第75話 ニーホン
「なにこれ・・・かっけー」
アリスに連れられてスプレッド邸から少し離れたところにある転移ポータルにきた
「アリスが作ったのか?」
「もちろん!これで直接ノルン共和国まで行けるよ」
アリスはまたもや俺の知らない間にとんでもないものを作っていた。ふとこの技術が普及したらと考えるとリオの能力が可哀そうになる
「「アリス様準備が整いました」」
今回、アリスとスグルに加えてマリとレナも同行することになった。ナナも付いていくと懇願したが龍人族であることが知られてしまった場合、危険なので同行を見送った
「はーい、じゃあ行くよ」
アリスに手を引っ張られて移動システムの範囲に入る。すると周りの景色が一瞬で変わり・・・
「おお・・・」
活気あふれた人間の国だ。多くの人たちが行き来している
「この世界に来た時を思い出すな」
「でしょ。ちなみにこの先の大きな建物がニーホンだよ」
ここはノルン共和国商業都市の一角。多くの商人が町を盛り上げている。他の町と違って腕っぷしよりもどれだけお金を稼いでいるかがこの町の上下関係を決めている
「おい・・これはやりすぎだろ・・・」
アリスが指した方を見ると、このファンタジー世界にはあまりにも場違いな建物があった。まるで東京によくあるビルだ
「世界一の企業を目指すんだから周りに合わせる必要なんてないでしょ」
「そうは言っても・・・」
ニーホンという企業は想像以上にぶっ飛んでいた。あれでは悪目立ちして変ないざこざに巻き込まれそうだ。だがそれもアリスの思考の範疇なのだろう
「お邪魔しまーす」
「いらっしゃいませ」
フロントの女性が開口一番に挨拶をする。内装はとても綺麗で一階には服などが飾られている
「へー、よくこんなの作ったな」
「さすがアリス様って感じかな」
アリスは前で腕を組み自信満々にこの店の説明を始める。衣食住から武器といったあらゆるものまで作っているそうだ
「これ何階建てなの?」
「10階建てだよ。ほんとはもっと大きくしたかったんだけどね」
これ以上大きくしすぎると悪目立ちしすぎるからだそうだ。ただガラス張りの建物といい手遅れのような気がする
「え?」
目の前にこの世界では見るはずのない懐かしいものがあった
「すごいでしょ。エレベーターだよ」
凄いとかそういうことじゃなくて単純に意味が分からない
「ボタンまでしっかり再現してあるのか・・・」
「アリスすごいでしょ?」
「ああ」
空いた口が塞がらないとはこのことだろう
このエレベーターに乗って最上階の10階に行く。主に会議室と社長室があるようだ
「おお!速い」
エレベーターは思ったよりも速くあっという間に10階に着いた。しかし、一番奥の会議室が騒がしいようだ
「ですから社長が来るまでお待ちください、このような対応されてしまうとこちらも困ります」
「わざわざこっちから出向いてやってるのに、ここの社長さんは失礼なやつだな」
ドア越しでも聞こえるような大声で怒鳴りつけている
ドアを開けると、裕福そうな太った体にキツキツのスーツを着ている男がどっしりと我が家のようにくつろいでいる。従業員がその迷惑客の相手をしているようだ
「だからその───」
「どうしたの、社長ならここにいるよ」
アリスは今日から社長であるマリの背中を押した。クレーマーの対処も社長としての仕事だ
社長という言葉に反応し狸のような太った男はこちらを向く
「あたしがこのニーホンの社長だ。こんなところまで一切連絡せずに押し掛けるとは何事だ」
社交的に相手のご機嫌を取るのかと思いきやマリは強気に出る
「ああ、やっと来たか。遅いわ」
アリスの話によると狸のような男がこの町を取り仕切っている裏の人間のようだ。いわゆるヤクザか
「この俺ラコン様に楯突くってことはどうなるか分かってるのか」
机を思いっきり叩き、怒りをあらわにする。びっくりして心臓が止まりそうになった
「そもそもこの町で商売したけりゃまずウチんとこに挨拶しに来るのが当たり前だろ」
本来商業ギルドという場所に申請することで商売の権利を得ることができる。しかしこの町ではこの男は裏社会のボスであり闇組織ラクーンドッグのリーダーだ。多くの店からみかじめ料を集め規模を拡大している
「お帰りください。こちらも忙しいので」
マリは脅しにも動じず適切に対処する。空気は恐ろしいほど険悪で地獄だ
「女のくせに生意気な。おいフランツ、帰るぞ」
「はい」
捨て台詞を吐き狸男はSPのような男とともに部屋を出る。せっかく社会科見学のような気持で来ていたスグルにとってはとんだ災難だった
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