第77話 ラクーンドック

「シア様。本日はどのようなご用件で」


顔全体を化粧で覆いピエロのような姿をした男が組織に出向いていた


「最近上手くいっていないみたいな噂を聞いたものだからつい来てしまったよ」


このピエロののような男は魔人協会第二席次のシア・カーンだ。組織の収入源であるラクーンドッグを見に来ていた。ラクーンドッグは国内第一位の売り上げを持つブロクレンという企業の地下にある


いつもラコンが座っていた椅子に堂々とシアは座る。それにもかかわらずラコンは文句ひとつ言わず接する


「いえ、問題は解決しました」


震える手を抑え応対した。だが怖くて目も合わせられない


「そうか・・・ならいい。これもまた運命か」


興味が失せたのか意味の分からないセリフを残し去っていった


「ふう・・・」


完全にシアが去ったことを確認するとともにため息を吐く。殺されるのではないかとビクビクしていた。そしてやっと自分の椅子に座る


「ラコン様、実は・・・」


「なんだ?」


ラクーンドック最強の護衛であるバスターは期を見計らって口を開く


「フランツが何者かに殺されてしまったようで・・・」


「は?」


フランツはニーホンを襲撃した際に何者かに襲われ死んだようだ


「あいつらもボディガードを雇っていたか」


フランツはかなりの実力者で簡単に負ける奴ではない。とすると敵はかなりの手練れだろう


「なら、俺らしいやり方でやってやる」


ラコンは大事なのは力だけではない、知略も必要であるとそう豪語していた






一方その頃、スグルはレナと町に出かけていた。というのもアリスとマリは社内会議でバタバタしていて、残った二人はやることがなかったのだ


「王国と違っていろんな店があるんだな」


飲食店から雑貨屋まで王国とは比べ物にならないほどいろんなブランドがあった


「でしょ~」


レナは3段のアイスクリームを右手にホットドックを左手にと、食べることが好きなようだ。彼女はイチオシの店を次々紹介してくれた


「レナっち食べ過ぎでしょ」


「いいの~太らないから」


確かにやせ型だけど。一体食べたものは彼女のどこに行っているのだろうか。そう思いつつ視線を大きな胸へとやってしまう


「スグちゃんどこ見てるの?」


「やっぱり食べると大きくなるのかなと・・・って俺何言ってんだ」


ついついレナ相手だと余計なことを言ってしまう。なぜか女性である前にレナという生き物として判断してしまう


「自分で言って自分で後悔しないでよ~」


「ごめんごめん」


レナは恥ずかしそうに胸周りを押さえる。しかし、その大きな胸を強調してしまい周りの視線が多くなってしまった


「あ!もうスグちゃんのせいだよ~」


「悪かったよ」


レナの手を引き周りの注目から逃げるように走り出す。そしてやっと周囲の注目から逃れた


「レナっち目立ちすぎだって」


「ふふふ、レナの魅力にやっと時代がついてきたか」


周りに誰もいないことを確認すると二人は子どものように笑い始める。人通りの少ない裏の路地だったため二人の笑い声は反響する


「じゃあ今度は服見にいこ」


「よし、いくか」


レナとのお出かけはいろんなものを食べたりくだらない話をした。そして一日があっという間に終わり夜も遅くなる


「スグちゃんお酒飲めるの?」


「もちろん。レナっち勝負するか」


「いいね~」


レナのおすすめのバーまで来た。静かな雰囲気を持ったこの店はガムホールという名前の店だ。カウンター席に座りお酒を頼む


「スグちゃん最初に何飲む?」


「ハイボールで」


「分かった。じゃあマスター、ハイボール二つ」


マスターと呼ばれた男はかしこまりましたと言い作り始めた。まさか異世界にもバーのような店があるなんて知らなかった


「では乾杯!イエーイ」


特に何かしたわけでもないがグラスを当て乾杯する。思ったよりもレナの飲みっぷりはよかった


「そういえばなんでレナっちはアリスに従ってるんだ」


「え~お姉ちゃんは分からないけど、レナは強い人に従うのは嫌じゃないよ」


ふーん。レナっちも相当強いのに・・・アリスどんだけ強いんだよ


「逆に聞くけど妹のことどう思ってるの?」


「アリスのこと?アリスは大切な妹だよ」


「じゃあさ、怒られちゃうかもしれないけど・・・スグちゃんはもっとアリス様の体のことを気遣ってあげた方がいいと思うよ」


「え?」


アリスは何か病気にでもなっているのか


「アリス様は自分が辛くても表に出さないように徹底的にしてる。逆に不自然だし・・・たまには休んでほしいかな。でも私から言うのもなんか違う気がするし」


「そっかあ、じゃあ今度無理やり休ませないとな」


少し前までイビルスにいてアリスとは離れていたから分からないが相当大変だったのだろう。兄としてこれは見過ごせないな


「ねえ、次はワインにしよ。赤と白どっちがいい?」


「じゃあ赤で」


コルクの開く音とともに目の前のワイングラスに注がれていく


「お酒飲むと言っちゃいけないこともいいそうだな~」


「もっと言ってよ。アリスのことをもっと聞かせてくれ」


この後二時間ほど飲んでいた。話を聞くとアリスが今日この日までとんでもないほどみんなのために行動してきたことが分かった


「俺がいないときのアリスって意外としっかり者なんだな」


「そうなんですよお~」


少しレナは顔を赤らめている。お酒が回ってきたようだ


「ちなみにレナっち酔ってる?」


「酔ってないよお」


レナは急に抱き着いてきた。結構酔っているようだ


「そろそろ帰るか」


「じゃあスグちゃんの負け~わたs・・・」


とうとうカウンターテーブルに突っ伏してしまった


「マスターすいません少し見といてもらえますか」


アリスに迎えの電話をするため眠ってしまったレナをとりあえず店に置いて外に出る


「周りに人は・・・」


店を出て周囲を確認する。電話はまだこの世界で知られていない技術であり使う際は気を付けなければならない


「いないか」


ポケットから携帯を取り出す。だが────


「ん!?」


突然後ろから複数人に抑えられる。振りほどこうとするがガーゼのようなもので口を塞がれ気を失った


謎の者たちはスグルを大きな布袋に詰め攫って行く



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

妹は天才で最強だが兄である俺が妹を守らない理由にはならない ナカヤミ @nakayami333

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ