正義の鉄槌は下された! 悪の栄えは許されない!

 スギ滅会の活動によって、スギ林の七割以上が地上から消え去った。残る三割弱がどれほど頑張っても、これまでのように人々を苦しめることは不可能だろう。


 残ったスギ林も、その一部は花粉を出さない品種やごく少量しか出さない品種に植え替え済みであった。政府はさらに植え替えを進めていくことを発表している。

 こうした植え替え政策は20世紀の終わり頃からすでに始まっていたのだが、効果的な花粉症対策にはならなかった。スギ林が広すぎて、従来のスギを置き換えるには時間がかかりすぎるのだ。結局、本気で花粉症を対策するなら、今回のようなが必要だったのである。


 日本政府は全ての作戦が終了した六月六日に「勝利宣言」を発表した。人々が拍手喝采し歓喜に湧いたことは、今さら言うまでもない。その喜び様は、「泥酔した若い男女複数人が歓喜のあまり次々と道頓堀川に飛び込み重軽傷を負った」「渋谷のスクランブル交差点で突然全裸になり小踊りを始めた中年男性が逮捕された」などという珍事件がニュースになるほどだった。


 「公害」と呼べるほどに深刻化していたスギ花粉症。もう来年からはあのくしゃみや鼻水、鼻づまり、目のかゆみなどに悩まされる心配もない。人々は思う存分温かな空気を吸い込んで、若芽萌え出づる春の陽気を満喫することができるだろう。


「春はあけぼの」

「春眠暁を覚えず」


 和漢に伝わるうららかな春。春とは本来、気候が穏やかで過ごしやすい季節だったはず。それを穢したのは、外ならぬスギ花粉だ。

 そんなスギも自らの非道の報いを受け、正義の雷霆によって燼滅じんめつされた。人類の完全勝利だ。


 スギ伐採に八面六臂の活躍を見せたPB-04ロングホーンは方々に払い下げられ、材木の伐採や運搬、土木工事や建築作業、スギ林と同じく問題になっているモウソウチクの竹害対策などに使われることとなった。一部は災害派遣を見越した陸上自衛隊にも買い取られ、人々からは冗談めかして「モビルスーツ部隊」などと呼ばれることとなった。


<スギ林 殲滅完了>


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

スギを燃やしたり切りまくったりする 武州人也 @hagachi-hm

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ