山田と鈴木
exa(疋田あたる)
第1話
「だいたいにおいて、季節の花を探そうなどという課題が出されること事態、ナンセンスだ。そのうえ写真添付必須などと」
山田タロウは不平不満を隠しもせず、文句を垂れながら夜道を歩いていた。
不平不満などという不要物を腹に溜めておくのは、体によろしくないというのが彼の持論である。
「まあねえ、大学生にもなって、とは思うけどねえ」
間延びしたあいづちを打つのは、タロウと学部学年を同じくする鈴木だ。
飲み会に参加した帰り、家まで歩くのが面倒になったという理由でタロウの部屋をたずねた鈴木は、どういうわけか深夜の散歩に連れ出されていた。
とうぜん、自宅まで帰るよりも長い距離を歩かされることとなった彼は不満たらたら……というわけでもなく、案外と楽し気に暗い夜道を右に左に蛇行する。
「ていうか、締め切りいつなの? その課題」
「明日だ。いや、もう日付が変わったから正確には今日の朝六時きっかりまでが提出期限」
「ふうん。変ってるねえ」
課題の内容も大学生らしからぬものだが、提出期限も明朝六時とは変わった教授だな、と鈴木がうなずく。
しかし、タロウは首を振って否定した。
「いや。俺が伸ばしてくれるよう頼み込んだ」
「んん?」
「本来であれば日付が変わる二十三時五十九分までしか受け付けない、と明言されていたんだが、そこは俺の特殊な技能を用いてだな」
「あー。タロウ、課題忘れてたんでしょ」
「まあな」
提出期限があるならば期限までに終わらせれば良い。タロウはそういう考え方をする男だ。
そして、締め切りがあったことをしばしば忘れて、窮地に陥る男でもある。
「タロウのその謎の交渉術、すごいよね。感心しちゃう」
「ふふん。褒めても教えてやらんぞ」
胸を張るタロウをよそに、鈴木はふらふらと民家と民家の間にある空き地に向かって歩いて行く。
「とは言え、こんな時間に花なんて見えなくない?」
鈴木の発言は至極もっとも。
そもそも花に興味のない男ふたり、昼間でさえ花のひとつも視界に入っていやしないのに、暗がりのなかで花が見つけられるとは思えない。
しかしタロウはにんまり笑う。
「ふふん。鈴木くんや、今をいつだと心得るね」
「ん? 真夜中? 草木も眠る丑三つ時?」
「まあそうだが。それだけではない。今は三月。春なのだよ。そして春の花と言えば梅!」
「梅」
ふむ。と頷いた鈴木は首をかしげた。
「梅がどうしたの。心当たりあるの?」
「おやおや、君は風流を解さないのかね。梅といえば香る花。香りならば、見えずとも問題ない。むしろ夜の闇で視覚が封じられれば、いっそう際立つというものさ!」
どやあ、とばかりに言い切るタロウに、鈴木は一言。
「だったら別に外に出て来なくて良かったんじゃない? ベランダから外の写真撮って添付すればさ」
「あ」
山田と鈴木 exa(疋田あたる) @exa34507319
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