ナイトフィッシング

今村広樹

本編

 わたしは犬の散歩がてら釣りに行くのが日課である。

 犬は吠えないが、人懐っこく、人を見るとそちらに寄っていってしまうので、夜釣りが趣味のわたしが散歩を任されてる。

 この日もわたしは真っ暗な海に釣り糸を垂らしている。

 しばらくしで犬が珍しく吠え出した。

(なんだろう)

「誰かいるのか」

 と声をかける。

(……返事がない)

 わたしの声は聞こえない距離なのかと思い、 またしばらくしたら声を掛ける。

 やはり返事はない。

(なんだ?いたずら?)

(でも人がいたとしても、もう帰ったはず・・・)

(幽霊だったりして・・・)

 そう思いながら、わたしはもう一度、今度はもっと大声で、少しだけ脅すように、

「おい!そこに誰かいるのか?」

 と言ってみた。だがやっぱり反応はなかった。

 その瞬間、足元に生温かい風を感じたような気がした。

 それはとても不快で、ぞわっとするような感覚だつた。

(うーん。やっぱり幽霊かも)

(まさか・・・ね)

 気になって足元を見てみるが、特に変わったところもなく、波紋もない海が広がっているだけだった。

 たださっきから感じている妙な違和感は消えていない。

(とりあえず引き上げようか)

 わたしが立ち上がったとき、背後からかすかに人の話し声のようなものが聞こえることに気がついた。

 耳元というより頭の中に直接響いているようなそんな不思議な音だった。

(やっぱり誰かいたんだ)

「おーい!いますぐここを離れろ!」

 そう叫びながら振り返ったわたしの目に映った光景はあまりに衝撃的で理解ができないものだった。

 つい今しがたまで釣りをしていた場所のすぐそばに人が倒れていたのだ。それも見たことのない格好をした外国人らしい女性が。しかしなぜか顔には白い布がかけられており表情はわからない。

 その人は全身ずぶ濡れで、髪からも服からも水が滴っているようだ。

 わたしは一瞬躊躇ったが、恐る恐る女性のもとに近寄り顔を覆っていた布を取ってみると……。

 気がつくとわたしの脚に犬が心配そうに縋っていた。

「ああ、ごめんごめん、そろそろ行こうか」

 釣具を片付けて、わたしと犬は家路についた。

 それにしても、あの出来事はなんだったんだろう?

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ナイトフィッシング 今村広樹 @yono

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