第三話 契約④
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「よく聞け!
一度はその生涯を終えたが、神の一人である
––––
「伊魔那美……悪魔は元々、人間?」
「二つを話そう。
まずは日本神話に出てくる
日本で最初の夫婦となった神様じゃ。
そこから多くの神様が誕生するのだが、伊邪那美に嫉妬して我こそはと伊邪那岐と夫婦神になることを計画していた神がおった。
それが
日本神話の話を聞く。
本当は知っている。
だが、これも知らない程で話は進む。
「まあ神話のことは、いきなり言われても難しいだろう。
わかりやすく話すと、伊邪那美が子宝にも恵まれる様子を見て、伊魔那美は嫉妬し自暴自棄となり自ら命を絶った。
だが天国へ行けずそのまま実体を持たぬまま現世へ残り続けた。
実体を持たぬ彼女だが、同時に悪夢のような超能力を得たと伝承がある。
亡くなりはしたが、同じように前世で恨みや嫉妬を持った魂に語りかけ、前世でやり事した物の手助けをすると言い悪魔として現世にとどめる力を得たようじゃ。
現世に残り続けることで、実体を持たずとも人間の生命のエネルギーを吸収し、実体へと近づく。
長い時間いる悪魔は、ほんの一瞬、一秒も満たないが身体の一部分程ならば実体を保つこともできる程にな。
そして、その悪魔はこの世界の人間の精気……寿命を自動的に吸い取る能力を得て、一定までたまると、ほんの僅かだけ亡くなる直前の姿に戻ることができる。
例えば、殺人事件が起きて指紋一つも見つからず犯人も行方不明ということも起こるが、それが原因じゃ。
初めはあくまでも伝承だと思っていたが、伊魔那美の怨念が能力へと転換して、実際に起きているわけだ」
話を止めて、一度深呼吸をする政子。
「現世に残る伊魔那美願望はたった一つ、伊邪那美に深く関わりのある子孫を根絶やしにすること。
他にもいるが、つまりわしら。
僧侶でも成仏でき悪魔を見かねた神々たちが、伊邪那美と特に関わりのある神主や巫女に悪魔祓いを託し、術を与えた。
それがこの戦いの始まりじゃ」
そこまで言い終えた政子は、龍臣の方を見てさらに続ける。
「だが戦いは激しくなり、血統を持つ物だけでは対応しきれなくなった頃……神々はわしらの先祖に伝えた。
結婚等で一族となった物へも協力を要請することとなった。それが、龍臣くんじゃ。悪魔に心臓はないので弱点は頭となるが、それを
まあ、龍臣くんに関してはレオがいるからまた特殊だけど、それについてはゆっくり話そう」
そこまで伝えて、日和は頭の中で整理する。
悪魔の正体、昼間話した相手のことを考えながら。
「あの魂は安らぐのでしょうか」
「その通り。
得をするのは伊魔那美だけ。
わしらは彼女によって現世に残る悪魔を行くべきところへ戻す使命を受けておる」
政子の話を受けて、しっかりと飲み込む日和は「ふーっ」と息を吐く。
現世に残った悪魔のことを考える、胸が痛む。
政子は日和に自分の思いを伝えた。
「どうじゃ……無理にとは言わない。
危険が伴う仕事だ。
だが、神器召喚をしてしまった人間は今後も神々の代行者としての戦争は避けられない。
もしも日和さんが良ければ、ここか別の神社でもいいから必ず神々の代行者と行動を共にせよ。
それか、日本から出た方がいい」
「私は––––」
即答で「やります」と言いたい。
本当の自分を伝えたい。
でも言えない。
理解してもらえないと思った。
「働かせてください!
確かに……初めはちょっと怖かったけど、でも、あの悪魔と話をして行くうちに、なんとか助けてあげたいって思いました。
悪魔を助けたい。
……いや、人を救いたい。
私がどこまでお役に立てるか分かりませんが、やらせてください!
お願いします!」
自分の今日の経験を含め、日和は人の手助けがしたいと強く願った。
愛……それだけを信じて。
彼女の言葉を聞いた政子は、危険な目に合わせてしまうという複雑な感情を抱きつつ、心から感情が和らぐ。
「龍臣くんもそうだった、貴方もそう。
心の優しい、愛情を相手に伝えられる人が、この仕事に向いているの。
貴方の言葉を聞けて、とても嬉しいわ。
こちらこそ、よろしくお願いします」
◆◆◆
窓から陽光がさし、小鳥のさえずりが聞こえる。
眩しさと清々しさが量混じりとなりつつ、草薙凛太郎は目を覚ました。
「ふああ〜」
時計を見ると、朝の6時過ぎ。
中学校の入学式までは期間があり、今は春休み期間だが、陽芽神宮の掃除など手伝いを言われている。
神主の装束を一度見て、だがそれよりも尿意をもよおした。
ジャージ姿の彼は布団をたたんで起き上がると、少し伸びてきた坊主頭をボリボリかきながら、階段を降りた。
トイレの前に到着すると、鍵がかかっている。
誰か先に使っているのだろうと思いしばらく待つと、扉があいた。
中からは白のパーカーにラインの入ったズボン、正反対に腰まで伸びた黒髪をゴムで束ねる女性––––神宮日和がトイレから出て凛太郎に一言。
「おはよう! 凛太郎君」
「ああ、ねえちゃん。おはよ」
挨拶を交わした後、彼はトイレに入って鍵を閉める。
今日の朝ごはんはなんだろう。
目玉焼きかなあ、今日は何をかけようかなあ。
魚かなあ、漬物は嫌いだなあ。
まだ冷めない脳内で食欲のことばかりを考える。
降りた便座にズボンを下げかけた。そこで、ふと我にかえると……叫んだ。
「えええええええええええ!!」
尿意があったことを忘れて、慌てて扉を開けて日和を後ろから声かけた。
「なんで、ここにねえちゃんいるの!?」
驚きのあまり、トイレを飛び出した。
本音が出る。確かに自分が担いで別邸まで行ったことは覚えている。なぜ家に? 彼はズボンがしっかり上がりきっておらず、日和は目があった後に下を見た。
「凛太郎君、そんなことよりもパンツ見えてるよ。私は一応女子だからね!」
「あっ……」
日和に指摘されてすぐに気がつき、もう一度トイレに戻って鍵を閉める。
それから一分隠れてから、顔を真っ赤にした凛太郎が勢いよく扉を開けた。
「な……な、なんで、ねえちゃんが家にいるの?」
昨日はすぐに眠ってしまい、凛太郎は話を聞いていない。
彼の様子を見た日和は、簡潔に答えた。
「私……ここで住み込みバイトすることになりました!」
「ね、ねえちゃんが……えええええええ!!」
本日二度目の凛太郎の絶叫。
昨日初めて会った女性。
参道をで一緒に歩く中での好奇心を忘れない。
だが、実現するとは……凛太郎の叫びを聞き、ついに奥から草薙政子が鬼気迫る表情をしながら現れる。
「朝から騒々しい。中学生になるんだから静かにせんか!」
ゴツン! 政子のゲンコツが凛太郎の頭上にから直撃し、彼は「いてて」と頭を押さえた。
「日和さんには、今日から巫女の住み込みバイトを始めて頂くわ。
凛太郎、失礼のないように」
我が家の決定権は頂上は政子である。
政子が言ったのだからその通りだろう。
凛太郎は興奮冷めやまぬ中「はーい」と泣き目で答えた。
日和は凛太郎を心配することはなく、でも優しく話した。
「凛太郎君、今朝ごはん作るからちょっと待っててね!」
「え? ……ねえちゃんが作るの?」
「もちろん! 家庭科の授業もちゃんと日本で習ってるから!」
そういうと彼女は政子が待つ台所へと向かった。
住み込みバイトを始めた巫女は、今までも、そしてこれからも笑顔で周りを照らすのであった。
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