第76話 レナっち

エレベーターの中、狸男は怒りを抑えきれず地団駄を踏む。まさか自分がこのような扱いをされるとは思いもしなかった


「フランツ、もういい。この企業のトップどもを皆殺しにしろ」


「はい、かしこまりました」


少し手荒な真似にはなってしまうがこの俺に逆らうことがどれだけ愚かな事か良い例となるだろう


エレベーターを出てもイライラが止まらず店の商品を蹴る最後まで圧倒的な痛客であった






少しだけシーンとした時間が続いたが笑いを堪えきれなくなったアリスを始めみんながキャッキャと笑いだす


「あは・・はははは」


周りに合わせるように一応苦笑いした。全く笑えないのだが・・・


「マリちゃんよくできたね。あやうく殺しちゃうんじゃないかってアリスひやひやしたよ」


「いえ、あたしは相当冷静でした。それよりもレナが・・・」


「え?何のこと~?」


急に話を振られたレナは動揺しすぎて後ろに持っていたナイフが見え隠れしている


あの修羅場の中、レナは後ろで手を組んで終始ニコニコしていた。しかし手元にはナイフがあったようだ


「お兄ちゃんはもしかしてビビってたりする?」


下から覗き込むようにアリスに問い詰められる


「し・・してないぜ。ほら」


俺を見ろ、怯えてないぜと震えそうな下半身を何とか抑えアピールする。しかしアリスに横から突かれバランスを崩してしまう


それにしてもなんて血の気の多い双子なのだろうか。いつも大人しそうなのに(マリさん)


「あたしたちは元殺し屋なんだ。たまに職業病みたいなのが出るんだよ」


「へーころしやか・・・って殺し屋なの!」


マリから発せられた殺し屋というあまりにもパワーワードすぎて適切な処理をするのに時間がかかる


「ああ、元な」


「ということはレナっちも?」


「そだよー」


レナはツッコミを入れるかのように背中を叩く


「なにそのレナっちって?」


アリスが面白おかしそうに問いかける


「レナのあだ名。レナっち結構面白いんだぜ」


「だぜー!」


レナと肩を組み仲良しアピールをする


最初二人はアリスに敬語を使うからその流れで俺にも敬語で話してきた。しかし、年上に敬語で話されるのは凄く歯がゆいのでタメ口で良いよと言った


「スグちゃんはレナの友達だよー」


その後、タメ口になったレナさんとなぜか意気投合してまるで同い年の悪友となってしまった。レナさんは子供っぽいところが抜けてなくて一緒にいると楽しい


「スグちゃん、ちょっとこっち来て。これ押すと熱いの出るよ」


レナは部屋の隅っこにある電気ポットのボタンを押す。お湯が出ることが凄い事だと共有したかったようだ


「そしてニーホンの新商品はかっぷらーめんだよ」


「おい、嘘だろ・・・」


まさかそこまで作っていたのか。恐るべし我が妹よ


その後も部屋にある様々な懐かしいものをレナに紹介してもらった。アリスはマリに引継ぎということで重要事項を説明しているようだ


「それでね─────」


ガチャンと突然社長室のドアが開かれる


「「「「えーと・・・誰?」」」」


「先程お邪魔しましたフランツです」


いきなり入ってきたのは先程、狸男が連れていたフランツという男だった


「申し訳ございませんがラコン様の命で皆様には死んでいただくことになりました」


フランツは胸ポケットからナイフを取り出した


「おい、なんだやる気か!」


この様子を見てスグルは身構えるが、アリスたちはその様子をくつろぎながら見ている


「じっとしていただけると幸いです」


「はーい」


アリスはノリノリ手を挙げて相手を煽っていく。マリは面倒臭そうな顔をしているのに対し、レナはアリスのように私も私もと言って手を挙げる


「え・・なにこれ・・まさかドッキリとか?」


スグルは周りの嚙み合わないリアクションにもはや状況が呑み込めない。その結果、単なるドッキリだと思ってしまう


「その反応は少し意外ですね。では早速ですが始めさせていただきます」


フランツは今から華麗な殺戮ショーを見せようとでも言わんばかりの余裕っぷりだ。それを見てアリスは今にも吹き出しそうな様子である


手始めにと新しく社長になったマリにナイフを投げる


「いま忙しいんだ。後にしてくれ」


首に刺さるあと数ミリのところでナイフの柄を掴み防ぐ


「そうでしたか。ただの人間だと思っていましたが相当の手練れのようですね」


相手が手練れだったことに少し驚きつつもフランツは胸ポケットからさらに8つのナイフを取り出す。そして今度は8つ同時に投げようとするが


「────っあ」


フランツは地に伏した。背後に回ったレナに麻酔針を刺されたようだ


「この部屋で暴れられるのは困るからね」


麻酔針を抜き足元に仕舞う


「レナっち凄いな。よく背後に回れたな」


「こんどスグちゃんにも教えてあげるよ。気配の消し方」


一番目立ちそうなレナだがこういう場面での立ち回りは達人である


「眠らせたけど・・・どうするコイツ」


「外に捨てときな。しっかり歩けないように足の骨折っておくんだよ」


マリは冷徹な解決策を提案する


「はーい」


「いや、物騒すぎるだろ」


「スグちゃん、また戻ってこないようにするだけだよ」


レナはフランツを持ち上げビルを出る。そして治安の悪そうな人目の付かない路地に行く。


「ここら辺で良いかな」


真っ暗だが、一応周りに誰もいないことを確認し言われたとおりにフランツの足の骨を折り始めた


「あれ~上手く折れないな」


グシャっ、グシャっと暗闇の中に奇妙な音が鳴り続ける


「ここかな~?」


手で折るのが面倒になり今度は足を使って蹴り始めた


「よし、これくらいか」


靴下に血が染みてきたのを感じレナはフランツの骨を折るのをやめた


「あとで、新作のせんたくきって奴を使ってみよう」


血で濡れてしまった靴下を脱ぎ裸足で帰る。次の日の朝、その場所には人間の原型をとどめていない無残な死体が発見された


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