第17話

 国王は厳格な方でした。

 白い眉の下には鋭い目が控える。

 幾度となく死戦を潜り抜けてきた風格は脅威を感じさせます。


「此度は素晴らしい活躍だった。褒美を使わす。何か欲しい物はないか?」


「なんでもよろしいのでしょうか?」


「うむ。そなたの希望を可能な限り応えてやろう」


 では、言いましょう。


「……国王陛下」


「なんだ? 申してみよ」


 と、ギロリと私を睨みつけます。

 尻込みしている場合ではありません。

 これは伝えなければならないのです。


「国民から取り立てる年貢の量を減らしていただけないでしょうか?」


「な、なんだと!?」


 ナナハさんは汗を飛散させました。


「ちょ! イルエマ!! 陛下になんてことを!!」


 失言なのはわかっています。

 しかし、言わざるを得ません。


「魔憎病は心の病でもあります。寒波の影響で作物が上手く獲れず国民は疲弊していました。そこに魔力が加わって病が発症したのです。こんな時、年貢の調整をしていれば病にもかからなかったと思うのです」


「ふぅむ……」


「はわわわわわわわ。国王陛下。私の部下が大変に失礼なことを……」


 もう全部言ってしまいましょう。

 この件は国の存続に関わることですからね。


「民が倒れれば国は滅んでしまいます。心が病めば、また病気にかかってしまいますよ。今回はたまたま死亡者は出ませんでしたが、王城の兵力を使って大変だったと思うのです」


「ふぅむ……」


「この国の将来のためにも。是非、ご検討ください。これが私の願いです」


 国王は私をギロリと睨みます。


「ワシは綺麗事を言う人間が大嫌いだ」


 ナナハさんは蛇に睨まれたカエルのように震え上がりました。


「ハワワワワワワーーーー! 申し訳ありません!! イルエマ! あなたも謝りなさい!!」


「ほえ?」


 私は何も悪いことは言っていませんよ。


「うむ。良かろう」


「イルエマ! ほら、私と一緒に土下座しな──。って、え……?」


「そなたの希望を叶えよう」


「えええええええ!?」


「これは綺麗事ではないな。大変、理に適っておる。我が国の未来を案ずるそなたの優しい気持ち、確かに受け取ったぞ」


 ナナハさんはヘナヘナとしゃがみ込みます。

 なんだか心配させてごめんさい。


「では。狸の 腹鼓はらづつみに大金貨500枚。並びに全国民に対する年貢の取り立てを3分の1に減らしてやろう。これでどうだ?」


 うは!


「ありがとうございます!」


「うむ。して、イルエマよ。近うよれ」


 はい?


「なんでしょうか?」


「これにな。そなたのサインをくれ」


 と、懐から取り出したのは私の 小型肖像画ミニチュアール


「はい?」


「サインだ……。そなたの名前」


 いや、真っ赤な顔で言われてもですね。

 さっきまでの鋭い眼光はどこへ行ったのですか?

 まぁ、名前くらいいくらでも書きますが……。


カキカキ。


「どうぞ」


「むふ♡」


 まさか、飾るのでしょうか?


「♡」


 ああ、絶対に飾るやつだ。


 まさか……。国王が私のファンだったとは……。


 あ、そういえば。


「陛下。聖女ギルドのキアーラさんはご存知でしょうか?」


「うむ。どうしようもない歌声でな。王都を乱した罪で地下牢に投獄してやったわ」


「出してあげて欲しいのです」


「何ぃ? どうしてだ?」


「動機はどうあれ、彼女は彼女なりに王都に貢献しようとがんばったのです。そこを評価してあげて欲しいのです」


「なんと心優しい子じゃ! 益々、気に入ったぞ」


「どうでしょうか?」


「うむ。出してやろう。あんな女を投獄していても王城に一銭の価値もないからな」


「ははは。ありがとうございます」


「しかし、そなたは変わっておるのう」


「何がですか?」


「あのキアーラを調べたら、元上司ではないか。奴はそなたを解雇しておる。自分のクビを切った人間を助けるなんて変わっておるだろう?」


「……そうですかね? えへへ」


 だって、人を助けるのが聖女じゃありませんか。



☆☆☆


〜〜キアーラ視点〜〜


 私は国王の温情で解放された。

 

 ふん!

 そもそも捕まる理由がわからなかったわよ!!

 歌うだけで投獄って暴君じゃない!! クソだわ!!


 ギルドに着くと、静まり返っていた。

 部下のネルミだけが慌ただしく動く。


「えらく忙しそうね?」


「退職者の処理に追われているんですよ!」


「ええええええ!?」


「聖女たちは王都を歩くと石を投げられると言っていました」


「何よそれぇえ?」


「もう、こんなギルドは辞めたいって出ていくんです」


 だからって、


「止めなさいよ!!」


「そんなことはギルマスがやってくださいよ!!」


「うう!!」

 

 それもそうね……。


 私は急いでみんなを引き留めた。

 しかし、説得虚しくみんなは出ていった。


 結局、残ったのは私とネルミだけ。

 ああ、虚しいわ……。


 ネルミは夕食を作った。


「ちょっと、ネルミ。芋粥はないでしょう? 肉が全く入って無いじゃない。これじゃあ地下牢の臭い飯の方がまだ豪華だったわよ」


「ブツブツ言わずに食べてください。うちは酒場の経営はやっていないんです。本来ならポーションの販売や相談の解決、魔法壁の修復で報酬が貰えていたというのに。全部、無くなってしまったんですからね! もうギルドには食料が無いのです!」


「う、うるさいわね!  小型肖像画ミニチュアールの売り上げがあるでしょう!」


「あんなもんゴミですよ! コンサートの失敗以来、返品の山! 街中で出回っているのは地味子の 小型肖像画ミニチュアールだけです!」


「うう。だ、だから歌で取り戻そうとしたんじゃない……」


「無理に決まっているでしょう!!」


「なんでよ!?」




────

次は最終回!

コメント、♡と☆の評価、めちゃくちゃ嬉しいです。

今までありがとうございました。

みんなでキアーラの結末を見てみましょう。

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