KAC「賀来家の日常」4.父の誠

凛々サイ

父の誠

「高校生の娘さんがおられるのですか!」


 取引先との打ち合わせ中、お互いに高校生という同年代の娘を持つと知り、盛り上がりを見せる。


「最近うちの娘、私を避けて来たり学校の行事に来ないでとか、あれ思った以上にショックですよね~」


 あなたの娘もそうでしょう?と言わんばかりだ。愛想よく相槌を打つ。


「この間とか夜中、勝手に家を抜け出したりしてもうどうしたらいいものか……」


 お互い父親業も大変ですよね、と相手は締めくくるように言い、打ち合わせは終了した。




「あ、おかえり!」

 

 夕飯前にロールパンを頬張りながら娘の藍が言う。帰宅すると誰よりも元気に迎えてくれる。あんな話を取引先から聞かせられたせいかその姿に安堵した。この藍が深夜に出掛けたり、自分を拒んだりそんなことするわけがない、はずだ。

 

 藍がまだ幼い頃、深夜によく目覚め、外へ行きたいと駄々をこねた。それから二人で夜道を散歩し、月明かりの下で娘は無地気に笑っていた。そんな出来事が今となっては恋しい。





「そんな……」


 ついにこの日がやってきてしまったのか。深夜、玄関ドアが静かに閉まる気配を感じ、ベッドから這い出ると、娘の靴がないことに気が付いた。こんな時間に出て行き一体何をしているんだ? 誰かと会っているのか? まさか男か……? ぐるぐる回る思考の中で、電気も点けぬまま真夜中の玄関で一人呆然と突っ立ていた。その時、玄関のドアが開いた。


「わ! びっくりした!」


 甲高い声と同時に玄関のLEDライトが眩しく目を突き刺した。電気を点けた娘の逆の手にはメロンパンが握り締められている。


「うちのコンビニから買ってきたのか……?」

「だってお腹空いたんだもん。パパも買いに行く?」


 娘と隣の店まで深夜の散歩がまた始まる。月明かりで灯る笑顔はまるであの頃と同じだ。


 メロンパンを美味しそうに頬張る娘に、ずっとそのまま変わらないでくれ、そう強く願った。


 

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