第38話 グランマ達は語る。

「今から25年前、私の屋敷で開かれた大学のクラス会で『おい、そろそろそっちに行くからな』って頭の中に声が響いたの。その直後、サリーを車で送ってきた息子さんと、うちの娘がお互い一目惚れ。夫の反対を押し切って二人は結婚。でも娘はジャム坊やを産んですぐ亡くなってしまい、ジャム坊やはサリーと息子さんが育てていたの。

 でもあいつが言うには『六歳になったらお前が引き取れ。この子の中には俺の他にもう一人いる。そいつが言霊能力を使うと危ないから、俺の力で六歳までこの子の口を閉じておくから』って。それで六歳の誕生日に迎えに行ったら、事件が起きて……」


「その続きは私の方が詳しい」

 サリーさんがそう言って話し出した。


「私の種族はチュマシュ族と言って、東の果ての国から海を渡ってこの国にたどり着いた。(*注1)その旅で祖先が風の精霊マニトウと友達になり、子孫の私も加護を受けていて、こんなことができる」


 突然小さな竜巻のような風が起こった。ティーセットの横で皿に盛られていたラングドシャークッキーが持ち上がり、空中で重なり繋がってHelloと綴ると、皿に戻った。風を自由に動かせるようだ。


「今はAIM(*注2)で知り合った別の種族の男に嫁いで内陸の居留地に住んでいるが、ジェームズが六歳の時、部族の土地をカジノにする計画が持ち上がって、(*注3)反対する私の息子をマフィアがリンチで殺してしまった。息子の葬式の日があの子の六歳の誕生日だった。

 あいつらは子供と侮って、。あの子の相続した土地に、勝手にショベルカーを持ち込んで、掘り返そうとした。怒って、ジェームズは、嘲笑うマフィアのボスに向かって『お前なんか大嫌いだ、死んじまえ!』と叫んでしまった。

 途端にショベルカーの足元の土が陥没し、穴にはまったショベルカーのクレーンアームが振り回され、笑っていたボスの頭にアームのバケットが直撃、首を刎ねた。

 今でもあの子を、あの白人マフィアのグループが仇と狙っていて、私一人では守りきれない。だからあの子の記憶をエホナラに消してもらい、彼女に渡した。あの子が思い出すといけないので、私はそれから一度もあの子に会っていない」


 ――お前なんか大嫌いだ、死んじまえ――

 なぜか昔聞いたモリアーティの言葉と、顔を思い出す。

 あれをまたやってしまったのか。


「その後は、ジャム坊やは私が育てたんだけど、あの子の力はどんどん強くなるばかり。『助っ人を見つけたから、ソイツと合わせろ』って道士に言われて会わせたのが、ブリジットの孫の五代目って言う訳なの」エホナラさんが、答えた。


 *******

(*注1)ロサンゼルスの南、チャンネル諸島は、北米で最も古い人骨の出る所。そこに住む海洋民族チュマシュ族は、三万五千年前、縄文人が日本からアラスカを通り、メキシコまで続くジャイアント・ケルプの道を船で旅して到達したとする説。

 アフリカで生まれた人類のアメリカ大陸到達は、氷河の陸路の一万三千年前とされてきたのを覆した。昆布の一種のジャイアント・ケルプは長さ50メートルにも達し、波を和らげ、船をつなぐこともできる。チュマシュ族は石器の形や遺伝子も縄文人に近く、今でも縄文人のように干したドングリを粉にひいて主食として食べている(浪漫です)。


(*注2)AIM(アメリカ・インディアン・ムーブメント)「全米インディアン若者会議」を前身とするレッドパワー運動。1968年結成。全米最大のインディアン組織。白人社会の人種差別と暴力に対抗して、占拠・デモ・抗議運動を展開。その手法は、TVマスコミを利用し、全米中継させるというもの。

 1969年サンフランシスコ沖のアルカトラズ島占拠にはじまり、1970年インディアン学校を設立、インディアンを野蛮人と表記した歴史の教科書を書き直す。

 1973〜4年ウーン・テッド・ニー占拠と裁判を経て、ついに合衆国はインディアン居留絶滅法案を提出。自治権を剥奪、民族浄化の動きが起こる。

 1978年AIMの創始者デニス・バンクスによる平和的抗議行動、「最長の徒歩」ロンゲスト・ウォークおこる。アルカトラズ島からワシントンD.Cまで、徒歩で四千人が、五ヶ月かけて行進。ホワイトハウスの前で、ティーピー(インディアンの移動用テント)を立てて座り込む姿が全米で反響を呼び、インディアン絶滅法案は廃絶された。

 1980年創始者メンバーは脱退。現在の運動は、各部族の自主性に任されている。


(*注3)インディアン・カジノ。1800年代、豊かな土地から強制移住させられ、貧しい居留地に押し込められていたインディアン達は、生活のため連邦法や州法が直接適用されない自治区の居留地である事を利用し、1970年代カジノ経営に乗り出す。インディアン・カジノは、数台のスロットマシーンやビンゴ場から、城のような豪華ホテルやレストラン、劇場、ゴルフコースなどを備えたものまである。

 経済効果は高いがギャンブル依存症、治安の悪化、マネーロンダリングなど問題は山積み。カジノの利権に群がる白人資本家グループや、マフィアなどが、先住民にカジノ建設計画をゴリ押しでもちかけるが、カリフォルニア州はカジノを承認しない姿勢を続け、連邦政府の承認が下りず、法廷闘争が続いている。


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