Ch.03 嵐
「ドォーンーーーーー!」
大きな雷鳴と共に船に波が打ち寄せ、船は激しく揺れ、四人ともよろめいた。
譚景山は譚雁光の方に倒れたが、掴まれて立ち上がることができた。「どうしたらいい?」と叫ばずにはいられなかった。
「君たち先に船室に戻ってください!」 向経年は舵に駆け寄り、船体を制御しようとハンドルを掴んだ。「ここにいると怪我するから!」
「兄ちゃん、戻りましょうか?」譚雁光は譚景山を支えて操舵室に出た。
「永賀、ガソリンがあとどれくらい残っているか見に行って、急いで!」向経年はハンドルを掴みながら振り返って叫んだ。
曹永賀はすぐに操舵室から飛び出した。
雨が視界を遮り、波が上がって船は制御不能な獣のようにじたばたしている。
向経年は船のコントロールを何とかを取り戻そうとハンドルを握り、その腕の筋肉はパンパンに膨らんでいる。
濃密な暗雲が分厚いカーテンのように船を覆い、暗い空に白い雷が次から次に落ち、小さな船は果てしない波の中で抵抗できない運命に何とか逆らおうとした。
向経年は全力で波と格闘している。しかし、舵輪はしっかりと錨に固定されているように重いだ。窓の隙間から猛烈な暴雨が侵入し、向経年の頭からつま先までびしょ濡れになった。彼はさりげなく顔の水をふき取り、髪をかき上げ、「永賀ーー! いつまで見るつもり? さっさと手伝いに来い!」と大声で叫んだ。
話が終わるやいなや、後ろから誰か彼と一緒にハンドルを握った。曹永賀のではなく、とても綺麗で指が長くて苦労したことがなさそうな手だった。
向経年はびっくりして横を向き、「どうしてここに来た?」と言った。
譚雁光が力を入れてハンドルを掴み、少し顔が顰めた。「僕、手伝うため、来た!」と喋ることに苦労した様子がした。
豪雨は容赦なく彼の高価そうなシャツとズボンをびしょびしょに濡らした。
緊急な状況に陥り、これ以上聞いても意味がない。向経年は少し姿勢を調整して彼に言った。「後で方向を変えるから、俺が指示出したらハンドルを思い切ってギリギリまで回して、できる?」
譚雁光は頷いた。
その時、曹永和が慌てふためいて走って来た。
「向兄!燃料またいくつかあるから十分だ!」
「よし!」向経年はダッシュボードを見つめてタイミングを計り、「今だ!回せ!」
彼がモーターを加速させて譚雁光とともにハンドルをギリギリまで回した。船は大波の中で勢いよく向きを変え、激しい乱気流の中、落下物の音も波の音と大雨にかき消された。
船体が傾いたせいで、譚雁光は立ち止まることができず向経年に直撃した。不意に突かれ強く衝撃を受けたが、彼がすぐに反応し体幹を安定させ譚雁光を抱き寄せた。
曹永賀は足転んで隅っこに滑り込み、痛そうな声を出した。
波に乗って、船首を安定させるために向経年はハンドルを握りしめて進むように加速した。
「掴むもの探して!」
二人はすぐに立ち上がり、掴むものを探してあっちこっちを見回した。
向経年はヨットを操り、次々の波を避けながら和寧港へのルートに向かっていく。
「ドォーンーーーーー!」
再び雷鳴が聞こえ、向経年は風向きがおかしいと鋭く気づいた。
「向兄ーーーー!」曹永賀が悲鳴をあげた。
向こうを見ると、船の側面から巨大な波が立ち上り、空を圧倒しそうに見えた。
「くそっ!」向経年は罵りながら最大速に上げ、猛烈な巨獣のような波から逃げようとした。
しかし、オーバーロードのせいでヨットの速度が逆に遅くなり、モーターは恐ろしく大きな音を立った。
吠え声を必死にあげ脅すのに苦労しているが逃げることができず死ぬ寸前の弱い犬のようだ。
向経年は、暴雨の中でそこら辺に見えそうで見えなさそうなかすかな土地を発見した。「海岸が見えた!」
彼が再び船の速度を上げようとしたが、過負荷により機械が瀬戸際にシャットダウンしてしまい、動力を失い船が停止した。
「しまった!ヤベェ!!」
「向経年、気をつけて!」譚雁光突然に声を上げた
向経年が見上げて猛烈な巨大な波が再び彼らを追いかけ、大きな勢いで落ちた。彼はそれについて考える時間がなく、無意識のうちに振り返って急いで譚雁光と曹永賀をつかみうつ伏せにした。
「息を止めろ!」
「兄ちゃんが…!」譚雁光は譚景山を探すため立ち上がろうとしたが、向経年に押し戻された。
一、二秒もいかない間に潮が船の側面を強く打ち、窓から海水が押し寄せてきた。 突然の揺れがあり、向経年はほぼ全身で二人を覆い、腕を広げて網のように溝をつかみ、二人を覆った。
水が勢いよく流れ込み、三人を一瞬で水没させた。まるで渦に落ちたようにぐるぐるさせられて転びまくった。
ずいぶんと時間が経ったようで、それとも一瞬のよう。
衝撃の最後に船体が何かに激しくぶつかった後、次第に落ち着き、海水もゆっくりと引いた。
向経年は少し時間をかけて起き上がり、数回咳をして顔を拭き、下の二人を軽く起こした。曹永賀も数回咳をしてから何事もなかったかのように素早く立ち上がった。
譚雁光はまだ目を閉じたまま横になり、顔は青ざめていた。
向経年はすぐに彼の顔を軽く叩き、「おい?譚雁光、大丈夫?」
数回叩いた後、譚雁光はゆっくりと目を覚まし、ぼんやりと少し水を吐いて、真っ黒のまつげが震えながら目を覚ました。
彼は数秒間ぼーっとしてやっと意識を取り戻したところ、突然立ち上がった。「...兄ちゃん!」
「お兄様はさっきから船室にいましたよね?」譚雁光が元気であることを確認して安心した向経年は彼を引っ張って立ち上げらせた。「多分、岩にぶつかったと思います。先に船室に行きましょう。」
向経年はガラスのない窓を越して外を見た。もう暴風域から脱げ出したはずだ。乘風号は大波に直撃され岸に流され、岩にぶつかっただけのようだった。どこにいるのかわからないが無事に生きてるのは何よりだ。
「向兄!腕が…!」曹永賀は目を皿のようにして向経年の腕を見て叫んだ。
俯いて見ると、向経年は自分の腕が傷だらけで血まみれになっていると気づいた。確かに見た目が恐ろしかった。おそらく混乱中に引っかかれたはずだ。
譚雁光はすぐに彼の手を掴んでじっくりと見る。「痛みを感じてませんか?」
向経年は少し不自然で手を引っ込めた。「大丈夫、大丈夫。大したことない。まずお兄さんのところに行きましょう!」話が終わるやいなや、彼が先に出て行った。
操舵室から出た後、向経年はやっと船の状態や外の様子をはっきりと確認できた。
彼らは岩礁に打ち上げられ、船はちょい大きな岩に引っかかった。この岩礁はまだ未開発のようで、具体的な場所がわからない。
考える余裕がなく、向経年たち三人は船室に急いで向かった。譚雁光が焦りながら扉を開け、びしょ濡れして動かずうつ伏せになっている譚景山を見た。
「兄ちゃん!」譚雁光がダッシュして譚景山をひっくり返した。
向経年も急いでいた。「彼を床に平らにして。俺が心肺蘇生する。永賀は俺と交代して」
譚雁光は慌てて指示に従って行動した。
向経年と曹永賀が交代しながらしばらく胸を押し続け、譚景山やっと蘇って水を数口吐き出して再び気絶した。
譚景山が危険状況から脱出した後、譚雁光は安堵のため息をつき、向経年に対し真面目に「ありがとう」と感謝の気持ちを伝えた。
「いえ、元々事故の責任は俺にあります。感謝なんて必要はありませんよ」
譚雁光は彼の腕に目を移し、「腕…応急処置した方がいいと思いますが……」と言った。
「救急箱まだ残っているかどうか見に行ってくるよ!」曹永賀がそう言った後、確認しに行った。
向経年は自分の手を見た。先ほど心肺蘇生術を施行した時にいくつかの傷を押し潰してしまい、譚景山の胸にも血がついてしまった。
アドレナリンが出たせいかどうかはわからないが、向経年の手は痺れや痒みしか感じられない。彼が思わず濡れている皺くちゃなベストを脱ぎ、ついてにさり気なく適当に血を拭き取った。
――見上げると、譚雁光の目が漂い、少し恥ずかしそうな表情がした。
向経年は眉を上げた。
譚雁光は咳払いして、「ここに着替えがあります?」と尋ねた。
「みんな男だから、気にしないけど?」 向経年は少し戸惑いたがすぐに彼のびしょ濡れしてほとんど透明になっているシャツを見た。
「着替えがいりますか?」
「あ、ううん…」譚雁光は何か言いたそうに見えたが、とうとう口を閉ざした。
なんか変な雰囲気になっている時、曹永賀は救急箱を持ってこっちに戻ってきた。おかげで向経年は妙に安堵した。
「色んなものは流されたけど救急箱は流されてなかった。ついてるね、向兄!包帯は濡れてるけどね」曹永賀は濡れた救急箱を開けて中身をチェックし始めた。
「あるだけでありがたいよ」向経年は彼が面倒くさいと思ったからそういった。適当にヨードチンキを取り、傷口にかけようとした。
「ちょっと待ってよ!」曹永賀は彼の勇ましい行動に驚いて、声が支離滅裂だった。
譚雁光は手を差し伸べて向経年からヨードチンキの瓶をひったくった。
「僕がやってあげますからじっとしてください」
「……はい。ありがとう」やってくれる人がいるならこっちも楽だと思い、向経年は素直に手を伸べた。
譚雁光は少し黙って、何も言わずにひたすら薬を塗った。
曹永賀は二人を見て、何か変だなと感じていた。奇妙な雰囲気に息が詰まりそうが何がおかしいのか分からなかった。彼は少し途方に暮れたように頭を掻き、「僕、ちょっとそっち見てくるわ。」と言って船室を出た。
向経年は目の前に静かに包帯を巻いてくれる男を見て、こんなに丁寧なんて、さすが坊ちゃんだと思った。自分だったら多分適当に薬を塗るだけで、こんなに丁寧にやるわけがない。
漠然と考えている向経年は彼の顔をじっと見ていた。見れば見るほど……この顔なんかどこかで見たことあるような気がした。
「あの…えっと…僕の顔に何か付いてますか?」
向経年は気がついたら自分が無意識のうちに彼の顔をじっと見ていることに気づいた。相手の困惑した表情を見て口を衝いて出てきた。
「ああ、かわいいなと思ってさ。」
「……」
——一瞬、場の空気が凍ってしまった。さらに怪しげな雰囲気に。
譚雁光はぎこちない表情がして「あ、そう?ありがとう?!」と気まずそうに言った。
可能であれば、向経年は一秒前に戻って自分の首を絞めたくて仕方がなかった。恥ずかしさを和らげるために何かを言いたかったのだが、たまたま近くで何らかの動きがあったときだった。
譚景山はゆっくりと目を覚ました。
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