを見て、曹永賀は急いで向経年を引き寄せた。

「向兄、わざわざ彼らに説明しなくてもいいじゃん?あいつらはどう見ても裕福な家庭の子のようだ。説明すればするほど面倒くさくなるよ。早く帰る方法を探したほうがいいよ」

「なんかうまく行かない気がするな。ここはやっぱりおかしいよ」向経年は眉をひそめ、心は落ち着いてないが、自分の理不尽な考えも解釈できなかった。「あなたも気をつけたほうがいいよ」

 話が終わった後、向経年は曹永賀の肩を叩いて船室を出た。

「……だから何かおかしいのよ!」 取り残された曹永賀は思わずつっこんだ。


 ヨットを降りた後、向経年は陳培安が好奇心旺盛な顔でヨットに対してあっちこっちを見たり触ったりしているのを見た。彼は向経年が出てきたことに気づき、恥ずかしそうに手を引っ込めた。

「すみません、こういう船を見たことがないので、ちょっと興味がありまして」

「平気、平気」向経年は手を振った。「もう大丈夫ですよ。今から行きましょうか?」

 陳培安は微笑んで頷き、みんなに手招いた。

「村長の事務所はここから少し離れているところです。ちょっと歩くんですがそんなにかからないですよ。大きいな島ではないですから。あはは」

「陳さん、東啓島って今まで聞いたことがなかったです。何か特別のところありますか?」曹永賀は前かがみになり、馴れ馴れしく言った。

「ははは、聞いたことがないのは普通ですよ。この島は特に重要なスポットではないので、本島の方はほとんどここを聞いたことがないですよ」陳培安は笑った。

「でもここには人いっぱい住んでいるようですね。多くの新しい家があるのを見ましたよ」向経年もその話に続いた。

「そうでしょう。ここは結構人がいますよ。みんなは前の世代からここに住んでいるので、誰もがお互いを知ってますから」陳培安は誇らしげに言った。「へんぴな離島ですが、政府は我々離島に多くの資源を与えましたよ。向さんが見た新しい家は全て政府がお金を出しています」

「ああ、それは本当にいいですね!」


 雑談しながら彼らは森を抜けて村に入った。目の前には民家の群れがある。

「建物はとても新しくて大きいね……」譚景山は弟を引っ張って列の最後に歩きながら囁いた。

 それを聞いた曹永賀は、思わず譚雁光の隣に身を乗り出して同じく小さい声で言った。

「だよね。政府は彼らにお金をあげすぎるでしょう。なんか昔の富豪村みたいと思わない?」

 譚雁光は返事をせずに周囲の家並みを眺め、表情が少し変わった。

 返事が来なかったため譚景山は弟を見た。「雁光、どうしたの?」

「何でもないです……ただなんか既視感があるだけです」譚雁光はまだ周囲の景色を見ていて、さりげなく答えた。

「このような高級住宅街は、二人にとっては普通だよね」曹永賀はこれを聞いて囁いた。

 向経年は曹永賀の言葉が聞こえた。彼は思わず振り返って譚雁光を見たが、彼の話相手は聞いていないようだった。 少し安堵した彼はすぐに曹永賀に危険の目線を投げかけた。

 曹永賀は素早く素直に口にチャックをした。

「つきました。こちらです」陳培安は目の前にある二階建ての建物を指差した。

 中に入ると、扉の柱の横に「東啓村事務所」と書かれた小さな木製の看板がぶら下がっていて、建物全体が以前に見た他の家よりも古かった。

 全員が中に入った。事務所全体のレイアウトは非常に昔風で、厚い机と本棚がいくつかあり、真ん中には木製のローテーブルとソファのセットが配置されていた。今誰もいなかったので、向経年は大胆に目をうろうろして見始めた。


「あれ?みんなどこへ行ったの?」陳培安は誰もいない事務所に驚いたようだった。しばらく辺りを見回した後、四人に申し訳なさそうにと言った。「すみません、みんなは用事があって出かけたみたいです。電話してみますからお座りください」

 話を終え、彼は机に向かって受話器を取りダイヤルを回した。この時、向経年はこのレトロ電話機に気づいて眉を顰めた。

「向兄見て」曹永賀は向経年に近づき、隣の本棚を指さして囁いた。「ここの人はレトロな趣味をしているね。仕事するときにこまをやるの?」

 向経年はそこに視線を投げた。本棚にはいくつかの木製のこまがあり、大きさや種類はさまざまだった。唯一の共通点はすべて非常に古く、頻繁に使用されているように見えた。

「……どうして遊び物しか見えないの?」向経年は思わずつっこんでしまった。

 曹永賀は恥を知らなさそうに肩をすくめた。

 ちょうどその時、陳培安は電話を切ったばかりで、「みなさん、村長はたまたま用があって抜けられないので後で僕もそっちに行きます」と申し訳なさそうに言った。

 彼は目の前の人たちの狼狽している姿を見て「後で着替えと食事を持って来てもらうから 、ここでしばらくお待ちください。向さんの手は……」と言った。

「大したことないよ。大丈夫です」向経年は慌ててお礼を言った。 「お手数をおかけして申し訳ありませんが、よろしくお願い致します」

 陳培安は手を振って気にしないように言い、事務所を出た。


 陳培安が去った後、事務所は静かだった。一連の事故にあった皆はやっと少し気を緩めた。

 譚景山はソファに座って退屈そうにぼんやりしていた。横の譚雁光はしばらく事務所を観察した後に、ローテーブルに置いた本や印刷物をめくった。

 一番下に置いた新聞を取り出し、埃を落として広げた。


 そして、彼の視線が止まった 。

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