第2話


大昔、空に生き物が現れた頃。

同時に『死なず』も生まれるようになった。


ただその頃に誕生した人がいるというだけでまだ知られてはいなかったが。


ただ繁栄した人間はその頃を境にして急速に数を減らしていった。


理由は分からないけれど、石油の採掘場や発電所などエネルギーを生んでいた所が次々と空クジラに襲撃された。お互いに連絡することが出来ず技術の進歩は止まった。


それから残ったエネルギーを奪い合い人間同士で争ったらしい。


どんどん数が減っていった人間を見ながら『死なず』は自分たちが人間とは違う生き物であると認識していった。


病気にもならず、傷もすぐに再生する。


私たちは集まった。

その時皆を集めたのがシーさんだった。


シーさんが管理していた塔にあった他の塔の情報を見て、それぞれが別の塔との連絡係になった。

いつしか塔を管理していた人間が死んでしまい、私たちが住むようになったのだ。

当時は国も瓦解しはじめるほど人口が減り塔の人間たちにはとても感謝された。


一か月に一度の物品の交換はその時の名残であった。


「はぁ、お客か」


今の自分が人間とまともにやり取りできるのかとても不安だ。







――翌日。


やはり客はこなかった。


いつも通りシーさんと話をした。



だがその翌日、平原に異変があった。




「――は」


驚いて望遠鏡を離すと肉眼ではやはり見えない。

今日はやけにそわそわする。

急いでヤギの乳や卵、野菜なんかを準備する。


普段はそこまで凝った料理なんかしないけれど。

いつもだったら卵焼きにする所、オムライスにしてしまった。


何故かわくわくして眠れなかった。



次の日から私は空の他に草原も眺めることになった。

気にしないようにしていたがどうしても気になってしまう。

数時間おきに何度も確認してしまった。





「こんにちはー……」


塔の扉がノックされた。


「はい!!!!」


勢いついて扉を開けると驚いた顔をした家族がいた。

馬車に乗っている数人の子供が明らかにびっくりしていた。


ノックした直後に扉があいたので驚いたのだろう。こっちは何日も前から待ってたのだ。


「あの、この塔を管理している方にお会いしたいのですが――」

「私です!」

「そ、そうですか」

「あ あの! まずは中に入ってください!」


私は少し緊張しながらも一家を塔に引き入れた。


応接室のように使っている部屋に入ってもらい、お茶を用意する。

男性、女性、子供が六人。

大家族だなぁ。


数日前まで埃をかぶった骨とう品であったティーカップであったが、念入りに洗っていたかいがあったというものだ。


「それで何かお話があるようでしたが」

「あ、はい」


男性が言うには、全員で移住できる所を探して旅をしていたらしい。


「ここで良ければ住んでも大丈夫ですよ」

「い、いいんですか?」

「はい」


それから不安げにしつつも家族が塔に住みはじめた。


『ロクちゃんも大分丸くなったわね』

「シ、シーさん!!」


定期連絡の時なんかはシーさんにからかわれてしまった。



男性や女性は率先して、子供たちもしぶしぶながら畑や動物の世話をしてくれた。


「ここは便宜的に6の塔。私はロクと呼ばれてます」


全員に塔を説明し、それぞれに部屋を割り振った。


「一か月に一度、4の塔から人が来ます。缶詰や野菜なんかを配達しています。足りないものがあればしばらくかかりますが大体は手に入りますよ」


そうして私はシーさんに布の調達を頼んだ。





二か月経ち、人間たちも塔に馴染んだ。

私が『死なず』であることも受け入れてくれた。


正直、食材も余らせ気味だったので人が増えて助かった。


「ロクさん、お話が」

「レイナさん」


女性はレイナという名前だった。男性はノア。子供たちはそれぞれヘンリー、イーサン、ジュード、エマ、ノラ、リリー。

誰も血の繋がりがないらしい。


それからレイナが語ったのは私の想像していなかった事だった。


ここから馬車で二週間ほどいったところに人間たちのコミュニティがあるらしい。

そこは山深い所で、飢饉になり八人はそこから逃げ出したという。


八人はそれぞれ神にささげる生贄として選ばれ、殺されるところだったそうだ。

逃げる準備をしつつもタイミングが掴めなかったが、殺される前の晩に集落を空クジラが襲撃した。

二匹の青いクジラだったそうだ。


おかげで何とか逃げ出すことが出来たが、もしかしたら追ってがくるかもしれないとずっと不安だった。



「もう来ないんじゃないですか?」

「そう、……そうですよね」


そんな話をしてからレイナは少し明るくなった。

騙しているようで心苦しかったのかもしれない。


私は人間がそんな風に生き残っていることに驚いていたが、まぁ別にどうでも良いことだ。


そんなことよりも、


「レイナさん。何か隠していることがありますよね」

「え!?」

「妊娠しているのではないですか?」


体型が少し変わったレイナが気になってしかたがない。


夕飯の時に全員が集まった時レイナは言った。


「実は赤ちゃんが出来ました」

「ほ、本当か!? じゃああの時の」


父親はどうやらノアらしい。

子どもたちはわっと喜んだ。


私は定期連絡の時にシーさんに医者を派遣できないか聞いた。

すぐに手配してくれるが最低でも一か月はかかるらしい。

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