徘徊少女と殺人犯
黒片大豆
「──誰かいるな、女の子か?」
草木も眠る丑三つ時(午前二時頃)。
深夜に巡回していた俺たちは、挙動不審な少女を保護した。
警官の姿を見て一瞬驚いたようだが、職務質問には素直に応じてくれた。
当初は、『眠れないから散歩してただけ』と言い訳していたが、次第に、本当のことを話してくれた。
年齢は16歳。家はそう遠くないが、近所とも言いがたい。
「持ち物検査するね」
公園のベンチに場所を移し、彼女の所持品の確認を求めた。彼女は強く拒んだが、俺は優しく説得し、ついに観念したかのように手荷物を広げた。
「あんまり、穏やかじゃないな」
俺は、彼女の持ち物に驚愕した。催涙スプレー、ロープ、折り畳み式警棒。スタンガンに、極めつけはサバイバルナイフ。
「……事情を話してくれるかい?」
すぐにでも警察本部に掛けあうべきだったが、俺は、少女がまだ16歳という年齢も加味して、一旦、彼女の言い分を聞いてあげようと思ったのだ。
「私……殺人鬼を探してるんです。刺し違えても、犯人を捕まえたくて」
彼女は重い口を開いた。
「あの、連続殺人犯を? 」
既に3人目の被害を出している、巷を騒がせている凶悪犯のことだ。被害者はいずれも、彼女の年齢に近い。
今だ捕まらない犯人を警戒して、俺たち警察官は夜回りしてたのだ。
しかし、こんな年端もいかない子に『刺し違えても』なんて考えをさせるには、何か特段の事情が有ると見える。
「3人目の被害者……
「そう、だったのか」
「深夜に、電話があったんです。最初、誰からの電話か分らなかったけど、すぐに新奈からだってわかりました。『おなか刺された…… 痛い……苦しいよぉ』って電話越しに彼女、呻いてて……」
彼女はうつむき、顔を両手で覆った。そして肩を震わせ嗚咽した。
「その次の日に……ニナ、変わり果てた姿で見つかったって……」
すすり泣く彼女の声は、深夜の闇に吸い込まれる。
「それは……」
俺は、なんとも形容しがたい思いで、彼女から少し距離をとった。
そして俺は、彼女に悟られないよう、公園を見張っていた同僚に無線を飛ばした。ここからは、慎重に事を運ぶ必要がある。
被害者の死因は失血性ショック死だが、腹部には無数の刺し傷を受けていた。彼女が友人から受けた通話内容と状況は一致する。しかし、その死因は、メディアで報道されていない。公にされていないのだ。
そして、もう一つ公開されていない情報がある。被害者、村崎新奈のスマホは料金未払いで、しばらく使えなかったはずなのだ。
深夜に物騒な荷物を持ち歩く彼女。
被害者のスマホから掛けられない電話。
そして、普通では知り得ない被害者の死因。
泣き止んだ彼女は、ベンチに腰掛けこちらを見ていた。俺は、彼女が逃亡しにくいよう、公園の出口側を意識しながら、かつ、十分な距離を保ったまま、無線の返事を待った。
『どうした?』
同僚の警官から無線が帰ってきた。俺は、彼女に聞こえないように喋った。
「次の『保護対象』が決まったぞ」
逃がすものか。確実に捕らえてやる。
まさか、あの大怪我で俺たちから逃げ出すとは思わなかった。しかも公衆電話で誰かに通報してやがった……その通話の相手を、やっと見つけたんだからな……。
徘徊少女と殺人犯 黒片大豆 @kuropenn
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