ねこの集会
かなぶん
ねこの集会
ざんていごしゅじん と まじょさま へ
きょうはまんげつなので おさんぽにいってきます
おそくならないように ちゃんと かえります
――ミミ
あと
ごはんは かえったらたべます
ちゃんと たべます
そんな書き置きを見つけたのは少し前。思い出したのは、この館に身を寄せる少女が寝床に着く直前、「そういえば、ミミは?」と言った時。
――で。
「げっ、ま、魔女様……と暫定ご主人? ど、どうしてここに?」
綺麗な満月の下、こちらへ背を向けていた猫耳の少女は、自分の前にいる無数の目が背後を見たことで振り向き、気づいて呻いた。
これに対し、
「どうしてって……何かやましいことでもあるのかしら? それも、この私に」
「うっ……そ、それは……」
馬鹿正直に身体を震わせるミミ。
併せ、温度というものに鈍感な御影でも分かる冷えてきた空気に、そろそろ止めた方が良いかも知れないと声をかける。
「
にゃあああああああああ――!!
しかしその前に、ミミの前にいた無数の目――広場のあちこちにいる猫が一斉に鳴き出したなら、御影の声はすっかりかき消されてしまった。
呆気に取られる御影を余所に、猫たちは最初の一揃え以外は、口々にそれぞれの場所で「にゃーにゃー」「みゃーみゃー」騒ぎ出す。
誰もが寝静まった深夜にこんな大合唱があっても、臨時とはいえ、地域魔女・梢の影響下にある住宅街ならば、気づく人はいない。が、それにしても、うるさい。
温度に限らず、感覚というモノ全てに鈍い御影でも耳を塞ぎたくなるのだから、この中で一番普通の人間に近い感覚を持つ梢は堪ったものではないだろう。
そう思い、火に油を注ぎかねない状況から梢の肩へと手を伸ばす。
怒ってはいけない、どうか落ち着いて――と。
しかし、掴んだ肩の持ち主は、分かっていると言わんばかりに御影の手を軽く叩くと、ミミには見えない位置でいたずらを思いついたような顔を見せてきた。
(うん……ごめん、ミミ。僕にできることはもうないや)
何と言っても梢は魔女だ。御影にはただの騒音でしかないこの猫の大合唱も、彼女の耳には何かしらの意味を持って聞こえているということで。そう思って改めてミミを見たなら、同じく猫たちの言葉を聞き取れている顔色は青ざめており、今にも逃げ出したい様子で辺りをキョロキョロ……。
そこに届く、場を支配するはずの魔女の凛とした声。
「へー、ほー、そお? それはそれは。初耳でした。ねぇ? ミ・ミ・さ・ま?」
「!!」
ビビビンッ! と音が出そうな勢いで、ミミの髪が逆立ち、尻尾が天を指す。
(ああ、まさか……)
梢からの聞き慣れない敬語とミミへの「様」付けに、大体の状況が分かった。
つまり、ミミはここにいる猫たちに、地域魔女――梢は自分の子分か手下か、そういうものだと吹聴して回っていた、ということだろう。
できれば顔を覆って天を仰ぎたいところである。
もう本当に、御影にできることは何もない。
何せ、ここから先はミミの自業自得なのだから。
そうして始まる、主従ごっこという名の再教育は、最終的にミミが「ごめんにゃさい」と猫たちに真実を語り、謝り歩くことで許された。噂程度でも「地域魔女を従える化け猫」の話は、梢とミミ、双方を危険に晒す可能性が高いため、御影もこの条件にはこっそり賛同を示したものである。
一通り終わった後、ミミから聞いた話では、ミミの話を本気で信じていた猫はそんなに多くなかったそうで。思ってもみない結末に、しばらくの間、ミミは「猫不信ににゃるにゃ!」と嘆いていた。
ねこの集会 かなぶん @kana_bunbun
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