第三章 ブラック・フライデー/モリアーティ最後の事件
第37話 ブラック・フライデー
【作者注】今回も、たくさんの(*注)が出てきます。読まなくてもストーリー上問題がないので、読み飛ばして下さっても大丈夫です。興味と時間のある方だけお読みください。
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「おい、モリアーティと五代目が、誘拐されたんだって?」
黒兎と一緒にホールを出ると、モリアーティの家の前だった。
夕暮れの中、兎娘のビオラが、ライオンの赤ちゃんシンバを抱いて待っていた。
「ホームズさん、五代目も一緒に拐われたの。もう二日になるのよ」
顔は青ざめ、綺麗な紫の瞳が泣き腫らして赤くなっている…‥が、その格好は何なんだ? 上から下まで全身あのパークのネズミだらけじゃないか。あの時買った100周年のジャージからネーム入りハットまで。
「モリアーティ ガ ディズニーランド ノ ネンカンパス ヲ プレゼント シタカラナ。 オレモ イツショニ ショッチュウ イッテタ。 ゼンシセツ コンプリート シタンダゾ」
「何をうかれてるんだ。そんなだから誘拐されたんじゃないのか!」
「だって今日の
モリアーティの屋敷のティールームには、マザーとブリジットさん(五代目のお祖母さん)エホナラさん(モリアーティの母方のお祖母さん)ともう一人、見知らぬ老婦人がいた。長く編んだ三つ編み、動物の骨の首飾り姿は、インディアンのシャーマンの様に見受けられる。
「ホームズさん、紹介します、モリアーティ君の父方の祖母のサリー・ジャックマン。彼女と私とエホナラは大学の同期なのよ」
五代目の祖母のブリジットさんが紹介してくれた。
そして何故かピエロのお父さんのアーリー氏までいた。
「何故あなたがここに?入院してなくて良いんですか」
「もう大丈夫です。モリアーティさんが言ってくれたんです。『大丈夫、お父さんきっと良くなるから』って。それで新しい病院で最新の治療を始めたら、ステージ4だったのにどんどん良くなって、今じゃ癌は完治して、もう退院したんです。」
その言葉に呆然。モリアーティの言霊能力、半端なし。
「及ばずながら、私もモリアーティさんを探すお手伝いをしております。
実は呪いをかけられてたチャン一族の一部の者が、モリアーティさんを逆恨みして、知り合いの中華マフィアと結託。仕返ししようとしてたんです。
そちらは警察の協力のもと、全員逮捕となり、今回の誘拐犯ではないことが分かりました。今は、チャン一族と共に華僑のルートを通じて、情報を集めています」
「他に手がかりはないのか? 黒兎の鼻でもダメか」
「ワガハイ ノ ハナデモ ミップウクウカン ハ ダメナンダ。 レイゾウコ ノ ナカ トカ クルマ ヤ ヘリコプター デ イドウ サレタラ オエナイ」
なるほど、警察犬でもそれは無理だな。
「モリアーティ君が、シンバを飼う許可もらうための書類を届けに、市役所に行こうとして二人で『自動運転タクシー』(*注2)に乗って、それきり消えてしまったんです。身代金の要求もないし。モリアーティ君はともかく、五代目は人の恨みを買うような子じゃないのに」とブリジットさん。
「モリアーティはともかく? 彼は恨みを買う覚えがあるんですかな。いい子にしてると聞いていましたが」
「あの子は六歳の時、父の仇の男を、言霊を使って一人殺してる」
サリーさんが言った。
「なんだって! だがあの言霊能力を使えばあり得るな。そうだ、聞きたいことがあった。エホナラさん、モリアーティが言っていた『言霊使いで子孫に生まれ変わる道士』とはどんな人物なんです?」
「私、子供の頃から頭の中に話しかけてくる男がいたの。危ないことや、困ったことがあったらいつも助けてくれた。彼は前世の私の幼馴染で、今度生まれ変わったら必ず私のところに行くと約束してたからって。それでその……私は覚えてないんだけど彼がいうには、私は西太后の生まれ変わりなんですって(*注3)」
クラッとした。よりにもよって西太后……。そんなのに育てられて、いい子に育つ訳ないじゃないか!
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(*注1)
(*注2)無人タクシー、ロボタクシーとも。2023年8月10日、カリフォルニア州は世界に先駆け、サンフランシスコ全域で、自動運転技術とレーダーセンサーを組み合わせた、自動運転タクシーの運行にゴーサインをだした。しかし、制御不能に陥りかねないロボタクシーの安全性に対する懸念は、拭いきれていません。
(*注3)西太后。清朝末期の権力者、満洲の
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