Ch.04 島

「兄ちゃん!」譚景山が目を覚ましたのを見て、譚雁光は半分まで処置した向経年の手を捨て、譚景山の方に近づいた。

 置いていかれた自分の手を見て、向経年はなんか嫌われてる気がした。

 譚景山は困惑しそうに譚雁光を見た。「……どうしたの?」

「さっきの嵐で大波に襲われここに流された。ここはどこなのかまだわからないけど、幸いみんなは無事だったよ」

 譚景山は手で支えて立ち上がった。「じゃ俺たちは助かったということ?もう帰れるの?」

 譚雁光は彼を支え、隣の椅子に座らせた。

 向経年はもう一方の手を適当に包んで、「船のトランシーバーが使えるかどうかを確認したらちょっとぶらぶらしてくる」と言った。

 譚景山は頷き、まだ少し弱っているようだ。そして彼が下を向き、「俺の服は何でこうなってるの?」

 譚雁光の目は向経年に漂ったが、向経年は聞こえないふりをした。

 その時、曹永賀が戻って来た。しかし、彼は変な表情をして少し不安そうで話すのを躊躇っていたようだ。

 彼の表情はあまり良くないことに気づいた向経年は「どうしたの?」と尋ねた。

「向兄、さっきトランシーバーを試してみたけど、壊れたかもしれないが相変わらず信号がなくて、とにかく応答がなかった……。しかも、俺たちなんか変な場所に流されたみたい……」曹永賀は少し緊張しているようにぼんやりと言った。

「変な場所って?」向経年は戸惑いながら兄弟二人に対して「とりあえず、曹永賀と一緒に外の様子を見て来る」と言った。

 二人とも異議がなかったので、向経年は曹永賀の後について船室を出た。

「ね、向兄は裸のままで移動するつもり?」曹永賀は、向経年のあまりにも自由すぎる裸の姿を見て言わずにいられなかった。

「どこから服を手に入れるつもりなの?教えてよ」向経年は仕方なさそうに両手を広げた。

「ちょっと待ってね」話し終わった後、曹永賀は合板下の倉庫に入り、濡れた布のものを取ってきた。

 まさかあるとは思わなかった。

 目の前までに渡された服は明るい黄色の選挙用ジャンパーだった。「……どうして俺の船にはこういうものがある?」

「この前、隣の船のおじさんからもらったの。隙間を埋めるのに使ったよ」曹永賀は言いながら肩をすくめた。「これしかないよ。それとも救命胴衣を着る?」

「……まあ、これでいいけど」向経年はジャンパーを手に取り、数回ひねってからさっさと着た。

 二人は次々と船から飛び降りた。まずは岩礁域があった。その奥は連続の森、電柱らしきものも見える、さらに奥は紺色の山影がある。

「さっきどこに行ったの?」向経年が尋ねた。

「こっち」曹永賀はある方向を指差し、道を先導した。

 向経年は曹永賀の後ろについて、岸のあたりに渡って森を通った。約十分程度歩くと、小さな町のように見える家並みが見え、建物は少し懐古的なスタイルで生活感が溢れた。人の営みがかすかに聞こえる。

 曹永賀は森の端っこで立ち止まり、振り返って向経年に言った。「手前の住宅街を見た?さっきここに来たときに発見したけど、どこなのかわからないから行くのをやめた」

 彼の話を聞き、向経年は注意深く観察し始めた。まず、海に近い場所に住宅街があること自体が何か変だ。さらによく見ると、彼は何かおかしいと気づいた。

 ——————ここの建物は全て昔風の建築様式なのに、外観が新しすぎた。

 新しく建てたばかりのようだ。


 ——————ここは一体どこだ?向経年は疑問に思った。

「……向兄?」沈黙した向経年を見て、曹永賀は催促した。

「行ってみよう」

「ちょっと待って。本当に行くの?」曹永賀は向経年を止めようとした。「先に準備とかしない?」

「何を準備するの?なぜお前はこんな場面で警戒するんだ?」向経年は言うことがなく、曹永賀の頭を軽く叩いた。「とうぜ助けを求めないといけないし、ずっと船に居ても仕方ないだろ。何を恐れているの?」

「心の準備くらいはさせてよ……まあ、向兄がボスだからそう言われたら行くしかないよ」曹永賀は仏頂面をしていた。

 二人は森から出て住宅街に入って、生活道路に沿って奥へ進んで行く。

 建物たちを通り過ぎるうちに、向経年は自分の判断が正しいとますます確信した。これらの建物は全て建築年数が二、三年以下の新築で、しかも住まれている気配があった。

 また十分近く歩いた後、向経年は何人かの子供たちが遊んでいるのを聞こえた。

 案の定、二人が角を曲がると小さな公園が見え、そこには子供たちが群れ遊びをしている。

 子供たちは音に気づき、雛のように首を伸ばして不思議そうに彼らを見た。

「うわ——明るい色だ!」おかっぱ頭をしてやんちゃそうな男の子は向経年に指差して大声で叫び、他の子たちもついでに彼らを囲んだ。

「本当だ!」

「かっこいい服!僕も欲しいよ!」

「おじさんたちはなんで濡れてるの?」

「水に落ちた?」

 向経年はまさか子供たちに取り囲まれるとは思ってなかった。彼は頭をかきむしり、跪いて親しみを示そうとした。

「こんにちは。僕たちは今助けてくれる人を探しているのよ。交番はどこにあるのが知ってる?」

「わかんない——」

「大人は忙しいから——」

「僕たちも手伝うよ!」

「ねね、一緒に遊ぼう!」

「ねね、かくれんぼしよう!」

「おじさんが鬼になって!」

 子供たちは彼らを取り囲み、向経年はあっちこっちからの話で目が眩んで、曹永賀は子供たちの攻めから逃げようとしたが二、三人の子供に引っ張られて動けなかった。


「――あなたたちは誰?!」

 突然、横から年配の女性の声が聞こえてきた。

 買い物かごを持った女性だった。

 彼女が緊張しそうにかごを置いて走ってきて、子供たちを守ろうとして子供たちの前に立って彼らを警戒した。

「あの、僕たちは悪意がありません」向経年は急いで両手を挙げて何もしないことを示した。

「ただ助けてくれる人を探しています。もしくは交番の場所がわかりますか?助けて欲しいです」

 女性は怪訝な目で彼らを見て、子供たちを数歩引き離した。

「――あなたたちは誰?見たことがない顔だ」

「僕たちは観光客ですが、嵐に遭って途中で船が転覆しました。幸い波が僕たちを森の後ろの海岸に連れてきたのです。安否報告をするためお電話を借りたいです」向経年は声を和らげてこう言った。曹永賀は彼の後ろで必死に頷いた。

 女性は不信感に満ちた目で二人を見ながら、後ろにいる子供たちの一人に頭を向け、「ウェイちゃん、お父さんを呼んできて」と言った。

 おかっぱ頭の男の子は頷き、すたすたとどっかに行った。

「きっと向兄が怖そうに見えるから……」曹永賀は後ろで小さな声でつっこんだ。

「どっちもどっちだよ」向経年は白目をむいた。

 女性はまだ警戒を緩めず、「……ここは観光客なんて来ないよ!」と二人をじっと見つめた。

「僕たちは海で道迷って、また嵐に巻き込まれてここに流されましたよ」向経年は苦笑いした。

「お姉さん、本当に悪意なんてありませんよ。ここがどこなのかすら知らないのです」

 女性の周りにいる子供たちは、大人の間の緊張感に気づかず、せっせと遊んでいた。彼女は急いで子供何人を掴んだ。

 向経年はもっと説明しようとするところ、さっき出ていたおかっぱ頭の男の子が白いシャツとカーキのズボンを着た男性を連れてきた。

 男性は額に汗をかきながら急いで二人の前にきた。走ってきたようだった。彼は二人に「お二人は僕と一緒に村長の事務所に行きましょう。他に同伴者がいますか?」と言い、二人を上から下までチェックして、特に向経年の手にとどまった。「けが人はいますか?」

 向経年と曹永賀は顔を合わせて呆然とした。この男が来ると、事情を聞かずに慌てて二人を連れ去ろうとするのにびっくりした。

 向経年は何かがおかしいと感じた。「――僕たちは大丈夫ですが、海近くで待っている同伴者が二人います。まずは彼らを連れてきてもいいですか?」

 案外、男は断った。「いいの、いいの。一緒に行きましょう。お二人はここに慣れていないので、帰り道が見つからないのではないかと心配ですから」

 その言葉を聞いて、二人はそれ以上何も言わず、男を連れ戻した。

「お名前はまだお聞きしてないですね。二人とも本島出身ですか?」男は歩きながら話をかけた。

 向経年は相手の慎重さや観察を鋭く察知し、密かに曹永賀に話すなと目配せをした。「向経年と申します。彼は船員である曹です。我々は観光船の商売をしています。今日はお客さんを乗せて観光を連れて行く予定でしたが、途中で船が壊れて嵐に遭って波にここまで流されました」

 相手の警戒心を緩めるため、向経年は男に向かい、もったいぶって頭を振ってため息をついた。

「ああ、大赤字ですね。今回の出港は元手を全て失ったですよ。しかもどこに流されたのもまだわからないですし。ちなみに、お名前を教えていただけますか?」

 向経年の素直な話を聞いた後、男は安堵したようで、心を込めた笑顔になった。「僕は陳培安チェンペイアンと申します。ここは東啓ドンチー島です。本島に近いので心配しないでください」


 東啓島?

 向経年はびっくりした。彼はこの島について聞いたことがなかった。 彼は頭を振り向いて曹永賀を見たが、曹永賀も困惑して向経年を見ていた。

 陳培安は話を続け、「この島は比較的人里離れておりまして、部外者があまりここに来ないので、誰もが見知らぬ人に対して警戒しています。お気になさらないでください」と語った。

「ええ、陳さんも気にしないでくださいね。当たり前のことですから」曹永賀も丁寧に返事した。

 会話をしながら彼らは元の岩礁域に戻った。

 譚兄弟二人は船の中にいなかった。譚景山は岩の上に座り、顔色はまだ青ざめており譚雁光はそばに立って彼を見ていた。

 二人の姿を視野に入り、向経年は挨拶しようとしたとき、陳培安の背中をちらりと見て、突然ある考えが頭に浮かびた。

 違和感の原因に気づいた。

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