第3話
何だか最近、毎日が楽しい。
クジラも現れないし、他に客がくるわけでもないが、楽しい。
「きゃあああああああ!」
リリーの叫び声が塔に響いた。
玄関の所で誰かが揉めている。
リリーが塔の外に引きずり出されて、子どもたちやレイナ、ノアも手に箒なんかを持って外に飛び出した。
私も急いで屋上から降りて下に向かう。
十数人の人間に囲まれて皆が殴られていた。
数的に不利になってしまっている上、六人が子供であった。大人に囲まれれば勝てるはずもない。
レイナさんも腹を庇いながら殴られている。
「皆から離れてください!」
私は『銃』を構えて叫んだ。
これは狩りにも使われるため、ずっと利用されてきた遺物だ。進化することはないがずっと作り続けられている。
私は皆にこの存在を教えていなかった。
だが人間たちは『銃』を知らないらしく、標的が増えた事を認識しただけだった。
「離れてください」
間違っても当たらないように空に向けて『銃』を放った。
発砲音に驚いて全員が私を見る。
私は中々命中させることが出来ないので、みんなから離れた人間を狙って撃つ。
一人が地面に倒れると、『銃』を何とかしないといけないと思ったのか人間たちが私に向かってきた。
ナイフや鈍器を持っている。
「皆さん、今のうちに逃げてください」
逃げ出そうとした子供を追いかける人間に向けて『銃』を撃つがその隙に私が囲まれてしまった。
鈍器を頭に受け地面に倒れる。
死なないとは言え、痛覚がないわけじゃない。
「いやああああああ!!」
流れる血を見てレイナさんが叫んだ。
私の体が再生するよりも攻撃される方が多いため、体が動かせなかったが霞む視界で急に暗くなった。
頭に響くような歌が聞こえた。
「……空クジラ」
誰かが呟いた。
空にクジラが泳ぎ、襲撃した人間たちに襲い掛かる。
青いクジラが二匹。
きっとレイナさんたちの集落を襲撃したクジラと同じだろう。
畑や小屋なんかは破壊され塔も部分的に崩れてしまっている。
結局、茫然と見上げる人間を笑うようにしてクジラは上空に消えた。
透けるような青い空。
ノイズがおさまり話声が『せんなし』から聞こえる。
「青いクジラが来て助けてくれたんです」
『おお! じゃああの説も信ぴょう性が増したね!』
「あの説?」
『三百年前に『人間の溢れた思いが空生物になる』って言ってた詩人がいたじゃない』
「あ、ああなんか言っていたような……?」
シーさんは笑った。
つられて私も笑う。
『まだまだ空を観測しなくてはいけないね』
「そうですね!」
空クジラ観測所 夏伐 @brs83875an
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