第5話 蛇腹の恐怖

ザキが興奮した様子で、光る石を指さしていた。どうやら見つかったようだ。


「あれに間違いありません!」


確信した顔で皆に振り返って言った。その声を聞き、皆で歓声を上げ急いで採取にとりかかる。大きな岩に埋め込まれているその光る石を、傷つけないように少しづつ削りとっていく。

しばらくして、依頼された分の石を集め終わった頃だった。


ガラガラガラ!


一同が帰り支度を始めていると、突然近くの岩山からいくつも石が崩れ落ちてきた。


「あぶない!」


皆、口々に叫びながら、落石を回避する。

安堵したのもつかの間で、崩れた岩山の粉塵が止むと、その向こうから大きな蛇が姿をあらわした。人間一人ぐらいなら丸呑みしそうな大きさの大蛇だ。

そいつが大きな鎌首をもたげ、ちょろちょろと長い舌を出しこちらを睨んでいる。さらに体をくねらせて岩山から這い出し、全身をあらわした蛇の尻尾は、鋭利な刃物のようなものが、いくつも数珠繋じゅずつなぎした形をしていた。その凶悪なフォルムを見ただけで、直撃を受けたら無事で済まないことが想像できた。


「なんなんだ、あれは…」


あまりのショックで、凍りつくブッコロー。


「あれは、蛇腹剣蛇じゃばらけんじゃという非常に凶暴な魔獣です。尻尾についた蛇腹剣じゃばらけんは、岩をも切り裂くと言われています」


マニタの言葉に、蛇腹剣蛇って、山〇山みたいな名前だな…いやそんなことより、ブッコローは「蛇腹じゃばら」という言葉に、非常に不吉なもの覚え体に戦慄が走った。きっと痛い思いをする、そんな確信めいたものを感じたのだ。


「あの蛇は自ら生んだ卵を温める時、地熱を利用すると聞いたことがあります。ここへ来る時の吊り橋を壊したのも、やつかも知れません」


マニタがそんなことを言ってる間にも、大蛇は近づいてきた。大きな口を開き、今にも襲い掛かってきそうだ。


──逃げるべきか!


しかし、この足場の悪い岩場では、全員が逃げ切れる保証はない。「ここは戦うしか道はない!」パーティメンバーの皆は、そう決意を固めると、武器や防具を構え、果敢に立ち向かっていった。


そんな中、戦う術を持たないブッコローは、上空をただ逃げ回るしかなかった。祈るような気持ちで、眼下の戦いを見守っていく。


パーティメンバーは、敵の攻撃をマニタが受け、ザキとイクさんで攻めるという連携した動きで対処していた。しかし、相手が怯む様子はなく、繰り返される攻防の中、しだいに劣勢を強いられていった。


気づけば、ザキが振るうガラス剣は、既に幾筋もの亀裂が入り、今にも砕け散りそうだ。マニタの盾にいたっては、もとのデコボコ加工は見る影もなく、もはやボコボコ加工だった。イクさんの放つ弓矢も相手の固い皮膚に跳ね返され、普通のダメージすら入っている様子はなかった。

そんな中、彼らの後ろで狂ったようにフラフラ踊り続けるネーサン。あたり一帯は、なかなかな地獄絵図の様相を呈していた。


そしてついに、敵の尻尾、蛇腹剣の一撃をまともに受け、マニタの持つ盾が吹き飛ばされた。衝撃で尻もちをつくマニタ。そこに大きな口を開いた蛇腹剣蛇が、シャーと声をあげ鋭い牙で襲い掛かる。


──やられる!


息をのむブッコロー。


ガシャーン!


突然、大きな岩石が蛇腹剣蛇の頭に直撃した。

いつの間にか、マニタの後ろに大型バスほどあろうかという巨大な恐竜のような生物が、唸り声をあげて立っていた。その生物が自身の角で岩山を、蛇腹剣蛇へ向け、弾き飛ばしたようだった。


「あれは!…マニケラトプス」


ザキが声をあげる。


「マニケラトプス?」

「ええ、一部の者からは、神獣として崇められる、伝説の生物です」


──神獣…あれが?


ザキの説明に、ブッコローがそう思うのも無理はなかった。その生物、マニケラトプスは、のっぺりしたフォルムにショボショボと眠たげな目をしていて、一見すると手抜きのゆるキャラのように見える。

正直、神獣というより珍獣という感じなのだが…、それでも、マニケラトプスは鋭い角を持っていた。その鋭い角で相手の攻撃をいなしつつ、巨大な体で突進を繰り返し、相手に確実にダメージを与えていった。


その体当たりを何度も受け、力の差を悟ったのか、やがて蛇腹剣蛇がすごすごと退散していった。

皆が歓声をあげる。九死に一生を得たマニタは涙を流して、マニケラトプスに土下座をして感謝を示していた。

マニケラトプスは、皆の無事を見届けると、何事もなかったかのように去っていった。

こうして僥倖に恵まれた一行は、なんとか無事に蓄光石を手に入れることができた。

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