ありがとう。君に出会えて本当に最悪だった

Haru

短編

「ひっぐ…ぐす…」


僕は1人公園で泣いていた。泣いちゃダメだと思っているのにどうしても涙を堪えることが出来ない。とめどなく溢れてくる悲しみの感情を抑えることが出来ない。


「どうして…どうして僕を置いていったんだよ…父さん、母さん…」


僕が留守番をしている時、父さんと母さんは事故で亡くなった。僕の大好きだった父さんと母さんが死んでしまった。その事を受け入れることが出来ずに泣き続けるしか出来ない。


「…どうしたの?」


そんな僕に声をかけてくる人が居た。声の方向に涙でぐちゃぐちゃになった顔を向けると、そこには僕と同じ位の歳の女の子がこちらを心配そうな顔で見ていた。


「…別に…なんでもないよ」


僕はそう言った。こんなこと人に言うべきことじゃないから。


「…なんでもないならそんなに泣かないでしょ?」


でも彼女は引かない。


「悲しいことは人に話した方が楽になれるんだよ?」


その言葉でもう無理だった。僕は抱えていたもの全てを見ず知らずの彼女に吐き出してしまった。


「父さんと…母さん…が、死んじゃった…僕を置いて死んじゃった…う、ああぁぁ」

「…辛いね」


彼女は僕を慰める訳でもなくただそばに居てくれた。今の僕にはそれがありがたかった。誰にも頼ることが出来なくなった僕のそばにいてくれたことがありがたかった。


それから少し時間が経って僕はようやく泣き止むことが出来た。


「…ごめん。知らない人にこんなこと言われても困るよね」

「ううん。大丈夫」


彼女は決して口数が多いわけじゃない。でも何故かそばにいて安心する。


「…ねぇ、また明日ここに来て?」

「な、なんで?」


正直まだ気持ちの整理が出来ていないから家で篭っていたいと言うのが本音だ。


「私と一緒に遊ぼう?」

「…いや、僕は…」

「いいから」


僕が言葉を紡ぐ前に彼女の言葉によってそれは遮られた。


「…わかったよ」


まぁこれでいいのかもしれない。今2人のことを思い出すとまた涙が止まらなくなってしまいそうだから。


「うん。ちゃんと来てね」


そして次の日、言われた通り僕は公園に行った。そこには昨日の彼女が既に居た。


「ちゃんと来てくれたんだね」

「いや、来いって言ったのは君だろ?」


元気の無い声でそう言う。


「そうなんだけどね。じゃ、遊ぼっか」

「あ、遊ぶって…」


僕はもう高校2年生だ。しかも今は夏休みで小さい子達も沢山居る。こんなところで遊ぶなんて…


「ほら、砂の山作ろうよ」

「え、ちょ、ちょっと…」


僕の静止を聞くことなく彼女は誰も居ない砂場にしゃがみこんでおもむろに山を作り始めた。なんなんだこの子…


「はぁ…」


結局僕も砂場に行って彼女の正面に座り込んだ。


「まだ名前聞いてなかったけど君、名前は?」


僕はそうきいた。


「…人に名前を聞く時はまず自分から名乗るものでしょ?」


なんだそれ。


「…僕は宇和花うわばな 優希ゆうき」

「私は四宮しみや 真央まお」

「そうか四宮さん。それでどうして僕をこんなふうに遊びに誘ったの?」


正直訳が分からなかった。泣いていた僕に声をかけて遊びに誘うなんて。


「…あなたは、昔の私と同じ目をしていたの」

「昔?」

「そう。昔。私も小さい頃に両親を亡くしたの。その時あなたのように泣きじゃくった。でも私には支えてくれる人がいた。おじいちゃんやおばあちゃんが居た。でも…あなたは公園で1人泣いていた。それが小さい時の私と重なって見えたの。だから…放っておけなかった」

「…そう、なんだ」


四宮さんも辛い思いをしていたのか…


「うん。だから私が宇和花君を支えてあげる」

「…それは心強いよ」

「えへへ、そうでしょ?」


四宮さんは少しドヤ顔が混じったような顔で笑っている。何だよそれ。僕はその顔を見て少し笑ってしまった。


その日から僕と四宮さんは頻繁に遊ぶようになった。公園で遊んだし買い物にも行った。たまにお互いの家に行ったりしたこともあった。彼女と過ごす内に僕は両親を亡くした悲しみが薄らいでいっていることを自覚していた。


…大丈夫。乗り越えられる。僕は彼女が居れば、大丈夫。


ある日、いつものように待ち合わせ場所に居ると彼女は来なかった。何時間待っても来なかった。


何か急用が出来たのか?と思いその日は家に帰った。次の日も待ち合わせ場所に向かった。でもやっぱり四宮さんは来なかった。


どうしたのだろう?四宮さんが来なくなる前日まで彼女は元気そうだったのに…


僕は四宮さんと会えない日々が続く中で気づいてしまった。


僕は四宮さんが好きなのだと。


そう気づいた次の日、僕は四宮さんの家に直接行くことにした。四宮さんの家につき、インターフォンを押す。すると中から四宮さんのおばあちゃんが出てきた。


「あ、すいません。四宮さん…真央さん居ますか?」

「……」


四宮さんのおばあちゃんは何も言わないまま僕のことを見つめている。


「あ、あの?」

「…真央は…倒れて病院に運ばれたよ…」

「…え?」


僕はそれに聞いた瞬間、心臓が鷲掴みにされるような感覚に陥った。


「だ、大丈夫なんですか?!」

「…」


四宮さんのおばあちゃんは目を逸らした。


「っ!ど、どこの病院ですか?!」


そう聞いて教えてもらったのはここら辺では1番大きな病院だった。


急いでその病院に向かい受付に四宮さんの病室を聞く。走ってはダメだと分かっていながらも足が早くなることを抑えられない。四宮さんの病室につき勢いよくドアを開ける。


「四宮さん!」

「…あれ?来ちゃったの?」

「っ!」


四宮さんの腕には複数本の点滴に伸びる管がついていた。そして管は鼻にも刺さっていた。


「なん、で…なんで!?」


僕は自分が何が言いたいのかも分からないまま声を上げる。


「…私、ね?元々もう余命が少なかったの。それがもう限界なんだ…」


余命。限界。そんな単語が僕の頭の中で駆け巡っている。


「だめ、だ。ダメだ。行かないで。行かないでよ」


僕はフラフラとした足取りで四宮さんに近づく。


「四宮さんが居なくなったら…僕は…僕はどうやって生きていけば…」

「宇和花君はもう大丈夫だよ」


大丈夫?大丈夫なわけない。僕は君が居ないときっと壊れる。


「だって君はもう過去を乗り越える力をつけてるんだから」

「…違う。違うよ。それは君が…四宮 真央が居たから乗り越えられたんだよ…」

「ううん。君はきっと私が居なくても1人で乗り越えられた。だって君はこんなにも人を思うことができる人なんだから。そんな人にはたくさんの人が集まってくるんだよ。だから私が居なくなっても君は1人になんて絶対にならない」


違うんだ。そこに君が居なきゃ意味がないんだよ。


「私ね。宇和花君が好き。本当は…死にたくなんて…ない」


彼女は涙声になりながら必死で涙を堪えている。


「…四宮さんは本当に酷い人だ」

「そうだよ。私は酷い人なんだ」


沈黙が2人を包む。


「…ねぇ。最後に…好きって、言って?」

「…好きだ。僕は四宮 真央が好きだ。大好きで大好きで仕方ない」

「…ありがとう」


僕は静かに四宮さんの唇に自分の唇を重ねた。


「…ファーストキスはこんな格好でしたくなかったな」

「…ホントだよ」

「…今まで、ありがとう。私の短い人生の中で1番濃くて楽しくて…愛すべき時間だった」

「…僕も…ありがとう。君に出会えて本当に最悪だった」

「…」


彼女は何も言わずに瞼を閉じている。


「だって、こんなにも好きなのにこの思いが叶うことがないなんて…本当、に、最悪、だよ…」

「…ほんと、私も君と出会えて最悪だった」


そして四宮 真央は静かに息を引き取った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ありがとう。君に出会えて本当に最悪だった Haru @Haruto0809

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ