愛犬と深夜のわらしべ長者
秋雨千尋
豆柴の豆太とのんびりお散歩
深夜に犬の鳴き声が響いた。
もう、どこの犬よ……うちの豆柴だわ。
「ワンワンワン!」
お腹が空いたのかと思ったけど、サッと首輪を咥えてきた所から、どうやら散歩の催促のようだ。
おかしいな……夕方に二時間したのに。
まあ、犬にも駆け出したい夜があるのだろう。私は軽く着替えて上着を羽織った。
しばらく歩くと、杖をついたお婆さんがいた。
「夕方にカバンを失くしてしまってねえ」
一緒に捜索すると、バス乗り場の時間表のあたりに引っかかっていた。拾った人が見つけやすいように置いたのだろう。
「ありがとうね、良かったらこれどうぞ」
お婆さんはのど飴を袋ごとくれた。
豆太が電信柱におしっこをしたので、ペットボトルで水をかけていると、公園から豪快なくしゃみと咳の音がした。目をこすり、鼻水をかんでいるスーツ姿の男性が出てきた。
「ごんばんば……」
「花粉症、お辛そうですね。良かったらどうぞ」
「だずがりばず」
男性はお礼として牛丼大盛り一杯無料のチケットをくれた。豆太が嬉しそうにくるくる回りながら鳴いている。そろそろ小腹が空いてきたし、行ってみようかな。
しばらく歩いて駅前までやってきた。
深夜でもやっている牛丼屋と、閉まっているパン屋さんの隙間からホームレスが現れた。
「三日も食ってなくて死にそうなんだ。どうかお恵みを……」
私は牛丼大盛り一杯無料のチケットを渡した。
ホームレスはお礼として拾い集めたくしゃくしゃの宝くじをまとめてくれた。
一日一善ならぬ、一夜三善とは、有意義な散歩だった。いい事をすると気分がいい。豆太と一緒に見上げたお月様はキラキラ輝いている。
貰った宝くじを売り場に持って行ったら、なんとトータル十万円になった。
前から欲しかったゲーム機とソフトを買い、痛んだ靴を新しくして、友達と温泉旅行を満喫した。
勿論、豆太にも高級ドッグフードを買ってあげた。
また深夜のお散歩に誘ってね。
愛犬と深夜のわらしべ長者 秋雨千尋 @akisamechihiro
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