第六話 ファンファーレ②

 「神器召喚! 太陽の神銃! 神宮流神銃術かなみやりゅうしんじゅうじゅつ一式いっしき、プロミネンス」


 校舎を駆け上がり、空へと舞う。

 美奈の背後から天高く飛んだ神宮日和は、手にもつ神器“ハンドガン”より深紅の炎を纏った弾丸を、美奈の脳天に向けて発射。

 攻撃に気がつく美奈は間一髪で回避、攻撃した相手は宙でくるくる回転しながら凛太郎の前に着地する。


 「ねえちゃん!」


 「凛太郎、怪我はない?」


 凛太郎の目の前に立つ日和は、心配そうに彼を見る。

 反対に凛太郎も彼女のことを心配した。

 天照の領域内に入るのはまだ二回目のはずなのに、慣れた感覚で自然な動きを見せている。

 だが今は考えている余裕はない。

 目の前の歌姫の悪魔と対峙中だ。


 「ソノ人ハ、新シイ巫女サンネ。

  ドウデモイイケド、貴方カラモ生命エネルギーヲ貰ウワ」


 悪魔と対峙することは、無条件に人間の生命エネルギーを吸収される。

 日和の身体からも光の粒子が舞い、美奈の元へと集まる。

 さらに、凛太郎の後ろから光の粒子が引き寄せられていく。

 駆けつけたのは草薙政子だ。


 「凛太郎、無事か?」


 「ばあちゃん!」


 既に神器召喚を行い、凛太郎のものとは比べ物にならない立派な剣を構える草薙政子は、彼の剣を見て確信した。

 彼がどうして神器召喚が出来たのか……それは本当の意味で悪魔を人として接することができるようになった為だと。


 「そうか……凛太郎、あの子は昨日亡くなった子だな?」


 政子の質問に、首を縦に振る。そして複雑だが政子は凛太郎を褒めた。

 神々の代行者としてようやく第一歩を踏み出したのだが、その初めての相手が幼馴染だったからだ。


 「お前はあの子を救いたい。そうだな?」


 「うん……ちゃんと、救ってやりたいんだ。この手で


 手に持つ剣をぎゅっと握り、彼は前を見る。

 悪魔である美奈も、対峙する凛太郎も辛い思いを抱えながら、互いに攻撃し合うことを。

 彼の決意を聞いて政子は支援に徹する。

 人間としての成長を遂げ、神々の代行者としても殻を破った彼を送り出す。


 「そうじゃな。できることなら、すぐに助けよう」


 三人は美奈を見る。

 その顔は歌姫とは程遠い、閻魔のような形相で三人を睨め付け、そしてマイクを口に近づけた。

 攻撃してくる。

 空気、表情、気を入れなければ飲み込まれる。


 「良いか、わしの言う通りにせよ。次の攻撃は重いぞ」


 「はい」


 「うん」


 日和と凛太郎は政子に応える。

 大きく息を吸った美奈は、先程までとは比べ物にならない高音ヴォイスを浴びせた。


 「あ゛ーーーーーーーーー!!!!」


 全方位に怒号が鳴り響き、亀裂が入るコンクリートは割れ初め校舎を壊しかねない音と暴風。

 政子が二人の前に出ると、先程凛太郎が見せた構えを再現し、同じ術を発動させる。

 自らが盾となり二人が動きやすいように時間を作る。


 「草薙流神剣術くさなぎりゅうしんけんじゅつ三の型さんのかた太陽風たいようかぜ!」


 剣の振り方まで凛太郎と全く同じモーションの防御技だが、度重なる戦いによって彼とは練度が違う。

 風速五十メートルの台風が来ようが引き寄せ上空へと飛ばす剣撃は、美奈の幼稚な怒号を意図も簡単に上空へと吹き飛ばし、再びオーロラとして夜空を彩った。

 だが美奈も諦めず、間髪入れずにもう一度声の暴力をぶつける。


 「あ゛ーーーーー!!」


 だが先程とは違い威力も低く速度も遅い。

 モーションに隙ができたことを彼女は好機と捉え、中途半端な息継ぎしかできていなかった。

 歴戦の猛者、政子は逆に勝負所だと捉えた。


 「日和さん!」


 「はい! 神宮流神銃術かなみやりゅうしんじゅうじゅつ一式いっしき、プロミネンス」

  

 日和の銃口より放たれた弾丸は、再び深紅の炎を纏いながら音と風の暴力に一点の穴を開けながら美奈へと向かう。

 我に帰った美奈は寸前で発声をやめて、身体ごと横へ捻り弾丸を交わす。

 過ぎ去った弾丸を見て安心したのも束の間、美奈はもう一人の少年が迫ってくることに気がつかなかった。


 美奈が放った音と風の暴力は徐々に威力を弱めて消えかけていくが、日和がプロミネンスにより開けた音風の穴を少年は一直線に飛び込み、剣を向けて美奈へ迫った。


 「ひーちゃん!」


 既にマイクは口元から離れている。

 この至近距離で攻撃を避け切るのは不可能だった。

 頭に大きな攻撃を受ければ、願いは叶うことはない。


 だが彼女は目の前に飛び込んでくる凛太郎を見て、生きていた時のことを走馬灯のように思い出す。

 幼稚園の頃より遊び、同じ小学校に入学し、そして卒業した。

 昔は手を繋いでいたが、今は恥じらいもあってそれができなくなったことも。


 「草薙流神剣術くさなぎりゅうしんけんじゅつ一の型いちのかた陽突ひとつ!」


 美奈は一瞬天を仰いだ後、、でも飛び込んできた凛太郎の身体をぎゅっと抱きしめた。


 ––––凛太郎とハグするなんて、懐かしい。でも、その温もりは感じられないんだ––––


 飛び込んできた凛太郎の勢いと、二人は屋上から地上へと落下して行った。


 氷室美奈の顔に剣が貫かれ傷口から炎が噴出する状態だ。

 その最中、少しでも凛太郎の体温を感じようと彼を強く抱きしめても、既に自分は感じることができないと悟り、美奈は絶望していた。

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