KAC20234 クソだ! この世界は!

白川津 中々

 眠れず堪らず居ても立っても居られず、俺は深夜にケッタマシーンをかっ飛ばして埠頭へと向かったのだった。


 風を切り、闇を抜けて、普段はクソガキの声こだまする住宅街を颯爽と通り過ぎて大通り。薄ぼんやりとした街灯頼りに全速前進スピードスター。闇の時間、公道は俺だけのMy Way。楽しく一人でスクランブルダッシュ。世界よ。これが俺だ。どこまでも行くぜ。どこまでもどこまでもどこまでも。すまん。それは盛ったわ。そんなに行けないわ。兎角ペダルを踏み踏み。クソ田舎のクソロード。皆寝静まり誰かとすれ違う事もなく車も静止している中ストレスなく埠頭に到着。つまりはここまで。車両での立ち入り禁止と書かれた案内に従い徒歩へ移行。海に向かって早足。焦る気持ち抑え難く次第に駆け足。波の音、潮の香り、風の肌触り。気分は上々。長い長い道のりを超えて今、眼前にはSee。テンション絶好調で周りを散策。昼間とは違う世界に興味津々。歩く、歩く、歩く、歩く。海だ。うん、海。それだけ、それだけだ。他に何もない。ちくしょう。







 ……白状しよう。実のところ、何かあるんじゃないかと思っていた。妄想していた。求めていた。都合よく女と出会える展開を!


 しかし! しかしない! 深夜に海を眺める不可思議な女性を発見したため眺めていたら「好きなんですよ、夜の海」なんて声をかけられるといったアニメーション作品のシナリオを彷彿とさせるドラマチック&ロマンチックなエンターテイメント的ラブストーリーなど! しない! 存在しないのだ! あるわけがない!




「クソだ! この世界は!」

 



 叫び戻る埠頭の入り口。マイケッタマシーンにライドオン。走る違和感。タイヤ確認。パンク。




 俺は自転車を引き、クタクタになりがら歩いて帰って夕方まで惰眠を貪った。何もない日常が終わり、何もない日常が始まる。俺には何もない。何も、ない。


 クソだ! この世界は!

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