第42話 侵入出来ない?
「ココダ、フィフ ガ イタ」
ベッドと椅子と小さな机しかない牢獄のような部屋に五代目はいた。南側に大きめの窓が一つついて日当たりはいいが、この高さからじゃ、飛び降りたら命がない。
「五代目、こっちだ。助けに来たぞ」
吸気穴からよぶと、立ち上がった五代目は……。
「イッチ、ニ、サン、シ」いきなりストレッチを始めた。
体を動かしながら部屋を回り、吸気穴の下に来ると、壁を使って腕立て伏せを始める。
「ホームズさん、ここ監視カメラがついてるんです。音声は拾えないからそのまま聴いてください」
壁に向かって腕立て伏せなら、口の動きはカメラに見えない。なるほど。
「僕が逃げたらすぐバレる。僕より先にモリアーティくんの方を助けてください。
モリアーティ君は、細菌感染者の隔離室に捕まってます」
「わかった。確認だが、君たちを誘拐したのはラロ・シフリンJr.でまちがいないか?」
「そうです。タクシーに乗ったらドアがロックされて、そのまま引越しトラックに車ごと乗せられて、ここに連れ込まれました。
まさかモリアーティくんの言ってたドーナッツのいじめっ子と、盲腸で数学オリンピックを欠場したラロ・シフリンが同一人物だったなんて。
僕の背が伸びたのを噂で聞いて、親子で「背を高くしろ」ってモリアーティ君に要求してきたんです。
僕が、「背が高くなったって良いことばかりじゃないよ」って言ったら、殴られそうになって。
モリアーティ君が、言霊で「誰も、五代目を傷つけられない」と言ってくれて助かりました。
「背を高くしても良いよ。でも俺の言霊、三日に一回しか使えないんだ。今一回使っちゃったから、後三日待たなきゃダメ」って。
それで、ずっと閉じ込められてました。
アイツら『僕に水も食料も与えずに餓死させる』ってモリアーティ君を脅して、言うこと聞かせるつもりなんです。
モリアーティ君は完璧主義で、失敗慣れしてる僕なんかよりずっと繊細なんです、守ってあげてください。
今日で三日目、彼が自由になって言霊を使えば、逃げる方法はいくらでもある。
隔離室は地下です、早く行ってください」
三日に一回? この前ジェットコースターに乗せられた時と、次の日黒兎に嫁の約束をした時、一日しか経ってなかったぞ?いや、あれは話だけだったか……。
「わかった、もう少しの辛抱だからな」
今度は下へ下へ……マザーのロープが役に立った。
「イキドマリダ。 ナンカ キカイ ガ フサイデル」
黒兎の言葉に、ドックが答えた。
「空気の浄化装置です。ここは“レベル4 ”の細菌兵器も扱っているので、細菌が漏れないようになってるんです」
「それで探しても、モリアーティの匂いがしなかったのか。開けられないのか?」
「整備の時には外すんですが、コンピュータで管理してますので、解除しないと」
「メンドーダ、 ワガハイ ノ ホール デ」
黒兎が叫ぶのをドックが止めた。
「ダメです! 短気はいけません。匂いを探れないまま迂闊にホールを開けたら、細菌のケースに穴を開けかねない。パンデミックになる。
こんな時のためにノートパソコンを持って来たんです。
今からアラームを停止状態にします。パスワードは分かってますから」
ドックがそういうと、しばらくカタカタというキーボードを叩く音が続き、「パスワードを入力してください」と表示された。
入力ののち、エンターが押されたが……
「くっ、パスワードが変わってる。待ってください別のルートで……」
「頑張って! 私達の未来がかかってんのよ」
アイリーンが励ます。かなり難ありの性格の女性だが、二人が愛し合ってるのは本当のようだ。
カタカタと小一時間キーボードの音が続いた、難航している。
狭い通路で息苦しいので、時々サリーさんが風の
こんな時ほどモリアーティがいてくれたらと思う。彼なら、こんな道など一言で開いてくれるだろうに。だが、そのモリアーティを助けるためのミッションなのだ。
今、私の手の内にあるもので何とかするしかない。
考えろ、考えろ、考えろ、お前はシャーロック・ホームズなんだぞ!
「うわっ、パソコンのバッテリーの残量が少ない……」
ドックの焦った声が通路に響く、もうダメか。一時撤退して出直すべきか?
「待って、補充するわ」
そういうと兎娘はポンとパソコンに触った。途端にバッテリーが満杯になる。
「え? な、何で」
ドック呆然。
「いつもやってるの。五代目もモリアーティくんも、助かるって喜ぶ」
「そういえば、ドワーフの洞窟にいた時も、Wifiとかいうものに繋いでいたな。兎娘はコンピュータと相性がいいのか?」
私の問いに兎娘が戸惑ったように答えた。
「相性っていうか……えーと、電子とか素粒子とか、前に五代目が言ってたでしょ?私その流れを感じるし、パワーを注いだり、もらったりできるの」
「では、コンピュータを思い通りに操作できるのか?」
「わかんない。Wifiの時は『繋がって』って頼んだら繋がったから」
私と兎娘の会話に、ドックが割り込んだ。
「いや、それは危険だと思う。迂闊にアクセスして、コンピュータの全データが流入したら、脳が受け止めきれずにパンクしてしまいますよ。うちのビット数は半端ないですから」
「そこをうまく頼めないかな?『細菌を漏らさない安全対策をして、アラームをしばらく切ってくれ』と」
「頼むって……無理ですよ、コンピューターに意志なんてないんですから」
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