星空散歩で都合が良い!

維 黎

都合が良い話

「んー、疲れた……」


 決算月の三月は年末商戦時と双璧をなす忙しさ。月末締めまでラストスパートに入り連日深夜までの残業。27歳。まだまだ若いっていっても伸びの一つや二つ、するってもんだわ。

 今日も今日とて終電逃し。普段なら事務所からタクシーを呼ぶんだけど、今日はなんとなく夜の街をぶらっとしたい気分なわけで。

 タクチケ片手に最寄り駅のタクシー乗り場まで夜中の星空散歩と参りましょうかってなものよ。

 もちろん、独り散歩は味気ないので横を歩く連れ一人。


「――悪いわね、都合とごう。部署違いのアンタにこんな時間まで付き合わせちゃって。女子連中にこの時間まで残業させるにはいかなくってさ――え? 研修時代を思い出して楽しかったって? そう言ってもらえるなら助かるわ」


 ハイヒールを履いたあたしより頭一つ高い後輩を見上げる。

 あたしがいる部署に新入社員研修で三カ月間、研修に来ていたのが都合だった。その時の教育担当があたしだったわけで。研修後は別の部署に配属になったけど、お互い関連部署なので時々仕事で顔を合わせたりもしている。


「――ッ!?」


 不意に足を取られて体が斜めに傾いた。

 ヒールが割れた歩道タイルにハマったみたい。幸いにして都合側に倒れかかったので支えてくれた。

 手の平がネクタイの上から胸板に触れる。

 ふむ。着痩せするタイプなのね。思ったより筋肉質。


「――ごめん。ありがと――えぇ。気をつけるわ」


 そっと離れて体勢を整える。

 いろいろあって彼氏おとこと別れて一年ほど。今は仕事が楽しく、忙しくそれで満足。当分、男はいいかなって感じ。

 今はいい感じの男友達こうはいもいるし。

 チラリと隣に視線を向ける。


「――ううん、なんでもないわ」

 

 何ですかと首を傾げるその様子に、よくわからない感情の笑いがクスッとこぼれ、首を振るあたし。

 うん。なんか今はこれでいいかな。

 改めて思う。


 ほんと、都合ってば都合が良い。




――続く――











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