砂浜とマウンテンバイク

夏伐

第1話

 海岸沿いの道を一台の自転車が走っていた。乗っているのは十四、五才の少女だ。桃色のリュックを背負っている。周辺に少女の他、動くものはないようだ。

 アスファルトはところどころひび割れて、草が生えている。もう何年も車や人が通った形跡がなかった。

 少女は、海の近くにある駐車場だったものに自転車を止めた。周りには人どころか犬猫の気配さえもないのに律儀に鍵をかけている。

 リュックを背負いなおし、海へ続く階段を下りていく。

「ここにも誰もいない」

 呟いて少女は携帯電話を取り出した。画面には、残り少ないバッテリーの残量と時刻が表示されている。メールも電話も履歴はしばらく前から更新されていない。

 少女は靴を脱いで素足で砂浜を歩く。海を見ると、小さな魚が群れをなして泳いでいた。それを見て、

「人はほとんど消えたのにね」

 ぽつりと、かすれた声で言った。

 フッと少女の持っていた携帯電話の画面が黒く塗りつぶされた。

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