短編という世界は、もろに「文体」の重要性が跳ね上がります。
ストーリーの構築やキャラの重要性もさることながら、「文体」のレベルにより物語の生き死にが分かれると僕は考えております。
さてこの「はるの宵、ひとの世の外」ですが、筆者様は我々の親しんでいる表現方法から意図的に言葉をずらしております。
普段、技巧的だと信じられている様々な修飾を駆使した風光明媚な表現の作品は、その「文体」を「平易」に変換した場合、その作者様の表現者としての技量が、あっさりと暴露されてしまいます。怖い話です。
ではこの短編はというと、明らかに「平易」に書かれておりながら、漂う美麗な表現力は一切損なわれず、むしろ昇華され、読む物をうっとりとさせてしまう事に驚かれるでしょう。
さらに恐るべきはその「文体」の持つ力量をいかんなく発揮する、物語について僕は語らなければいけません。
一般に技量の高い作者様の特徴は「場面の切り取り能力」にあります。力量の差は同様の場面を書かせた場合、どういう風に「切り取って見せるのか」にかかっております。
この物語はその「場面の切り取り能力」があまりにもは儚くも美しいのです。
僕らは朧月夜の夜に、切ない幻想的で幻惑的な物語を目撃する事になります。
言葉を操り、物語を紡ぐ者なら、一度は拝読されてみては如何でしょうか?
僕は読後にとても深い感慨に耽りました。
皆様にも是非お勧めさせて頂きたく思います。
宜しくお願い致します。