深夜の散歩と河童とウワサ

カニカマもどき

ウワサ

 これは、知り合いの河童かっぱから聞いた話なのですが。


 その河童(以下、Kとよびます)は、深夜になると住んでいる池の周りを散歩するのが日課でして。

 その日も、いつも通りふらりと散歩に出たわけです。


 いつもと違ったのは、「最近、この辺りに化け物が出没する」というウワサを昼間に耳にしてしまったこと。

 そして散歩のタイミングで、それを思い出してしまったことでした。

 はじめこそ「この令和の時代に化け物だなんて、非科学的すぎて笑えるっぱ」などと考えていたKですが、いざ静まり返った深夜の池のほとりを一人で歩きだすと、今にも化け物が現れるのではないかと、だんだん恐ろしくなってきました。

 

 こうなると、もういけません。

 生温い風、木々のざわめき、赤みがかった月など、あらゆるものが不気味に思えてしまい。

 ぺたぺたという自分の足音のほかに、誰かの足音が聞こえるような。

 暗闇の向こうから、誰かがじっとこちらを覗いているような。

 そんな気がして、緊張で頭の皿も乾いてしまいます。


 ビクビクしながら歩いていると、道の端に、白っぽいものが見えました。

「いやだなー……怖いな怖いな……」

 と思いつつも、Kは目を離すことが出来ません。

 だんだんと近づいていってよく見ると……

 人間の手首?!

 と思いきや、白い軍手が落ちていただけでした。

 驚かせやがって。


 すっかり肝を冷やしてしまったK。

 もうさっさと帰って、尻子玉を肴に一杯やりたい気分です。

 しかしそのとき、妙なことに気が付きました。

 音もなく、誰かが近づいてきた気配もないのに、後ろのほうで薄ぼんやりと何かが光っているようなのです。

「いやだなー……怖(以下略)」

 と思いつつ、後ろを振り返ると……

 なんとそこには、人魂が浮かんでいるではありませんか!


「やあ、人魂なんて子供のころ以来っぱ」

 Kは喜びました。

 人の街の近代化などとともに減少し、最近はとんと見られなくなっていた人魂。

 水質が改善されたことや、もろもろよく分からない要因が重なり、こうして池に戻ってきたのです。


 上機嫌になったKは、その後、天狗やアマビエに挨拶し、鎌鼬かまいたちや人面犬を愛で、帰路につきました。

 結局、その後は散歩の中で特に変わったことも起こらず。

 ウワサの化け物というのが何者であったのかは、未だに謎のままだそうです。

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深夜の散歩と河童とウワサ カニカマもどき @wasabi014

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