最終話

 ネルミは私に言い放つ。


「あなたが音痴だからです!!」


 ええええええ!?


「そ、そんなはずないわよ! 練習中は、みんな感動して胸を打たれて耳を塞いでいたじゃない!!」


「聞きたくなかったから耳を塞いでいたんです!! あんなダミ声、聞きたいはずがないでしょうが! この音痴ぃ!!」


ガァーーーーーーーーン!!


 そ、そういえば、みんなの顔は辛そうだったわ……。

 わ、私は音痴だったのね……。


「そもそも。イルエマをクビにしたのがいけなかったんです。彼女は 小型肖像画ミニチュアールの販売には反対していました」


「あ、あんな商才のない地味子に何がわかるのよ!」


「いいえ。こうなる未来がわかっていたんですよ! 聖女は聖女らしく、国民の為に働くべきだったんです! 魔法壁を治し、ポーションを売り、相談ごとを解決する。これが聖女だったんですよ!」


「そ、そんなの古いわ! それにそんな裏方では貴族から求愛されないじゃない! 歌って踊って目立つ聖女じゃなきゃダメよ!」


「歌って踊って目立っているのはイルエマです!!」


「はぁ?」


 聞けば、王都の魔憎病を解決したのは地味子の歌だったという。


「えーー!? し、信じられないわ」


「それはもう美しい歌声でね。たいそう明るい曲だったので、王都でも大人気なのです」


「あの地味子が明るい歌なんて……」


「狸の 腹鼓はらづつみに属しているイルエマは堅実に仕事を熟していると聞きます。その上で歌って踊れる聖女になっているんですよ!」


 うう、そうだったの……。

 まさかあんな地味な子がそんな注目される聖女になるなんて……。


「今や眼鏡をかけるブームが起こっているそうです。子供がイルエマの真似をするんですから」


 そ、そんなに……。

 で、でも、


「わ、私は間違っていないわ! 影で働く聖女なんてどこが良いのよ! 私は玉の輿に乗りたいんだから!! 果ては貴族夫人になるのよ!!」


「とても理解できません!」


「ふん! 私の計画には抜かりはないわ! あなたは私の言うことを聞いていればいいのよ! ほら、芋粥のお代わりよ! 直ぐに持ってきなさい!!」


「…………」


 ったく。ネルミのくせに私に反論するなんて100年早いっての!

 とにかく、人員補給が先決よ。


「フン!」


 こうなったら奥の手ね。


 聖女を娼婦にしてやるわ。


 女を雇って体を売る……。

 ふふふ。私はやらないけど部下の体を売ればいいのよね。きっと成功するわ。私は天才。地味子より圧倒的な商才があるもの。

 

 まずはネルミに人材を集めさせましょうか。

 って、


「あれ? ネルミ? お代わりはどうしたのよ?? あなたの作った不味い芋粥でも食べてあげるっていうんだからね。ありがたく持ってきなさいよ!」


 おかしいわね。

 台所に入ったまま戻ってこないわ?


「ネルミ……。どこにいるのよ?」


 あら、置き手紙?


『お世話になりました。ネルミ』


 ネルミィイイイイイイイイイイイイイイイイイイイ!!





 この日を境に女神の光輝は倒産した。

 人員募集は集まらず、仕事の依頼は来なくなったのだ。

 この後、キアーラは職を転々とするも上手くいかなかったらしい。

 風呂に入れず、美しかった金髪は薄汚れてボサボサになっていたという。


 因みに、娼館をはじめようとした彼女の戦略はご隠居によって潰されていた。

 あのヨボヨボのおじいちゃんこと、ルードビッヒ・ヴォン・アーゼンシュダイン元公爵である。


「わしぃ〜〜。エチィのは〜〜。許さんからぁ〜〜」


 いつしかキアーラの行方は誰もわからなくなったという。



☆☆☆


〜〜イルエマ視点〜〜


 私たちは、国王からいただいた5千万コズンがあるのでホクホクでした。

 報酬を分配して、私には700万コズンが支給されます。


 これだけの資金があれば、夢だったお店が持てそうですね。

 チョコと一緒に経営する魔法薬のショップです。


 ナナハさんに相談するとギルドの事務所と隣接してもいいことになりました。

 ギルドでやるクエスト関連のアイテムの売買ができそう。

 店の設計図はエジィナちゃんと相談して作ります。

 

「姉さま! 店ができたら、チョコは店番をがんばりますね!」


「うーーん。でも、あなたには学業がありますしね。それに子供らしく遊んでも欲しいのです」


「チョコは姉さまと一緒ならそれで構いません!」


 やれやれ、そうもいきませんよ。子供らしく遊ぶのも教育です。

 私はギルドの仕事もありますしね。

 人手は欲しいですね。


 などと思っていると、


あーしが手伝おうか? チョコちゃんとさ、イルエマと3人でシフトを組んで回せばギルドの仕事と併用できるよ」


 流石はアーシャちゃん。

 私が悩んでいると直ぐに気がついてくれます。

 持つべき物は友ですね。

 ぺたんこ同士、悩み事には敏感なのかもしれません。


「ありがたいです! お願いしてもよろしいでしょうか?」


「うん。よろしくね」


「はい。こちらこそ!」


 ああ、順風満帆です!


 王都を歩けば人々の笑い声が聞こえました。


「おい聞いたか!? 年貢が3分の1に減ったんだってよ!」

「ああ、これでなんとか年が越せるわ」

「本当にありがたいわね。これも神様の思し召しよね」

「ああ、神様ありがとうございます。とても幸せでございます」


 チョコは大声を出します。


「違います! それは姉さまが国王に抗議をしモガモガ……」


「良いのです。みんなが笑って過ごせるのが1番なのですから」


「で、でもでもぉ。チョコは姉さまの偉業を自慢したいです」


「偉業なんてしてませんよ」


 国の存続に対して理屈を捏ねただけなんですから。


「イルエマはすごいなぁ。あーしだったら自慢してるかも」


「王都が滅んだらナナハさんの作るガーリックビフテキが食べれなくなりますよ? それを阻止したまでです」


「ははは。イルエマらしいや」

「チョコはわかっていますよ! そんなことを言って誰よりも民の幸せを願っているのですから。本当に奥ゆかしい! チョコは姉さまのお嫁さんになりたいです!」


 やれやれ。シスコンの妹には困ったもんですね。




 数ヶ月するとギルドの横に魔法薬のお店が建てられました。


 ああ、これが夢にまで見た私のショップ!


「姉さま! すごいです! 素敵素敵♡」


 ええ、最高です!

 小さくてカウンターしかありませんが、可愛くて愛おしい!


 店の名前はギルドに因んで、『魔法ショップ。ぽんぽこ』


 アーシャちゃんは裏方として奔走してくれます。


「イルエマ大変だよ。魔法草を育てる畑の土地をさ。カスベール伯爵夫人が無料で貸してくれるって!」


 カスベール夫人は、以前、息子の暴力の件で相談に来られた方ですね。


「わぁ。ありがたいです!」


「あとさ。開店祝いのお花が届いてる!」


「あは! 大きなお花ですねぇ。一体誰からでしょうか? 宛名は……ルードビッヒ・ヴォン・アーゼンシュダイン」


「ははは。ご隠居からだな」


 あはは。とっても嬉しいですね!


カランカラン。


 あ、扉が開くベルが鳴りましたよ。

 初めてのお客さんです!


「いらっしゃいませーー!」


 ああ、地味でなんの取り柄もない私ですが、幸せ一杯ですね。

 みなさん大好きです!




おしまい。




――――――――――

【読者の皆様へ】


最後までお読みくださり本当にありがとうございました。

今回はコンテスト用に作成しましたので1章完結となります。

続きはどうなるかまだわかりませんが、続編の構想は十分にあります。

小さなお店、魔法ショップぽんぽこがどんな風に発展するか、考えるとワクワクしますよね。


少しでも「面白かった」と思った方だけで結構ですので、

広告下の☆☆☆から、★1〜★★★3の評価をしていただけるととても嬉しいです。



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普段は地味子。能力が平均値以下の雑用係。でも本当は凄腕の聖女さん〜地味だから、という理由で聖女ギルドを追い出されたのだけれど、聖女のお仕事は私が中心だったので大丈夫でしょうか?〜 神伊 咲児 @hukudahappy

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