第4話 険しき道
イセザキ山への道のりは平たんではなかった。ギルドを出発し、林を抜け、深い森に入り、けもの道を進んでいく。その森を抜けると、ようやく前方に山が見えてきた。あれが目指す、イセザキ山のようだ。
まだ、道半ば。それでも、道中で魔獣の影は見えず、ここまでは順調だった。
「一旦休憩にしましょう」
ザキの一言で、用意した食事をとることにした。ブッコローも羽を休め、もらったサンドイッチにくちばしを近づける。するとどこからともなくハエの大群がやってきた。
「なんだ?」
「ジャマンバエです」
驚くブッコローにイクさんが答える。額に八の字眉を浮かべた困り顔でさらに続けた。
「なんか、いつもいい感じの時に邪魔しにくる、厄介なハエなのです」
そう言ってる間に、用意した食料はハエの大群にたかられ、もはや口にできる状態ではなかった。しかたなく、食料を諦めその場を逃げるように後にした。
かなりの距離を走り、やっとの思いでハエを振り切ることができた。辿り着いた池のほとりで一息つく一行。食べ物を失い、しかたなく水で空腹を満たすが、皆どうにも力が入らない。
その時、池沿いの道を行商人らしき一人の女がこちらに向かって歩いてきた。ウチノと名乗るその女は一行の意気消沈した姿を見て、どうしたのかとたずねてきた。
「…そういうわけで、食べ物を全てとられてしまったのです」
「それはとんだ災難で…」
ネーサンの言葉に、ウチノが同情の目で相槌を打つ。そして、不憫に思った彼女は背負っていた荷物から商売用のドライフルーツを取り出し、ブッコローたちに分け与えてくれた。皆、夢中で色鮮やかなドライフルーツを口にする。疲れた体に果実の甘味はありがたく、またその好意に元気をもらった。
気力を取り戻した一行は、ウチノに礼を言い、イセザキ山を登り始めた。細く険しい山道を進んでいくと、途中大きな川が流れる渓谷に出た。勢いのついた清流がしぶきをあげる深い渓谷で、川を渡るための吊り橋がかかっている。
しかし、その吊り橋は縄があちこち千切れ、
ブッコローは飛べるからいいとしても、他のメンバーが一人渡るのも危険に見えた。
皆が途方に暮れていると山道から木こりの男が現れた。ホソカワと名乗るその男が、どうしたのかとたずねてきたので一行は橋を指さし事情を説明した。
「どうしも、橋を渡って先へ進みたいのです」
熱心に語るザキの様子を見ていた男は、
「ちょっと待ってろ」
そう言うと、山に入り、すぐに木材と木のつるを集めてきた。そして、それらを目にもとまらぬ速さで縛り上げ、みるみるうちに吊り橋を修復していった。そのあまりの縛りの早業に皆驚愕し、感嘆の声をあげる。
「なーに、普段の生活には役立たねーよ」
そう言って謙遜する男に皆は礼を言って先へ進んだ。
橋を渡ってからは、急こう配の道が続いた。一行は、言葉もなく黙々と登り続け、なんとか山頂付近まで辿り着いた。活火山なのか、所々で蒸気や噴煙の白い煙がふきあがり、大きな岩がゴロゴロしている。
──これじゃ、ゆで鳥になっちまう…
ブッコローが心の中で弱音を吐いた時、
「あった!ありました!」
ザキの明るい声が周囲にこだました。
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