第41話 犯人判明!

 B・Bの手はなおも書き続けた。


「え?『こうなるのは分かってた。なぜ私が、あなたと私の入れ替わりをバラそうとしたかわかる?アリスがチャーリーのこと好きだって私に告白したからなの。取り持ってくれって』

 そ、そうか。アリスさんは姉弟だと信じてたんだものね」


『だから、本当のことを告白して、私が妻だとわかれば諦めてくれると思った』


「うわーそれで、あの時あんなに本当のことを話すって言い張ったんだ。

 でも墓に行くんなら、あんた一人で行きなさいよ。

 私はパパに頼んで、もう一つの方のお墓の体を生き返らせてもらって、ドックと幸せに暮らすんだから」


『結婚は死が二人を分つまで。私たちはもう死んでいる。死んだ者が生きている人間を縛るのは間違っている』

「何いい子ぶってるのよ、あんたはもう待ってる人がいないけど、私にはいるのよ!

 あんたは一年以上ピエロと夫婦でいられたけど、私たち一緒に暮らしたことさえない。不公平じゃないのー」

アイリーンが泣き出した。


「姉さん、B・Bの言うことの方が正しいよ。無理がありすぎる」

 ピエロが割って入った。


「そこは私が上手く隠すよ、誰にも見つからない所に家を買って……」


 ドックの言葉に、ピエロが答えた。


「そうやって誤魔化したって限度がある、いつかはバレますよ。

 姉さんは、二人も殺してるんだ。いや、僕の子供を入れて三人か。

 それが生き返ったと分かったら、裁判になる可能性も……」


 だんだん修羅場になってきたようだ。




「まあ、こちらは当人たちの話し合いに任せるしかないな。しかし、白人マフィアも違う、中華マフィアも違うとなると、モリアーティと五代目は一体どこに連れ去られたんだ?」


「え、モリアーティさんですか? 僕、昨日見ましたよ」 


「「「「「「「「「はあ?」」」」」」」」」

ピエロの言葉に全員が驚いた。


「僕、模範囚なので、マジックの腕を買われて、時々他の刑務所に慰問でマジックショーを見せに回ってたんです。

 その内口コミで軍の関係にも呼ばれるようになって。

 昨日、陸軍の新設された細菌研究所に慰問に行った時、ちらっとですがモリアーティさんがいるのを見ました。

 どうしてこんな所にいるのかなぁと、不思議に思ったんですけど」



 ――労せずに、向こうから結果が転がり込んでくる事もあるのだ。



「あの細菌研究所は、僕がプランニングしてコンピュータを納入したところで、今でもメンテナンスを担当してます。

 データ全部入手できますよ。所長のラロ・シフリンとは付き合いがありますし」



「「ラロ・シフリンですって」」

 ブリジットさんとエホナラさんが同時に叫んだ。



「え、お知り合いですか?」ドックが聞くと



「名前だけ、それも息子さんの方。盲腸で、数学オリンピックに出られなかったのが、ラロ・シフリンJr.って子なの。メンバーの中で一番チビで、30cmのシークレットブーツ履いてるって五代目が言ってた。珍しい名前だから覚えてたの」


 ブリジットさんの答えにエホナラさんが続く。


「ジャム坊やがこっちに越してきてすぐの頃、子供からドーナッツ取り上げてたいじめっ子に、カッとなって『お前なんか、一生ドーナッツ食べられなくなればいいんだ』って叫んでしまったの。その子それがきっかけで、糖尿病から拒食症になって、育ち盛りに食べられなくて、背が低くなっちゃったって後で聞いた。その子の名前が、ラロ・シフリンJr.」



「本当ですか! お父さんのラロ・シフリン所長もすごいチビで、やっぱりシークレットシューズ履いてます。2019年メリーランド州のフオートデトリックの陸軍生物兵器研究所が閉鎖されて(*注)、そこから移籍して来た人なんですが、ちょっとマッド・サイエンティストなとこがあるんです。

 親バカで有名で、背が高くなるようにと息子さんにたくさん食べさせ過ぎて、糖尿病にしてしまったと聞いたことがあります。


 息子さん、今はスカウトされてホワイト・ハッカーとして軍の仕事をしています。最後に目撃された時、二人の乗ったのは自動運転タクシーでした。

 コンピュータを乗っ取れば、誘拐なんて簡単です。

チビで二人に恨みがある。そんな男が、五代目が急に背が伸びたと知ったら……」



「決まりだな」私は言った。



 ◇



「ここが吸気穴か。マザー、みんなを小さくして通れるようにしてくれ」

 透明マントで身を隠した私は、隣のマザーに頼んだ。


 私、マザー、ドック、キョンシー・アイリーン、サリーさん、黒兎・赤ちゃんシンバを背負った兎娘が今回の21世紀、不正規隊イレギュラーズのメンバーだ。残りは戦力外なので留守番になった。



「驚きました、魔法って便利ですね」

ドックの言葉に、


「あなたが基地の見取り図を取り寄せてくれたからです。21世紀の建築にこんな便利な“穴”があるとは知らなかった。黒兎、モリアーティの匂いは見つかったか?」


「モリアーティ ハ シナイケド、 カスカニ フィフ ノ ニオイ ガ スル! ソッチ ニ ムカッテル」


 サリーさんとドック以外は、穴を通るのは慣れたものだったが、上へ上へと、エレベーター無しの十五階は、流石にきつかった。



 *******

(*注)フォートデリック陸軍生物兵器研究所1943年設立~2019年7月閉鎖。

 米軍は「科学生物兵器(CB兵器)能力の維持は、他の国からの同種の攻撃に対する抑止力として重要。CB兵器を保持、開発していく」と宣言。日本の陸軍生物兵器と満州第731部隊のリーダー石井四郎は、全ての資料を持ってここに逃げこんだ。1975の北朝鮮での「流行性出血熱」(旧満州の風土病)76年の中央アフリカでの「エボラ出血熱」は同じもので、米軍が新しい細菌兵器の実現のため作ったものだとか、黒い噂が絶えなかった。


    

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る