老若男女夜集い

きみどり

老若男女夜集い

 もう起きてしまえ。


 夜中に目が覚め、その後眠れない。そんな日が続き、俺はついに開き直った。

 ひたすら目を閉じてもダメ。あらゆる快眠テクニックを試してもダメ。眠れないうちに小鳥がさえずり出し、カーテンが明るくなっていく絶望の日々。

 努力しても焦るだけ。何をしても逆効果。

 ならば、と俺は散歩に出ることにした。


 目的地は近所の自販機。公園を突っ切るのが近道だ。

 しかしその途中、視界の端で何かが揺れてギクリとした。街灯の光と闇の溶け合う地点。誰かいる。

 思わず立ち止まって顔を向けると、光に背を向けてゆらゆら横揺れしているのは、小さな赤ん坊を抱いた女性だった。


 なんでこんな時間に?


 緊張で全身が強ばる。でも、なんだか無視することもできなくて、俺は少し距離のあるまま声をかけた。


「こんばんは……」


 途端に女性が赤ん坊を庇うように抱きかかえ、警戒心むき出しでこちらを向く。そりゃそうだろう。こんな深夜に見知らぬ男に声をかけられたら。

 俺が困っていると赤ん坊が泣き出した。慌てて女性が横揺れを再開する。


 そこにヌッと老婆が現れた。


「あらー、疳虫かんむしかね」


 俺も女性もギョッとしているうちに、老婆はひとりでベラベラ喋って赤ん坊の手に触れ、何か唱えた。

 赤ん坊はピタリと泣き止んだ。


「じゃ、私は娘のお迎えだから」


 颯爽と立ち去ろうとする老婆。そこに立ちふさがるように突如現れたのは老爺だ。


「だから、迎えなんて必要ないんだ!」


 言い合いを始めた2人に、思わず俺と女性は顔を見合わせる。


「あの、俺何か温かい飲み物買ってきますから!」


 俺は自販機に走っていって、全員分の飲み物を抱えて戻ってきた。

 皆して黙ってそれを飲み干す。すると、何となく帰る気持ちになって、俺達はそれぞれ帰路についた。



 お互いの事情はなんとなくしか分からない。

 分からない、のだけど。

 どうやら眠れない夜を過ごしているのは、俺だけではないらしい。

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老若男女夜集い きみどり @kimid0r1

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