第五章 盗賊包囲網に気をつけろ
第44話 暗い森の奇襲欲
山田和希との戦闘から一時間ほどが経過した。未だに道は見えてこない。
「なぁ、何時になったら着くんだ~?」
樹生が文句を言う。先ほどの戦闘から休む間もなく行動をしているため、ほか三人に比べてかなり疲労が溜まっているのだ。
「まだだな。少なくともあと二時間程はかかるぞ。」
「え~。」
エヴィラの言葉に樹生は落胆してしまう。どうやら、四人がいた場所は森の中でもかなりの深部だったらしい。
「しかし、こんなにも道が見えないものなのかね。」
そこで、グラムが付け加えるように疑問を言う。それに対し、エヴィラが答える。
「まあ、元より繋道など関係なく一直線に進んでいったからな。ここらで森の奥深くに入る予定だったから間違いはないよ。」
「なるほどね。」
「な、なぁ。やっぱりちょっと休もうぜ。」
樹生が弱音を吐いてしまう。流石に限界なのか、足を止める。
「気持ちは分からんでもないが、ここで休むわけにはいかないんだ。」
「何でだよ~。」
「先ほどの出来事を忘れたのか?」
そう言われ思い起こされるのは、和希との戦闘である。結果として、和希がいなくなり、その瞬間は樹生の勝利で終わった。しかし、和希がいなくなったとはいえ、完全に襲いに来なくなるわけではない。ましてや、和希が逃げたとも言い切れないのだ。
「和希の姿がなかった以上、また襲われる可能性だってあるわけだ。あらゆる可能性を考えたとき、早いうちに人目の付く場所に出ることが最善策なんだ。分かってくれ。」
エヴィラは優しい声で言う。その声色に樹生も強く反論できるわけがなく、口を尖らせながら小さく同意する。
「分かったよ。」
「ッフ、ならよかった。さあ、それなら前に進もう!」
エヴィラは前に向き直り、再び歩き始める。樹生もため息を一つついてからその後ろをついていく。
一歩一歩、歩みを止めずに森を進む。しかし、周りの景色は一切変わらず、木々が映るばかりだ。先ほどの樹生の言葉も相まってか、徐々に集中力が途切れてしまう。樹生以外にアナも集中力が途切れ、警戒を怠ってしまう。そうなれば、四人の空気は次第に緩いものとなっていき、グラムやエヴィラも警戒を解いたわけではないが、それでも緩いものとなっていた。
武器を持っているとはいえ、ほとんど警戒を行っていない四人は傍から見れば格好の的と言えるだろう。最も、それは彼らに対して邪な考えを持っている者たちから見ればだろうが。
突如、グラムが立ち止まり、一方向をなぜか凝視していた。
「来る。」
グラムがそうつぶやくと、三人の目の前に割り込み、斧を振りかぶる。瞬間、前から何かが飛来する。それをグラムは薙ぎ払い、地面へ撃ち落とす。
「なっ!」
「これって…!」
地面に転がったのは、切られた矢が数本。間違いなく、誰かが彼らに向かって撃ってきたのだ。
「油断するな!まだ来るぞ!」
グラムの言葉により、四人は矢が飛んできた方向に集中する。しかし、前方から何かが来る様子は一切なかった。
すると、エヴィラが何かに気付き、即座に後ろを振り向く。
ギンッッッ
槍と刃がぶつかり、大きな金属音を立てる。目の前には、剣を持った二人の男がいた。
「チッ、気付きやがって!」
「へっ、どうせたまたまだ。次の攻撃で殺してやる!」
相手はそう意気込み、再び四人に襲い掛かる。
しかし、彼らの攻撃はいともたやすく弾かれてしまう。先ほど以上に大きく後ろへよろけてしまう。
エヴィラは後ろへ回り込み、間髪入れずにさらなる攻撃を与える。的確に首筋を狙い、横薙ぎに強い衝撃を与える。攻撃が急所に入ったこともあり、一瞬にして彼らの意識は刈り取られた。
「フッ、あっけなかったな。」
「は、速え。」
一連の動きの素早さ、そして戸惑いのなさに樹生だけでなく、アナやグラムでさえ驚嘆していた。
「ほら、何ぼさっとしてるんだ?早くこいつら縛りな。特に、樹生ならできるだろ?」
「えっ?あ、あぁ。『縛れ』。」
地面から伸びた蔓は二人を強く縛り、簡単に動けないようにした。
「ふむ…。」
「どうした?そんなに悩んで。」
二人を撃退したエヴィラだが、少々浮かない顔をしていた。
「あぁ、いや。屋の飛んできた方向と彼らが襲ってきた方向が真逆だったからな。」
「真逆って、まさか!他にもいるってこと!」
「確かに、こいつら弓持ってないな。」
「まあ、それくらいは簡単に予想がつく。それ以上に、何人が私たちを囲んでいるかだ。」
暗い森の先を見渡し、警戒しながら答える。昼間だというのに、木々が日の光を遮り、はるか先を黒く染める森の中で、微かに光る何かが一つ、二つ、いやそれ以上にたくさんあった。
業欲の天体 イルカ巻き @irukaroll
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