異世界で獲得したスキルがダサすぎる。

月猫

獲得したスキルとは。

『コートは絶対に羽織ること』


 師匠から、そう教えられた。

 真夏でも真冬でも、一年中をコート一枚で散歩する。

 それが、師匠と俺がこの世界で生き抜くために獲得したスキルだ。


 ちなみにコートの前ボタンは、決して閉めては行けない。

 両手で軽く前を閉じるだけにしておくのだ。

 そして、闇に紛れて行動する。

 月明かりは絶対に必要だ。

 明るすぎる繁華街をウロウロしてはいけない。

 人気の少ない路地裏辺りの電灯の下に立ち、人が通るのをじっと待つ。

 二人以上で人が歩いてきたら、スルーしろ。

 男性もスルーだ。


 女性が一人で歩いてきたら、チャンス!

 すかさず、女性の前に仁王立ちをして、コートを広げ自分の裸を晒す。


 大概の女性は驚き、一瞬だが体を硬直させる。

 そのすきに、体当たりをぶちかまし金目の物を盗み取る。


 それが、異世界転生で獲得した俺のスキルだ!


 なんて姑息なんだ。

 なんて情けない。


 だが、非力で低知能、そして顔面偏差値の低い俺が、この世界でようやく手に入れた生きるためのスキルなんだ。


 師匠は言っていた。

「わしは、これで三十年この世界にいる。一緒に転生してきた仲間は大方死んだ。魔物を倒して勇者になろうとした者たちは、生き残れなかった。それが、現実なんだ。いいか、このスキルを恥ずかしいと思うな。ここには、わいせつ罪というものはないからな。安心しろ」


 そう、師匠は凄い。

 勇者ではないけれど、この残酷な世界で生き抜いているんだ!

 

 


 ふぅ。

 何を書いているんだろう、私……

 異世界ファンタジーと夜這いを絡めるなんて、アホかな。

 作家になって5年。

 売れない作家どころか、一冊も書籍化できていない。

 この作品も、恐らくボツよね。

 少し、頭を冷やそうかな。


 こうして、私はぶらぶらと深夜の散歩へと出かける。

 すると、電灯の下に人影を見つけた。 

 背の高い男が、コートを着て立っていた。


「えっ? まさか……ね?」

 

 思わず、足がすくんだ。


      完。


 


 


 


 


 





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