深夜の徘徊が止まらなかったあの頃

水乃流

あの頃は、若かった。だから

 高校時代から大学時代にかけて、夜に勉強をする癖がついてしまった。高校時代はクラブ活動で、大学時代は通学時間が長かったために、夜しか勉強できる時間が取れなかったということもあるし、兄弟が寝るまではうるさかったということもある。

 実際による勉強していると、昼間の喧騒が嘘のように静かで、もの悲しさも覚えた。だから深夜ラジオをBGMにしていたのかもしれない。


 そんなわけで、少しの寂しさを感じつつ、昼間とは違う夜の雰囲気というものに慣れていった私は、イケナイことも覚えてしまった。

 深夜の徘徊である。軽く言うなら、深夜の散歩、散策だ。夜に出歩くこと自体は犯罪ではないので(まして犯罪が目的で散歩するわけではないし)、特にやましいことはない……ハズなのだが、ちょっとした背徳感を味わうことができる。自分で言うのもなんだが、比較的マジメな学生と思われていた私にとって、夜で歩くというほんの小さなイケナイコトでもドキドキを感じてしまった。ゆえに、勉強に疲れた頭をリフレッシュさせるため(という建前で)、深夜の散歩は日課のようなものになっていった。さすがに雨の日は出歩かなかったが、月のきれいな晴れた日の夜なんかは、特に心が弾んだものだ。


 見慣れた道も、昔よく遊んだ公園も、通学に使う最寄りの駅も、夜はまったく違った姿を見せた。煌々と光る街灯の灯りが、コントラストを強調して闇を一層深くみせる。

 そんな深夜でも、不思議なことに人はいて、もちろん昼間のような雑踏というわけではなく、偶にすれ違う程度だ。すれ違う時、妙に緊張したりして、これもまた昼間とは違う。

 深夜の散歩で、ひとつ困ることがあった。腹が減ることだ。今から40年も前のことなので、今のような24時間営業のコンビニやファミレスがあるわけではない。飲み屋はやっているけれど、学生の身分(いやそもそも未成年だ)では入りにくい。そんな私のオアシスとも呼べる場所が、屋台のラーメンだった。駅前には屋台のおでん屋はあったのだが、酔っ払いが多かったのであまり行かなかった。

 中でもなじみになったラーメン屋台があって、自宅からちょっとだけ離れているけれど。決して劇的にうまいというわけでもなく、まずいというわけでもない極々普通の醤油ラーメンを出す屋台だったが、なぜか頻繁に通ってラーメンを啜っていた。


 就職してから実家を離れ、今は別の場所に住んでいるからわからないが、あの屋台はもないだろう。今は深夜の散歩も屋台のラーメンも、思い出の中。それでも、時折無性にあの時のラーメンが食べたくなるのはなぜだろう?


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深夜の徘徊が止まらなかったあの頃 水乃流 @song_of_earth

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