第4話 拳を上げて

 『杉たるは、なお及ばざるが如し』

日常でも、よく使われる言葉ではある。


 この言葉の意味は、賢明な読者の皆さんなら、既に理解されていると確信しているが、誤解されている若者たちも多いので、あえて説明を記しておこう。


 杉というものは、ヤリ足りないことと同じように良くない、という意味である。では『ヤリ』とは何か? 当然、ご存知の『ヤル』の活用形である。


 あまり大声で言うのは、恥ずかしい言葉ではあるが、将来、日本を背負う若者たちのために、前を隠してあえて言おう。


『ヤル』は即ち『睦む』ことである・・・・・


 つまり、杉というものは、睦み足りないことと同じように良くないというのが、神代の昔から語り継がれる真の意味である。


 もちろん、人生はただ睦めば良いというわけではないが、睦むことにより心満たされる、充実した人生を送ることもひとつの理である。


 睦みが不足すれば、心がお肌が、ヒビ割れ荒び、厭世観に身を任せる、という意味を秘めたものである。


 杉の存在は、まるで厭世観に身を任せる想いと合致するというのが、高名なる神話学者や力ある植物学者たちの絶対的な確信となっている。


 杉とは、そういうものなのだ。

 杉の存在とは、そういうものなのだ。


 恐れ多くも畏くも、天界に御わす万能の神さえも逝かす、春の悪魔。その春の悪魔が、その魔粉を全世界に撒き散らした『魔粉デミック』の状態は、人類滅亡の前兆といえる。


 日本経済が失速し、国民が生活苦難に苦しむのも、杉花粉の発生量に比例していることを、忘れてはならない。


 もちろん、日本政府においても、春の悪魔対策は秘密裏に進められている。デフレからの完全脱却、日本経済の底上げ、国民生活の向上は、ひとえに春の悪魔対策にかかっているからである。


 誠実そうに見せることが得意であった、指導力・政策力があったアベちゃんが推し進めた『アベノミクス』では、日本経済は救えなかった。


 さらに光熱水費を中心とした諸物価高騰に喘ぐ国民の悲鳴が聞こえぬ、耳無し岸田さんでは、杉撲滅は夢のまた夢であろう。


 春の悪魔は今年のみでなく、来年も再来年も、未来永劫あの山越えてやって来る。


 魔粉に悩める同志たちよ、神世から続く暗黒の歴史、スギ花粉の呪いに断じて屈してはならない。


 人類滅亡が目前に迫る『魔粉デミック』。今こそ最凶最悪の魔木である杉と、恐れずに戦い撲滅するときが来たのだ。


 拳を上げて、力を集めて、全ての杉を撲滅しよう。小さな前を誇らしげに屹立し、声高らかに、鬨の声を上げる日を信じて・・・・・

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花粉症の呪い 希藤俊 @kitoh910

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