街灯の無い街
涼
暗闇に同化したサビ猫
「そうだ。散歩にでも出かけるか…」
深夜2時。僕は、突然思い立った。特に、理由は無い。ただ、出かけたくなった。
僕は、エリートサラリーマンだった。東京のキラキラした夜景にいつも照らされ、何だか知らないが、とても良いマンションに住んでる。だけど、僕はある日、仕事を辞めた。上司には引き止められた。自分で言うのもなんだが、僕は仕事が出来たから。辞める時、上司に逢う事すらしなかった。電話一本だった。それでも引き止めてくれた上司には、少々申し訳ない、とは思ったが、エリートの道をスッと去った。
マンションも引き払い、前々から考えていた田舎で暮らす事にしたのだ。と言っても、両親は早くに亡くなっていたから、一人には変わりなかったが。
僕は、少し、疲れたのかも知れない。そう自分を解釈しないと、この状況を自分でも理解できなかったのだ。
「あぁ…この街は街灯すらないのか…。東京とはまるで違うな…」
田舎の田んぼ道で、ひとりごとを呟きながら、僕は街灯の無い道をただただ歩いた。そうしたら、ひょっこり、猫が現れた。サビ猫だ。
黒と、濃い茶色、体は何とかその色だと分かったが、顔は深夜に同化して真っ黒だった。そのサビ猫は、きっと人慣れしている。僕の方に向かって大爆走で駆け寄って来たのだ。猫の声を聴きながら、僕は猫を抱き締めた。
すると、なんでだか、僕の目から次から次へ涙が零れて来るではないか。
「お前は…僕の事を普通に扱ってくれるんだな…」
ポロッと口から出た言葉は、それだった。僕には、恋人がいた。しかし、その
自分さえもだ。
「頼む。もう少し、こうして抱き締めさせてくれ」
そう言って、深夜の散歩道で、僕はそのサビ猫を抱き締めた…。
街灯の無い街 涼 @m-amiya
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