第6話 冒険の舞台

無事に蓄光石を手に入れた一行は、夕闇が迫るなかギルドに帰ってきた。

そのまま、夜になるのを待ち、月明かりの下に、持ち帰った石を置いた。月明かりに照らされ、ぼんやりと白く光る蓄光石。頃合いを見てブッコローは、その石を懐にしまいギルドの建物の中へ入っていった。

皆がギルド内の明りを一つずつ消していく。暗がりの中で、一緒に冒険した四人はもちろん、ピーをはじめその他のギルドメンバーも含めた皆が、固唾をのんで見守っている。


そしてブッコローは、懐からゆっくりと石を取り出しテーブルに置いた。

5秒、10秒と時が過ぎる。しかし、何も起こらなかった。石は全く光らず部屋は真っ暗なままだった。


──どういうこと?


暗がりの中、首をかしげるブッコロー。


「何だよ、光らねーじゃんか」


ギルドメンバーの誰かが呆れた様に言い、部屋の明りが灯された。


「はー…」


言葉を失いため息をつくブッコロー。

ザキ、マニタ、イクさん、ネーサンも黙ったままだ。皆うつろな目で、黙って石を見つめている。


すると石が置かれたテーブルに一人の男が近づいてきた。眼鏡をかけ、本を抱えたその男は、ギルドメンバーの一人でシバケンという名らしい。そしてシバケンは、手にしていた本を開き、机に置かれた石とを見比べ始める。


「え~と、どうやらこれは蓄光石でなく、蛍光石のようですね」


──!?


「あら、私、なんか間違えちゃったみたいです…」


ザキが小さな声でさらりと言った。

皆一様に驚いた顔で、ザキを見つめる。想定もしていなかった結末、そして、体を小さくしているザキを前にして、何を言うべきか…言葉が見つからず沈黙する。


「ヌハ…」


どこからか不思議な音が聞こえてきた。


「ヌハハ…」


これは…?


「ヌハハハハッ!」


イクさんの笑い声だった。顔を下に向け手で口を覆い、なんとかこらえていたが、ついに堪えきれず笑い出したのだった。それをきっかけに皆が笑い出した。皆が笑ってるのを見て、ザキも一緒に笑い出した。


──!


ギルドに響く皆の笑い声、そして光らない石…、その瞬間ブッコローは全てを思い出した。

頭の中で、様々なシーンがフラッシュバックのように甦る。売れない特殊紙とくしゅし、スタジオのハエ、ドライフルーツ、縛られた雑誌、エレベーターでの蛇腹の痛み、光らないガラスペン…そしてこの世界に来た経緯や、ゆうせかのメンバーのことも。

全てを思い出して、ブッコローも笑い出した。もう笑うしかなかった。おかしくてしょうがなく、涙まで出てきた。


──いやーやっぱ面白れーなこのメンバー、どこの世界にいても変わらねーな…、ちくしょー!どうしてこの世界に動画配信がねーんだ。あったら、あんな粗末な盾じゃなく、金の盾だって狙えるかもしれないのに…


そう思った瞬間、何かの光がブッコローの目を射ぬいた。


──眩しい!




「ブッコローさん起きてください」


誰かが呼んでいる。

はっと、目覚めるブッコロー。


──光ってる!?


光っているのは石ではなく見慣れた照明の灯りだった。見渡せば、そこは有隣堂の伊勢佐木町本店、6階の撮影スタジオだ。


「撮影始まりますよ~」


ザキがおもちゃの車で、ブッコローをつついている。


「ちょ、おもちゃで人、てか鳥をつつくなよ」 

「おもちゃじゃないですよ、これは鉛筆削りです」


たしかに、見るとそれは、赤い車の形をした鉛筆削りだった。いや、今はそんなことより、


「てか、ザキ!お前人間に戻ったのか?」

「え?ブッコローさん、何言ってるんですか、ひょっとして寝ぼけてます?」


そう言って「あはは」と笑い出した。すると、まわりにいた皆も笑い出した。問仁田、郁さん、大平ねーさん、みんな人間に戻っていた。人間に戻って笑っていた。下を向いたP、眼鏡の芝、ドライフルーツの内野、縛りの細川もいて皆笑っていた。


恥ずかしさと嬉しさでブッコローも笑い出した。

そして、笑いながら思った。


やっぱりブッコローの居場所はココなんだな。

このおかしな連中に囲まれたこの世界が、ブッコローの冒険の舞台なんだな!


そう改めて思うブッコローなのであった。

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異世界行ったら、ほぼ「有隣堂しか知らない世界」だった件 才波津奈 @saibatuna

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